5:目出度し、愛でたし
少女は少年を待っていた。
年の頃は十二、三か。少年の
身に纏う布の感触は不愉快だったけど、人の
「アカネ! アカネ!」
少年が、少女を呼ぶ。
「ヨシアキ!」
アカネは満面の笑みを浮かべ、ヨシアキに駆け寄って飛びついた。耳と尻尾が飛び出したが、ヨシアキは気に留めることもなくアカネの体を抱きしめた。
あの日から、暴漢が学校に来ることは二度と無かった。
しばらく病欠するとの簡単な連絡があって、それっきり。
この街で彼の名を口にする者は誰もいなくなった。
今まで
哀れなほどに卑怯で、悲しいまでに無力な咎人たちを、能昭は許した。
勿論、思うところが無いでは無かった。彼らは分かった上で長いものに巻かれることを選んだのであり、心を痛めこそすれ反省も後悔も無く、似たようなことがあればまた似たようなことをするだろう。
それでも、狐の威を借りた身で彼らを
アカネが思い切り抱きついても、ヨシアキはもう顔を痛そうに歪めることはなかった。
勢い任せに呑み込んでしまった御馳走が喉につっかえて、こんこんと
布に隔てられた感触に
ヨシアキが頭を撫でる。アカネが目を細め、その手に擦り寄る。
ふたりが微笑みを交わす。
しゃん、と。
小さく錫杖が鳴った。
ぬくもりを分け合うふたりの傍らから、お供えのように取り分けられていた稲荷寿司が一つ、御馳走様と書かれた葉っぱと
「これは、私のお稲荷さんですね。
(完)
狐の仕返し恩返し 地空月照_チカラツキテル @Tsukiteru
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