第41話 木蓮①

偶然携帯を見ていたのか、返信は思ったよりも早く返ってきた。



『はい、木蓮という弟がいます。お知り合いでしたか?』


『いえ、先ほど新入社員の自己紹介で知りまして』



 メールのやりとりから、その日花星さんと食事に行くことになり、コスモスにそのことを伝えて、仕事を終えた後待ち合わせ場所へと向かった。



「お待たせしました」


「いえ、私が早く着いただけですから」



 花星さんは息切れしていて、走ってきてくれたことがわかる。

 彼に勧められて入ったお店は、落ち着いた雰囲気のイタリアンレストランだった。



「驚きましたよ、まさか木蓮の入社した会社で野薔薇さんが働いていたなんて。私たち縁がありますね」


確かに縁がある。こうした人との縁は不意に訪れて、なぜかひとつの縁は他の縁にも繋がっている。不思議なものだわ。



「木蓮、どうでしたか?」


「花星さん…木蓮さんと呼んでもいいですか?。花星さんも花星さんなので」


「もちろん。それに私のこともよかったら密野って呼んでください」


「わかりました。なら私のことも」


「…蝶々さん」



少し気恥ずかしそうに蝶々の名前を口にする蜜野の様子に、蝶々も思わず笑みがこぼれる。



「って呼んでください。だいぶフライングしましたね笑」


「つい笑。ありがとうございます、これからは蝶々さんって呼ばさせていただきます」



 二人は先に運ばれてきたアイスコーヒーの入ったグラスにストローをさし、乾いた喉を少し潤してから会話を再開した。



「それで木蓮さんですけど、家族に頑張りすぎないようにと言われたからほどほどに頑張ると話していましたよ。きちんと自分を守ろうとする意思があって、かっこいい新人が来たなって思っていたんです」


「あいつまたクールなこと言って…」



蜜野さんは心配そうにストローを小さく噛んだ。



「木蓮は昔からほとんどの時間を絵を描くことに費やしていまして。絵と会話しているように私には見えるんですけど、それでなのか口数が物凄く少ない子なんです。でも人前では、人を遠ざけるために饒舌になるクセがあって…」



人との関わりの中で、どこかいつもと違う自分を演出してしまう気持ちはわかる。それが癖になると、なかなか直らずに困ることなんかもあったり。



「人に土足でパーソナルスペースに入られるのが嫌いで、さらにその入られたくないパーソナルスペースも広い。小さい頃からそのことで嫌な思いをしてからか」


「はじめから人を遠ざけるようになった、とか?」


「はい…その通りです」

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