和菓子屋の少女の先を変えた甘い出遭いと甘やかな出逢い
- ★★★ Excellent!!!
和菓子屋の娘である鈴本杏は、なじみの本条家へおはぎを届けに行く道中、本条の嫡男だという克哉に出遭った。彼は使いの褒美だと言い、見知らぬ菓子をくれて……初めて味わった濃厚な洋菓子の甘みは彼女の心を捕らえて放さず、しかして5年の後に再会。そこから杏の新たにして甘い人生が幕を開けるのだ。
文明開化な風情匂い立たせる和風世界を舞台にしたこの作品、ひと言で語るならば「ロマンス」でした。和菓子しか知らなかった杏さんが洋菓子と出遭ったこと、そして彼女に出遭いをもたらし、甘味の供給源にして歳の差恋愛のお相手・克哉さんと出逢ったこと。どちらもけして飾り立てられているわけではないのに、著者さんの筆が書き起こして掻き起こすもの――杏さんの自分へ対するマイナス感情や甘味への思い、克哉さんへの想いが風情として匂えばこそ、読者の心の真ん中に「ああ、これは運命だ」と刺さるのです。
とはいえ物語は直ぐに進みません。まるで朝のドラマのように山あり谷ありな杏さんの物語、甘いロマンスと共にどうぞお楽しみください。
(「その恋はお腹から」4選/文=髙橋剛)