第39話 飴をくれるおばあちゃん
今は知らない人から物を貰うのなんかはもちろん、声をかけられただけでちょっとした事件になる時代だ。
でも、俺が小学生の時は、今ほどコンプライアンスとか、個人情報とか、そういうのが結構緩かった。
あれは小学4年生の時のことだ。
公園で友達と遊んでたら、おばあちゃんがやってきて、「飴、お食べ」と言って飴を出してきた。
友達たちは喜んで食べ始めてた。
その当時も、俺は親から「知らない人から物を貰ったらダメ」と言われてたから、おばあちゃんが出してきた飴には手を伸ばさなかった。
でも、そんな俺に気付いたおばあちゃんが「あんたもお食べ」と言って、飴を渡してくる。
そのときの俺は「後で食べるよ」って言って、ポケットに入れた。
そのあと、友達と遊び終わって家に帰るとき、こっそりと飴をゴミ箱に捨てた。
親に貰ったらダメとは言われてたけど、食べるよりはマシだと思ったからだ。
それから数週間後くらいだったと思う。
学校の帰り道、一人で帰ってたら、いきなり後ろから肩を叩かれた。
ビックリして振り向いたら、そこには、あの、公園で飴を配っていたおばあちゃんが立っていたんだ。
そして、おばあちゃんはこう言ったんだ。
「今度こそ、飴をお食べ」
そのときは気付かなかったんだけど、おばあちゃんは俺が飴を捨てたのを、なぜか知ってたってことになる。
俺はまた、おばあちゃんから飴を貰って、ポケットに入れて、帰りにまたゴミ箱に捨てた。
さらにそれから数日後。
また一人で歩いていると、あのおばあちゃんから話しかけられた。
「なんで食べないの?」
今まではニコニコとしていたおばあちゃんが、顔をしかめて怒っていた。
俺はビックリして泣き出してしまった。
そんな俺に、おばあちゃんは飴を包み紙から出して、俺の口に無理やり入れようとしてきた。
無我夢中で泣きながら「助けて」って叫んだ。
そしたら周りの人たちが集まってきて、おばあちゃんを止めてくれた。
警察とかも来て、大騒ぎになってた。
その後、母さんから、あのおばあちゃんは精神的に病んでいて、今は精神科に入院していると聞いた。
だから、このことはずっと忘れてた。
ほんの3ヶ月前まで。
本当に何気もない、普通の休日だった。
小腹が減って、コンビニに行こうと思って歩いていたんだ。
そしたら、後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこにはおばあさんが立っていた。
そのときは、道でも聞いてきたのかと思った。
「今度こそ、飴をお食べ」
その言葉で、俺ははっきり思い出した。
小学校の時に飴を渡そうとしてきたおばあちゃんだと。
一気に汗が噴き出した。
だって、あれからもう20年以上も経ってるんだ。
おばあちゃんは全く変わってなかったけど、俺を見たのは小学生のときだった。
それなのに今の俺が、あのときの小学生だとわかって話しかけてきた。
俺は恐ろしくなって、飴を受け取り、ポケットに入れた。
さすがに今度は捨てる気にはなれずに家に持って帰った。
でも、当然だけど食べる気にはならない。
だから、戸棚にしまった。
そしたら、チャイムが鳴って、出てみるとそのおばあちゃんが立っていた。
「なんで食べないの?」
俺はすぐにドアを閉めた。
それから何度かチャイムを鳴らされたけど、無視した。
10分くらいしたら、諦めたのかおばあちゃんは帰っていった。
俺はすぐに引っ越しを決めた。
サッと住む場所を決めて、一週間もしないうちに引っ越しを完了させた。
これで大丈夫だろう。
そう思ってたんだ。
で、昨日のことだ。
チャイムが鳴って出てみたら、おばあちゃんが立ってた。
俺は恐怖で固まって動けなかった。
そんな俺に、おばあちゃんは飴を出して、俺の手に握らせた。
「今度こそ、飴をお食べ」
そう言って帰って行った。
その飴は、今、俺の目の前にある。
それでずっと悩んでる。
この恐怖から解放されるなら、飴を食べてしまった方がいいとも思う。
でも、食べるのも怖い。
どうして、頑なに俺に飴を食べさせようとするんだろうか。
誰か教えてくれ。
俺はこの飴を食べた方がいいんだろうか?
怖い話【洒落怖 短編集】 鍵谷端哉 @kagitani
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