第50話 地上に到着

「トンネル突入します!」


「酸素準備しろー」


 千紗の掛け声に反応して、俺も後ろの二人に注意を促す。


「了解っす!」

「してますわ!」


 酸素ボンベを準備してトンネルへと突入する。


 ライトはついているが、この真っ暗な空間というのは閉塞的な感じがして閉所恐怖症の人はダメだろうな。


 真っ暗な中進んでいくが進んでいるのか止まっているのかの感覚さえわからなくなってくる。一応ハイビームにしているんだが、先も真っ暗である。


 ただ嬉しいことに魔物は出てきていない。

 夜行性のやつが居てもおかしくないんだが。


「なんか意外と大丈夫そうですね?」


「あぁ。まぁ、油断しないでおこう。千紗に倒れられたら困るからな」


「はい。一応マスクしておきます」


 暗がりの中でシュコーシュコーと鳴っているので音だけ聞くと海底に沈んでいるような気になってくる。


 実際海底だから間違ってはいないのだが。

 

 どのくらい走っただろうか。

 一時間以上は走っているかもしれない。


「やっぱり長いっすね?」


 酸素も無駄にならないように様子をみて外したりしていたので半分ほど消費している。あまり長いと心配だが、感覚的にはそろそろな気がする。


「あっ! 明かりが見えます!」


「おぉ。ようやくか」


 明るみの中へ突っ込んでいく。

 眩しすぎて瞼を開けられない。

 車も一旦停止したようだ。


 目が慣れるまで少しの間瞬きをする。


「わぁぁぁぁ! 山だ!」


 言葉が終わるまでの間にまたトンネルへ入った。


「地上に出たけど、今度は山なんだな」


「ですねぇ。これ函館まででしたっけ?」


「そうだな」


「じゃあ、終点までいきまーす!」


 握りこぶしを突き上げて元気よく走っている。なんだか、暗闇にい過ぎてへんなテンションになっているな。


 函館に着くと無理やり駅のホームへと上がり、また階段を下り、地上へと降り立った。


 もう日が傾き始めていた。


「なぁ、釣りしない?」


「うわぁぁ。でたぁ」


 千紗がオーバーにリアクションするので後ろの二人も笑っている。


「えぇ!? やらんか?」


「仕方ないなぁ。でも、釣れなかったらどうするんです?」


「釣れなかったら保存食食べるだけだろ?」


「……それもそうですね」


 納得したのか、港に向かってくれた。

 街は本州に比べてかなり破壊されている箇所が多い。潰されているような感じだ。


 港に行く途中でかい奴がいた。

 北海道だからか?


「なんですかあれ!?」


 三メートルはあるゴブリンのような魔物。


「わからん。あれゴブリンだよな?」


「でか! キモッ!」


 千紗よ。ちょっと自重しなさい。


「港に行くのに邪魔だ。おれが始末する」


 車からおりるとその音でこちらに気づいたのかこちらを見るゴブリン。そいつはこちらを見るとニタァと笑っている。


(あぁ。コイツはここで好き勝手やって来たんだな。端っこだもんな。北海道基地では手が届かないのかもしれない)


「飛炎」


 燕のような火の粉が無数に飛んでいく。

 まともに相手するとデカいから面倒だ。


「ギガァァァ!」


 火の粉を振り払うように腕で振り払うと握りこぶしをこちらに振り下ろしてきた。


 ────ズズゥゥゥゥンッ


「ギギィィ」


 笑っているが、別に潰された訳ではない。


「おい? 何笑ってんだ?」


 片手で受け止めた腕を切り落とす。


「ギィガァァァァ!」


 刀に魔力を込めていく。

 青い炎が鞘から噴き出した。


青炎一閃ほむらいっせん

 

 ゴブリンを縦に真っ二つに切り裂く。

 所詮ゴブリンであった。

 だが、これで数が多いとまずいかもしれない。


「他に居ないか?」


 周囲を確認する。

 デカいから居たらわかると思うがいないようだ。

 デカくなると繁殖力が弱くなるとかそんなとこだろうか。


「釣りするっす!」


 雷斗が竿を持って岸壁へと行くと、遠くへ疑似餌を投げた。

 宙に舞って飛んでいく様は餌まで楽しそうに揺れているようだった。楽しそうに海に落ちる。


 少しずつ引きながらリールを巻いていく。


「あれ? 来たんじゃないっすか!?」


「すごいじゃーん!」


 千紗がはしゃいでいる。後ろにいる冬華も興味津々で海を凝視している。もしかしたら魚があまり得意ではないのかもしれないな。


 リールを引いていくと段々と魚の全貌が明らかになって来た。なんだか、トゲトゲしている。


「なぁ!? なんすかコイツ!」


 見たこともないトゲトゲの魚?が釣れた。

 異世界化してから海の生態系も何かが変わったのかもしれない。見た目でわかる。これは。


「こんなの食べられないじゃーん!」


「まぁ、まだ始まったばっかりだから、もう少し釣ってみよう」


 俺は宥めるが、冬華の目が荒んでいて心配だが。


「ワタクシ見たくもないですわ」


「まぁ、そう言うなよ。マトモなの釣れたら焼いて食おう?」


 ヨダレをジュルリとすすると口をつりあげて笑った。なんだか恐いんだが。


「それは美味しそうですわね」


 酒と食にはめがないんだな。そういう所は素直でいいと思うぞ。うん。


 それから一時間位釣っていたが、大半が異形の魚。マトモなのは数少ないが、幸いなことに獲物は沢山いた。


 誰も釣りをしないし量もしてないからだろう。この辺は何年も誰も居ないだろうからな。


「早く食べましょう!」


 焦っている冬華。お腹すいたんだな。これから夕食だ。

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