第17話 てめえは俺が犯人だと思うか?
真渕と向かい合わせで二人きりになった。なんとも気まずい。私は視線を合わせられなくなり、かきこむようにオムライスを貪った。皿はすぐに空っぽになった。
すると唐突に真渕が口を開いた。
「てめえは俺が犯人だと思うか?」
突然だったので、私は面食らった。口をパクパクさせていると、真渕は苦笑した。
「特に深い意味があるわけじゃねえ。正直に答えろ」
これまでに比べると丸い言い方だったので、内心ほっとした。落ち着いて返すべき言葉を探した。
「別に、絶対真渕さんとは思っていません。正直怪しいなーとくらいには思ってますけど。その程度です」
「じゃあ話を変えるが、動機は何だと考えている? 井口を絞め殺した動機だ」
「それは……分かりません。そもそも、ここに集められているメンバー同士がどのような関係にあるのかも分かりませんし。私は黒栖さんの招待状に引き寄せられるままにやってきただけなので」
「てめえも金目当てか。台風の間ここにいるだけで五〇万円だ。そりゃ誰でも来るよな。黒栖の太っ腹に感謝だぜ」
真渕は黄ばんだ歯を剝き出しにしてニヤリと笑った。私は「まあ、そんなとこです」と答えておいた。
まもなく、厨房からぞろぞろと四人が戻ってきた。町谷は焼きそば、恵子はハンバーグ、美里はパスタを持っていた。黒栖はというと、高野豆腐が乗った皿を抱えていた。そんなものもあったんだ。
黒栖が私の視線に気づいた。
「うまそうだろう。他とは別の引き出しに入れてあった」
恵子が心外そうな顔をした。
「入れてあったとは何かしら。私が作ったのよ? 自然発生したわけじゃないから」
「ああ。もちろん分かっている。感謝もしている。ひとまず食おう。腹が減った」
言い終わらぬうちに、黒栖は豆腐を箸でつまんだ。一瞬ためらいを見せてから、口に放りこんだ。「うまいな」と呟いた。黒栖にも異変がなさそうなのを確認し、恵子、町谷、美里も自分の料理をつついた。
――誰も苦しみだすことはなかった。
なんだかんだで全員空腹だったらしく、ささやかな食事は瞬く間に終了した。食器を片づけ、再び六人で食卓に腰を下ろした。
町谷が口火を切った。
「この後、どうします?」
真渕が、何を今更と言いたげな表情をした。
「どうするもクソもねえだろ。出ることはできねえんだから、ここにとどまるしかねえ。迎えは手配できてるのか、黒栖」
「ああ。台風が通りすぎた後だがな。三〇時間後くらいか」
「まだ一日以上もあるのかよ。ふざけんなよ」
「俺に言われても知らん。文句は殺人犯に言ってくれ」
「てめえにも責任の一端はあるだろうよ。なんでよりによってこんな嵐の日に人を集めたのか答えやがれ」
「さあな。今日が空いていたから今日にしただけだ」
「もっと場所を選べただろ。頭おかしいのか?」
「お前だって金が欲しくて来たのだろう。嫌なら来なければよかった話だ。俺にばかり不満をぶつけるな」
一理はある。案の定真渕は反論の余地を失ったらしく、口を結んだ。また沈黙が流れそうになったので、私は話を変えることにした。確認してみたいものがあった。
「井口さんの遺体はどうしたのでしょうか?」
美里が顔をしかめた。
「部屋にそのままやな。結構太ってるから、運ぶのは重労働やねん。運ぶあてもないし」
「でしたら、遺体の状況を確認しに行っても構いませんか?」
美里は町谷に視線を送った。町谷は瞬きした。
「もちろん構いませんが……。遺体以外何もありませんよ。それに溝野さん、大丈夫ですか。先ほど気絶されてましたが」
「はい、そこは心配ありません。ちょっと驚いてしまっただけです」
私は一人で行こうとして、思いとどまった。一人はよくないかもしれない。
「誰かついてきてくれませんか?」
「やっぱり怖いんじゃないですか」
町谷がにやついたが、私は首を横に振った。
「証拠を隠滅したと思われたら嫌だからです。証人としてどなたか来てもらえませんか?」
「ほんなら美里が行こか? アリバイあるから証人にはピッタリやろ」
美里が手を挙げてくれたので、二人で井口のいる二一〇号室へと向かった。階段を上がる途中、美里がコソッと尋ねてきた。
「美里と望実ちゃんと町谷のアリバイって完璧やと思う?」
言葉に詰まった。どう答えたものか。私は慎重に言葉を紡いだ。
「私なんかには分かりません。でも、何かすごいトリックでも使えばできるかもしれませんね。黒栖さんの目を欺くことができればいいだけですから、方法はあるかもしれません。どうやるのかは知りませんが。あ、もちろん私はやってませんよ」
美里がぷっと吹き出した。
「誰も望実ちゃんがやったとか言ってないやん」
「じゃあ、町谷さんを疑ってるんですか?」
「別にそういうわけでもないって。特に意味があって聞いたわけちゃうで」
「答えにくいかもですが、和泉さんは誰を疑っているんですか?」
私の意に反して、美里は躊躇なく即答した。
「真渕に決まってるやろ。他の人は殺人とかしなさそうやし、真渕が一番簡単に殺せるところにおったんやから。望実ちゃんはそう思わんの?」
「うーん。まだ考えがまとまっていません」
そんなことを言いながら階段を上りきると、廊下に出た。右に曲がって進むと、二一〇号室の前に来た。
「開けますね」
私はドアを引いた。
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