第15話 嘘をついている人物が三人の中にいます

 ――勝海はスマホの一時停止ボタンを押し、双眼鏡を構えた。「航行は順調ですね」とつぶやき、


「結局、三須田は警察の捜査網をくぐりぬけました。あとに分かったことですが、長瀬警部はやはり家で静養していたそうです」


「宮浜さんはさぞ叩かれたんだろうな。お気の毒に」


 鴨尾は思わず宮浜に同情した。自首した人間が腰縄を切って逃げるとはつゆほども思わなかっただろう。勝海はうつむいた。


「はい……。減給処分となりました。ええっと、話を戻しますね。署内の犯人候補として挙がった人物が三名いました。一人目は、留置係のもんさん。三須田への差し入れの中身を検査した人物です。あるとしたら、差し入れ主との共謀ですね。二人目は、休憩室にいた白石警部補。宮浜さんが出ている間に取調室に侵入した可能性です。三人目は、補助役であった金子巡査部長。こちらは、取調室を出るときに後ろ手に渡したという可能性です。宮浜さんが先に取調室を出たので挙げられた説です」


「それ以外にはいないのですか?」


 森が口を挟んだ。勝海は頷く。


「三須田の身体検査後に一人で渡せた人物はこれだけです。署内に複数犯いるというのは……ありえなくはないですか?」


「いえ、そういう意味で聞いたんじゃありません。OKです。オールコレクト」


「じゃあ、続けますね。三人それぞれの証言です。加門さんは『差し入れ主は三須田の妻だった。中身は二五〇〇〇円の現金と歯ブラシだった。特に怪しい点は見当たらなかったので通した』。白石警部補は『私は休憩室で喫煙していただけです。何も知りません』。金子巡査部長は『僕を疑うとは心外ですね。後ろ手に渡すとか、無理ありますよ。宮浜さんに呼ばれたからついていっただけです』と」


 鴨尾は反芻してみたが、何も不自然な点はないように思えた。


「結局三人とも決め手に欠け、〝裏切り者〟は分からずじまいです。私の話は以上です。長くなってしまいました。すみません」


 勝海は頭を下げた。佐山が軽く拍手した。


「ご苦労。詳しすぎるほどに分かったよ。で、天ノ川、どう思う?」


 ずっと無関心そうにレーダーを眺めていた天ノ川が、ビクッと背筋を伸ばした。


「……私ですか?」


「君なら何か思うところがあるんじゃないかな、と」


 天ノ川は首をかしげる。


「その〝裏切り者〟が分かったとして、何か役に立つんですか?」


 鴨尾にはトンチンカンな質問としか思えなかった。


「そりゃあそうだろう。神嵐館の被害者の中にミスターⅩが紛れてるんだから〝裏切り者〟が犯人の第一候補じゃないか?」


 天ノ川は首を振った。


「〝裏切り者〟は神嵐館の殺人犯ではありません」


「なぜそんなことが分かる?」


「ミスが初歩的すぎて、ザコという他ないレベルです。神嵐館の真犯人はもっと狡猾です。断言してもいいです」


 意味が分からない。


「何の話だ?」


 天ノ川は鴨尾の質問には答えず、


「嘘をついている人物、すなわち〝裏切り者〟が容疑者三人の中にいます」


 ひょうひょうと言ってのけた。

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