第8話 3つ首の怪人カークス
「サディ、ひょうのこと連れてきて」
精魂尽きてしまっているような状態のひょうの元へ駆け寄ろうとしたら、姫さまからそんな声が聞こえてきた。
移動魔法を使いひょうのことを引き寄せ抱き抱えると、姫様の元へ連れていく。
「あなた私の霧の中に入ってなさい」
「姫さま何言ってるんですか!自分の回復を優先させてください!」
私も同意見だった。ひょうは体力は落ちているようだが、外傷は見られない。それに比べ姫さまはボロボロの状態だった。
「これからカークスの3本目の首が復活してくるわ。あなたの回復は必須よ」
「でも、、」
「でもじゃない!口答えする暇があるならさっさと回復しろ!そしたら自分の回復に集中できるようになるでしょ」
「えーっ!」
姫さまに一喝されひょうは萎縮してしまっているようだった。相変わらず無茶苦茶なお方だ。
北の方角からはサイードのオーラが燃え上がっているのが感じられる。それに対し敵のオーラは徐々に弱まっていっていた。
おそらくサイードの渾身の一撃が炸裂したのだろう。
弱まっていくと同時に氷の像と化してるカークスから、ありえないレベルのオーラが立ち上がり出す。
オーラは自分の体を覆っている氷を溶かしていき、体を膨張させていく。
ワニの皮のような皮膚は金属製の鈍い光を帯びるようになっていき、前足は筋肉質な太い腕となり、後足は体から垂直に伸び上がり、背筋が真っ直ぐになっていく。
上半身の筋肉が膨れ上がり異常発達しだして分厚い胸板となり、ゴリラのような体躯へと変化していく感じだった。
二つの首の間から新しい首が迫り上がってくる。
伸び上がっていた二つの首は太く短くがっしりとした形に変化し、やや盛り上がる程度だったツノは大きく突き出してきて、右側のツノは山羊のツノのように渦巻きながら伸び上がり、左側の角は鹿のツノのように複数に枝分かれをしている形に伸び上がっていた。
そして中央の首からはバッファローのような太くて丈夫そうなマダラ模様のツノが伸び上がってきていた。
そのド迫力の風貌と威圧的なオーラに私は気圧されし尻餅をついてしまった。
これが神!?
でもビビってなんかいられない、この中で一番元気そうな私が頑張らないと。
「氷壁魔法!」
私はカークスを氷の壁で覆っていき、風魔法を使い空気を抜く。
「とーけつ、まほーっ!」
私の放った凍結魔法も氷壁魔法も一瞬だった。一瞬で水蒸気と化していた。カークスが火炎魔法を準備し始めた段階で掻き消され、消し飛んでしまっていた。
私の魔法は足止め程度にもならないというのだろうか!
カークスの火炎魔法は烈火の如く燃え上がり、旋風を起こし、威力を増大させながら襲いかかってきた。
「風魔法!、氷壁魔法!」
「!!」
ひょうは氷壁魔法を垂直の壁にして出現させるのではなく、半円状に湾曲した氷の壁を出現させると、風魔法を使い上昇気流を起こし、カークスの火炎魔法を湾曲状の壁にそうように滑り上がらせ上空へ弾き上がらせていた。
「空間移動魔法!」
ひょうは異空間へ誘う扉を開くがカークスの巨体はその扉よりはるかに大きく、首ひとつが扉に入っただけで塞いでしまっている形となってしまっていた。
しかしひとつの首が現世に無いため、先ほどの三位一体の火炎魔法を放つのは難しい状態となっているようだった。
上空へ飛び上がったひょう目掛け残りの二つの首だけで火炎魔法を放つ。と思った瞬間、ひょうは光を放ち上空から急降下してきた。
「鶴賀流、雲鶴(うんかく)!」
ひょうの剣撃が中央の首を直撃し、自分の火炎魔法の威力と相まって頭部を破壊させていた。
「霜柱魔法!」
先ほどカークスの火炎魔法を上空へ弾き上げた氷壁が、氷の柱に変化し次々とカークスの残った首を中心にし襲いかかっていく。
カークスは異空間に入ってしまっていた首を引き抜くと火炎魔法を放つ。
「凍結魔法!」
カークスの火炎魔法とひょうの凍結魔法が空中で激突するが、首ひとつで放つ火炎魔法よりひょうの凍結魔法の威力が優っているのは証明済みだ。
徐々に押し込まれカークスはひょうの凍結魔法の影響により氷像と化していた。
凄い!凄すぎる!私の立ち入る隙なんてまるでなかった。
「もう少し、もう少しでサイードが支柱を復活させてくれる。カークスはまたすぐに氷を溶かして攻撃してくる。私達も力を貸すわよ」
二人のハイレベルな戦いに萎縮してしまっていると、姫さまがそう声をかけてきた。
「姫さま!もう大丈夫なんですか?」
「ええ、大分動けるようになってきたわ」
『我兄はついに復活となった。あとは小賢しい矮小な人間を、この場から排除すればいいだけ』
「!!」
「また復活してきたの!」
『我は神。我に死という概念はないと言っているだろ。貴様等人間は我に勝つことなどできん』
「何度もぶっ倒されてるくせに、何回出てきても同じだと言っているでしょ」
『ほざけ、我には貴様は立ってるのもやっとの状態にしか見えぬぞ。今度こそ我の魔法で消し炭となれ』
『イエロースピネル!』
「!!」
「きゃーっ!」
何?閃光が走ったと思ったら衝撃を感じ吹き飛ばされてしまった。
「姫さま!大丈夫ですか?」
同じく弾き飛ばされぐったりしている姫さまに声をかける。呼吸音は聞こえるので死んではいないようだが、今ので意識が飛んでしまったみたいだ。
ここは私がやるしかないようね。
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