第34話 私は無駄なことが嫌いです

 私は目を開けた。ベッドに横たわっていても、意識は完全に覚醒していた。三ヶ月前の悪夢のような脅迫メール。思い出したくもないものを思い出してしまった。


 ドン、ドン、ドン。ドン、ドン、ドン。


「町谷です。開けてください」


 ついに来た、のか。


 ドアの音ともに人生のゴングが鳴る。心臓が暴れだした。軽い吐き気も催してきた。だが、ここまで来てやらないわけにはいかない。


 ゆっくりとした動きで起きあがった。靴を足にはめ、靴ひもを結ぶのに無駄な時間を費やす。少しでも時間稼ぎをして後回しにしたかった。


 ドン、ドン、ドン。


 ドアを叩く音は鳴りやまない。靴ひもを結び終え、時間を稼ぐ方法がなくなった。仕方なく立ち上がり、重い足取りでドアに近づく。震える手でドアノブを掴んだ。呼吸を整えてから、思いきってひねった。


 町谷が不機嫌そうに顔を覗かせた。小さな手提げバッグを持っていた。


「無駄に待たせますね。要件は察しがついていたでしょうに。私をイラつかせて良いことはないはずですよ。さあ、中に入れてください。見られたらまずい」


 私は慌てて町谷を入れた。同意を求めることもなく、町谷は尊大にベッドに腰かけた。


「私は無駄なことが嫌いです。前置きというのも無駄なものの一つです。というわけで、早速本題に入りましょう。あなたがお求めになっているのはこちらです」


 町谷は手提げバッグからロープを取り出した。昼寝したときに夢に見たロープとほぼ同じだった。井口と真渕の索条痕にピタリと一致する。


 私はしばらく手を出さずにただ眺めた。町谷は舌打ちした。


「何をしているのですか。早く行ってください。あなたに課せられたことは和泉を殺すこと、それだけなんですから。さあ早く」


 私は決心しかねていたが、町谷をあまり刺激するのも良くないと判断した。無言でロープを受け取る。


「殺すときは、周囲に声が漏れないように気をつけてください。あなたの方も和泉の方も」


「分かりました。では」


 これ以上こいつに話しかけられたくなかった。ロープをポケットに丸めて押しこみ、ドアに手を掛けた。

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