第51話 魚三昧

 野営用の魔石コンロを出して魔石をセットする。ツマミを回して火をつける。


 中央基地にはこのコンロが貸出されていてなかったから持って来られなかったのだが、東北基地にはあったので借りてきた。


 どうせ帰りに寄るんだから良いでしょうと基地長からお許しが出た。生きて返しに来なさい。と暗に言っていると俺は感じたんだが、真相はどうだか分からない。


 油を敷いて切った魚を投入する。煮物にする気だ。味付けは麺つゆとみりんと少しの醤油だ。これだけでだいたいいける。少し酒を入れるといいかもしれない。


 魚の香りと出汁の香りがしてきた。周囲にいい香りが漂う。隣でお腹を鳴らしてジィっとみている冬華。今は「待て」をくらっている状態である。


 煮物を作っている間に片手で串に指した魚を持ち手から出した炎て炙る。焦がさないように火力を調整するのが難しい。


「それっ! 早く欲しいですわ!」


 手を伸ばして奪いに来る冬華。それを何とかかわして焼いていく。まだ片面しか焼いてないのだ。


「もう少し待て! もう片面焼くから!」


 いい感じに茶色く色付いてきて魚の焼けるいい香りが俺の腹も刺激する。「ぐぅぅぅ」と腹が唸りを上げた。


 目の前の魚に釘付けとなり、食べちゃおうかなとちょっと思ってしまった。それを見透かされたようで。


「いただきますわ!」


 俺の手から魚を奪い取って貪り食べ始めた冬華。なんかだんだと行儀が悪くなってきていて、野性的になっている気がするんだが。気のせいだろうか。


 まぁ、誰も見ていないから良いんだろうけど。このままだと中央基地に戻った時、凄い野蛮な人間になっていそうで心配してしまう。この話し方で野蛮な食べ方をしているのはかなりギャップがあると思う。

 

 むしろ、魅力的なのか?

 人によるか。


「あー! ずるいっすよ! 自分も腹減ったっす! っていうか何もしてないじゃないっすか! 何先に食ってんすか!?」


 竿を持って慌てて戻ってきた雷斗。その手には魚が入ったバケツを持っている。


「それ焼いてやるから文句言うなよ」


「早くやって欲しいっす。雷じゃ焼けないっすからね」


「その雷でここら一体感電させたら凄い数の魚取れるんじゃないか?」


 その提案には怪訝な顔をする雷斗。なんか気に入らなかったんだなと分かった。


「邪道じゃないっすか? それじゃぁ、釣りじゃないじゃないっすか」


「あっ、釣り的にってことね。人としてとかじゃなくね」


「そりゃ魔物殺してるんすから人的な方は今更だと思うんすよ。なんか最初はいたらしいっすよね? そういう共存をした方がいいという派閥みたいなの」


 雷斗の言っているこの派閥は実はまだ地下深くで残っているのだ。魔物と共存すればいいとか分かり合えると思っている連中がいる。


 話ができる四天王などと会えばその考えが加速するのとだろうと思う。その連中がなぜ引っ込んだのかと言うと、理由は簡単。


 魔物に食われたからだ。分かり合おうとして近づいて言ったのだ。ジスパーダがいくら言っても聞かなかった。だから、仕方なく見捨てたのだ。そう。俺達は見捨てた。


 それにも賛否両論あったが、言っても聞かない人達にどうしろと言うのだろうか。検問のところで通らせろとただを捏ね、迷惑をかけてまで壁の外へ行きたがったらしい。


 結果、全滅。これでわかっただろうと思ったのだが、残った人達で接し方が悪かったとかなんとか言ってまだ組織は続いているらしい。


 なんとも水と油とはこういうことを言うのだろう。


「ほぼ壊滅したけどな。さぁ、出来たぞ?」


「あっ、ありがとうっす!」


 焼けた魚を渡すとかぶりつく雷斗。美味そうに食べている。その頃には煮物もできてきた。火を止めて器に持っていく。


 千紗は大人しく待っていたようだ。


「千紗は、よく待ってたな」


「子供みたいに言わないでくださいよ。待てますよ。このくらい……」


 その発言には黙っていられなかった者がいた。


「ワタクシが子供だって言いたいんですの!?」


「いいから食え」


 前のめりに反論してきたが、頭を抑えて座らせる。子供だという意見には俺も賛同しているからだ。腹減って不機嫌になり、食べたくて仕方なくて一番最初にかっ食らう。どう考えても子供だろうが。


 千紗にも焼き魚を渡してやって自分の分も焼き始めたのだが、ここで俺の腹を満たす前の伏兵がいたのだ。


「おかわりですわ!」


「わかった。少し待て」


 仕方がないので今焼いている分を渡すことにした。保護者とはこういう気分なのだろうなと子供はいないが理解できた。親って大変だな。


 自分の分を再び焼いて食べて始めた。振った塩の量も丁度よく、脂の乗った身が口の中でほぐれて行く。そして鼻から抜けていく香ばしい香り。


「うまっ……」


「自画自賛っすか?」


「雷斗は、おかわりなしっと」


「あぁ! じょ、冗談っす! おかわり欲しいっす!」


「はははっ! 冗談だ。今やる」


 また魚を焼いていく。

 この時間はなんだかキャンプしているみたいで楽しい。


 魔物が来ないのは不思議だが、この辺はあのデカいゴブリンの縄張りだったのだろう。他の魔物が来ることは無かった。


 車中泊だが、ゆっくりできたのであった。


 釣りは良いな。そう実感させられた日だった。


 

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勇者ジン、帰還した現代でも無双する ゆる弥 @yuruya

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