第30話 最終回。三人称で。
十三都市は、世界蛇や真紅蠍達災害から『カルテット同盟』と呼ばれる4聖人により護られていると言われていた。
その4聖人とは、東を守護する『万能の騎士』
西を守護する『不滅の聖女』
南を守護する『不変の鋼技師』
そして北を守護する『時読みの賢者』と呼ばれている者達で構成されている。
ここは十三都市の北に位置する宝瓶迷宮。
2階建てまでの建物が広がる町中に、天へ向けて巨大な塔がそびえ建っていた。
その高さは200m。
20階層ほどある建物だ。
その宝瓶迷宮の最上階に、背の高い男と、少女、そして小さな翼竜が、眼下に地平線まで続く街並みを見つめていた。
その背の高い男こそが、4聖人の一翼にして世界の知識が集まると言われている者『時読みの
年齢は40くらいだろうか。
背が高く、知的で優しそうな顔立ちをしている。
真っ白なローブに身を包み、聖者専用の杖を床に突き立てながら、静かに遠くを見つめていた。
眼下には1000万人が住んでいるといわれる街並みが広がっており、2階建てまでの建物の屋根が地平線まで続いている。
賢者の視線の先。
空を覆い隠していた分厚い雲に大きな穴が開き、美しく凶悪に輝く閃光が天空から降り注ぐ姿がそこにあった。
――――――――――奈韻が地上へ撃ち落とした閃光である。
街に突き刺さる光の線を見つめている賢者の表情は、能面のようであり生き生きしたところが全くない。
足元にいた翼竜が、大きくため息をつくと、石のように硬く動かない様子の賢者へ向けて、上から目線とも思える言葉遣いで質問をしてきた。
「
鳥のサイズと変わらない翼竜は、人類の敵とされる『
『時読みの賢者』は『カルテット同盟』を結んでいたが、その裏では同時に『世界蛇』とも同盟を締結していた。
その同盟とは、賢者の隣にいる少女以外は誰も知りえるものではない密約であり、人類からすると裏切り行為となるものだ。
賢者は遠くを見つめながら、世界蛇の使い魔に対し、抑揚のない口調で話始めた。
「はい。あの閃光こそが最強の『宝具』から発射された輝きで間違いありません。」
世界蛇とは、深海1万mにある迷宮に存在する世界最強とされる幻獣である。
その全長が数十km。
奈韻が、自身を倒す力を持っている者であるのかを『時読みの賢者』へ聞いてきていたのだ。
天空から降り落された閃光が収束し始めていた。
夜のように暗かった十三都市に、厚い雲の穴から太陽の光が落ちてきている。
少女は賢者と翼竜の会話を静かに聞いていた。
世界蛇の使い魔が、再び賢者へ質問をした。
「あの閃光は我がいる深海まで届くだろうか。知っているなら我に教えろ。」
「安心して下さい。あの熱線が深海1万mまで到達することは決してありません。」
「そうか。神の後継者とされる最強の『宝具』を持つ女をもってしても、その攻撃は深海1万mにいる我に届くことは無いということか。」
「はい。彼女が所持している宝具の中に、あなたに攻撃が届くものはありません。」
「賢者。ご苦労だった。」
世界蛇の使い魔は安心した様子で賢者へねぎらう言葉をかけると、翼を広げ十三都市の空へ飛び立っていった。
賢者の表情に変化は見られない。
遠くでは、2撃目となる閃光が降り落されていた。
使い魔が消え、喋る機会を伺っていた少女が、おそるおそるといった感じで口を開いた。
「賢者様。聞いてもいいですか?」
「なんだい。私に世界蛇を倒すことが出来るのかを聞きたいのかい?」
少女からの質問に、変化の無かった賢者の表情が優しいものへ変わっていく。
柔らかく、温かみがある声だ。
その少女は『時読みの賢者』の唯一の弟子であり、戦闘力が無い彼を護る者である。
少女の認識では、世界最強とされる幻獣を倒すことが出来る者は、唯一神『ラプラス』の後継者にして人類の頂点にたつ『女王陛下』のみ。
だが、賢者からの言葉は絶対であることも知っていた。
この男は誤った認識を絶対にしない者なのだ。
質問を言い当てられた少女が、賢者の言葉に素早く反応した。
「はい。世界蛇を倒すことが出来る者が、新人類にして神の後継者でないのなら、賢者様しかいないかと思いまして。」
「まず一つ。私は全ての『宝具』を全て知っているわけではない。」
「どういうことですか?」
「唯一神『ラプラス』が創った世界の法則に当て嵌めると、深海1万mまで到達することができる『宝具』は存在するというのが、私の考えだ。」
「最強とされる『宝具』を超えるものが、この世界に存在するというのですか。」
「そうだ。唯一の『宝具使い』である奈韻様は、きっと新しい武器を手に入れ、世界最強とされる世界蛇を倒してしまうと予言しよう。」
賢者からの言葉は絶対だ。
彼がそう言うのなら、必ずそうなるのだろう。
世界蛇を殺すだろう奈韻の目的が、十二迷宮を攻略することであることも少女は知っていた。
即ちそれは、師匠である賢者の死を意味する。
「賢者様は、その女。奈韻を倒すことが出来るのですか?」
「いやいや。今のままの私達では無理だろうね。」
「今のままでは無ければ、倒すことが可能だということですか。」
「それは私にも分からない。だが、動かなければいけない時が来たということだね。」
「動かなければならない時ですか。賢者様は、何をしようとしているのか教えてもらうことは可能でしょうか。」
「もちろんだよ。まず私は、彼女よりも先に4聖人達を倒さなければならない。」
賢者の言葉を聞いた少女は目を丸くした。
『カルテット同盟』とは、十三都市を護る者として、『時読みの賢者』が中心となりつくったものだからだ。
もっと言えば、4聖人である『万能の騎士』、『不滅の聖女』、『不変の鋼技師』は少女と同じ賢者の弟子である。
少女は思った。
<賢者様は、私の兄弟子、姉弟子を殺すというのか。もしかしたら、私も殺されてしまうのだろうか。だがそれでも、私が賢者様を裏切ることはない。兄弟子、姉弟子達を殺せと命令されたなら、私は迷うことなく実行しよう。>
賢者は少女が否定しないことを知っていた。
彼は世界の理を知る者。
奈韻がこの先に成し遂げていく未来が見えていた。
彼は、破壊者。
全てを犠牲にして、奈韻が歩く道を破壊しなければならない覚悟を決めていた。
―――――――END。
あとがき。
ここまでお付き合い頂き有難うございました。
中途半端な終わりかたをしてすいません。
コンテスト用で書き始めたものではありますが、期間内に条件である文字数を達成出来ませんでした。
そもそもですが、読者様の反応も悪かったので、コンテストは論外でしょう。
次作にむけて。
2025年冬から始まった『なろう系』アニメをいくつか見て、今の流行りというものを勉強しようと思いましたが、感性が全く追い付きませんでした。
最近読んだ漫画の中では『ピラミッドゲーム』がとても面白かったです。
『運命を読む会社員』も面白い。
無課金ですが、他にもたくさん読んでおります。
とりあえず。
「潜在力S・判断力Fのチーム」という題名の物語を書いてみようかと思っております。
主人公は『SIX』。
その名のとおり『6』という数字に愛された女。
三人称で、舞台とストーリーは少しずつ考えていきます。
十二迷宮戦。「戦術」と「モブ雑兵」と「女王陛下」 @-yoshimura-
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