第9話 交差する名と思い②

「本当は聖剣を見つけて帰りたかったんですけども……途中で焔災龍に襲われてしまいましてね。でも、そのおかげでリョウマ様と出会えて良かったと思います♪」


セレスがふわりと笑う。


その笑顔は、柔らかくて、眩しくて、どこか無防備だった。

思わず見惚れそうになるのを、俺はごく自然な仕草でそらす。


「それは……まあ、よかったよ。生きてなきゃ話もできないしな」


窓の外に目を向けながら、俺は魔力を目に宿らせる。

離れていく死の森の奥——その中心部に、剣の魔力反応がある。


(……あれが“聖剣”ってやつか)


あっさりと場所が特定できた。正直、この程度の探索なら造作もない。


「森の中心だな。たぶん、聖剣リヴァイスってやつは、あそこにある」

「えっ!? 本当ですか!?」


セレスが勢いよく身を乗り出してきて、ぐっと俺との距離が縮まる。

その顔が近くて、そして……やっぱり、可愛い。


(ちょっと近い……っ)


こんな美少女に顔を寄せられて、何も感じないほど俺も鈍感じゃない。

何より、いい匂いが……。


「あー……少し、待っててくれ。取りに行ってくる」


俺は気配を断ち、空間魔法で即座に転移した。


森の中心には、苔むした岩に深く突き刺さる一本の剣があった。

装飾は少ないが、その刃に触れた瞬間、明らかに他とは違う“格”が伝わってくる。


聖剣リヴァイス。かつて魔族の王すら斬ったという伝説の剣——間違いない。


* * *


「ほら、これがその聖剣とやらだよ」


馬車に戻った俺は、セレスの前にその剣を差し出した。

セレスは目を丸くして、それをそっと両手で受け取る。


「これは……本当に……聖剣リヴァイスじゃないですか!?」


驚きと感動が混じったような声。その目が輝いていた。


「もう……リョウマ様が何かするたびに、驚かされてばかりです」


セレスがこちらを見つめ、ほんの少しだけ頬を赤らめた。

それに気づいた俺は、なんとなく視線を外す。


「いや、そんな大したことじゃないさ。あの森なら、探せばすぐだ」

「ふふ……やっぱりすごいです。あなたって、本当に何者なんですか?」

「さあな。ただの、通りすがりだよ」


 そう答えると、セレスはまたクスッと笑った。


 その横顔は楽しそうで——けれど、どこか名残惜しそうでもあった。


* * *


 馬車は丘を越え、なだらかな道を進んでいく。


 窓の向こうに、白く輝く城壁が見え始めていた。高い塔がいくつもそびえ、空には魔導船が浮かんでいる。


「あれが王都アルフォードです」


セレスが静かに呟いた。


風が窓から吹き抜けて、セレスの銀髪がふわりと揺れる。

日差しに透けたその髪が、まるで光そのもののように見えた。


彼女は、少し目を細めて俺を見る。


「不思議ですね。あんな状況で出会って……こうして今、一緒に王都に向かっているなんて」


少し言い淀んだあと、そっと続けた。


「きっと、リョウマ様と出会ったのはは……偶然じゃない気がします」


 俺はその言葉に、何も答えなかった。


 でも、彼女の言う通り——それがただの偶然じゃないってことは、俺自身が一番わかっている。


ただ、今はまだ語るときじゃない。


(この先で、俺がやるべきことは……嫌でも見えてくるだろう)


そう思いながら、俺は遠くに見える王都の光景をじっと見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る