第42話 木蓮②

木蓮さんは、家族が自分のパーソナルスペースに入ることもあまりいい顔をしないそうだ。


「だから会社でも人を遠ざけて、一人で頑張り過ぎてしまうんじゃないかと心配で…」


「心配ですよね、大切な弟さんなんですから。彼がどの部署になるか私にはわからないんですけど、木蓮さんが無理をしていないか気にするようにしますね」


「蝶々さんにこんなことをお願いするつもりで食事に誘ったわけではないのですが…そのお気持ち、嬉しいです。ありがとうございます」


「いえ、元々新入社員のことは気にかけるようにするつもりでいたので。彼らは不安でいっぱいなのをなんとか堪えて頑張っていると思うから、助けてほしい時に気づいて手を差しのべられる先輩でいたいなと」



自分で言いながら、恥ずかしくなってしまった。



「すみませんなんかこんな正義のヒーロー気取りみたいなこと言ってしまって」



心の中で思ってる分にはいいけれど、人に話すようなことじゃなかったわ。

 熱くなる頬を誤魔化すようにアイスコーヒーに口をつけた。



「気取りじゃないですよ」



しかし蜜野は蝶々の言葉をあっさりと否定した。



「それで助けられた新人にとって、蝶々さんはヒーローだと思います」



蜜野さんは昔ある会社で働いていたという。けれど、思っていたのと異なる労働環境が自分の性格とは合わずこのままではだめだと判断して、その会社を退職しカフェを併設した花屋を始めたそう。



「私は当時、つらいのを誰にも相談できなくて、凄く苦しい思いをしました。結果的にその会社はやめてしまいましたし。木蓮は私よりも人に頼ることが苦手なので、同じような体験をさせたくなくて。…でも蝶々さんがいるなら安心です」


「木蓮さんのパーソナルスペースに入らないように気をつけながら、見守りますね」

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やたらと世話を焼きたがるハイスペックな地球外生命体(居候)と男装美少女 青時雨 @greentea1

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