文明開化の街は

 忙しさに明け暮れている内にドンドンと月日も流れ街は変わっていった

 キリスト教の禁教も解けので、色々なキリスト教の教派の宣教師達が宣教にやってきて各地に教会を建てたりもする中、キリシタン時代にバテレンになったと言っても信じてもらえるわけもないし、信じてもらえたとしてもボクが変化たぬきだってことがバレてしまうので、未信者のふりをしていろいろな教会へ時々出かけるのが癒やしにもなっていた。

 食べ物も西洋文化の影響が出て肉を食べる習慣が出てきた。のでボクの店でも肉を入れた蕎麦やうどんを提供するようになってお客さんも喜んでくれたりした。



 蒸気機関が、海も陸も走るようになって人や物を運ぶ時代への変化は大きかったのかも知れないがそれが便利になっただけではなく戦争の道具にも使われるようになったのは悲しい事だとボクは思う。



 そして、とにかく慌ただしく月日は流れていった。



 ボクの店も繁盛をして何人か人を雇って商売するくらいにまで大きくなった。 

 ちょこちょこ店に顔を出す勝先生。

「俺はすっかり年を取ったのに、お前は若いままなのが不思議だな・・・・・・」

 そう言われてボクは少しドキっとした。

 しばらくして沈黙して、勝先生は「何も心配しなくて大丈夫だからな」と呟いた。

 ボクは一体何のことだろうかとこの時は知るよしもなかった。

 そして何事もなかったかのように、話題を変えて「今度牛鍋でも食べに行かないか?」とボクを誘って来た。

「たまには他所の店に食べに行ったら、新しいお品書きが思い浮かぶかも知れないし気分転換にもなるだろうからな」 

 ボクも牛鍋は食べたことはまだ無かったし「じゃあお言葉に甘えて」と勝先生の誘いに乗って牛鍋屋へいってみることにした。


 数日後、ボクは店を使用人たちにまかせて勝先生と牛鍋を食べに行った。

 考えてみれば他所の店に行くことなんて滅多にないし、まして、初めて食べる牛鍋に期待もすれば緊張もした。

 暖簾を潜ると女将さんが笑顔で「いらっしゃい」と声をかけてくれて奥の方のお座敷へ案内をしてくれた。

 そして料理が運ばれて来て勝先生が「遠慮しなくて良いからドンドン食べてくれ」と豪快に笑いボクは初めての牛鍋を食べてみた。そして、こんなにも美味しい物があったのかと驚いた。


 勝先生が「これも文明開化だ。西洋のように牛や豚の肉を食べる事が広まってなこういう生活にも変化が出るってもんだよ」


 ボクは頷き、牛鍋をつつき生卵に絡めて口に運んだ。


「ところでお前は、亀山社中にいたと言うことは船の動かし方はわかるよな」

 勝先生が牛鍋をつつきながら尋ねてきたので「はい、動かせます」と答えた。

「そうかぁ、相談なんだが海軍で軍艦を動かしてはもらえねぇかなぁ」


 ボクは、少し困ってしまった。店のこともあるしどうしようかと俯いてすぐには返事ができなかった。

「店の事は心配しなくてもいい」

 ボクは顔をあげると勝先生は真剣な目でボクを見ていた。

「お前さんはよくやったよ、あれだけ繁盛していれば、人にまかせておいても大丈夫だろう」

「そうかも知れませんが・・・・・・」

 勝先生は何を考えているのかわからない

「今日は牛鍋をつつくのもあったがお前さんの将来のために話をしたかったからこうやって他の人間に聞かれないように牛鍋屋の奥の座敷でと言うわけだ」


 もしかして・・・・・・

 ボクはギクリとして固まってしまった。

「あの・・・・・・なんのことでしょうか?」

 ボクはなんとかごまかそうとしてみた。

「お前さんのことはよく分かってるよ昔読んだ書物になタヌキやキツネは年を取ると人間に化けられるようになると記してあってなそれから色々調べさせてもらった」

 この話・・・・・・

 間違い無くボクの正体を見破っている。

 そして、勝先生は話を続ける。

「まぁこの国には昔から陰陽寮というのがあって妖怪とかそういうたぐいの事を調べたり悪さをする奴を退治したりする秘密の組織があって新政府にも密かに吸収されてなそのおかげでお前さんの正体が分かったのもあるんだが・・・・・・」

 ボクは少し怖かったが正体を打ち明けることにした。

「はい、勝先生がお気づきの通り、ボクは変化たぬきです」

「やっぱりな、何年も付き合っても老けるとか年を取る気配がしなかった。こうやって人間としてくらすとな新しい時代になって不便がでると思ってな戸籍ってややこしいのがあって年を取らずにずっと生きているとまずい事になるかも知れないからお前さんの正体がバレないようにちょっと色々と動いてな」

 確かに、ボクは、人間に化けられるようになったけど、変化タヌキとしてはまだまだ若いから老人に長時間化けているのは力を使いすぎてしまう、それでもなんとかごまかしては来たが、今度は、記録としてしっかり残ってしまうから勝先生はなんとか手を打ってくれたのだろう。

「まぁそういうのでな御を着せたようで悪いが海軍で船を動かすのを手伝ったり乗り組み員たちに教えてもらえたら助かるんでね。一応、下士官としてで入隊してもらえたらと思っているでね」

 ボクは少し考えた・・・・・・

 店の事は少し気がかりだけど勝先生が今後のために手を打ってくれたし海軍へ行くことを決めた。

 

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たぬきのポンちゃん 猫川 怜 @nekokawarei

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