第7話 『熱』不足
十一年前、『
「わたし! かずくんとけっこんする!」
「えっとぉ……なんで?」
「んーっとね。かずくんはね。い~っぱい、い~っぱい、やさしいところがあるから! このまえもみちにさいてたおはな、みんながふまないようにまもってたでしょ? それにひとりでといれにいけなかったこに、いっしょについていってあげてた! あとねあとね……」
そうやって身振り手振り、オレへの愛を語らう星羅に対し、
「ふ~ん……べつにふつうのことだとおもうけど」
当のその男は積み木遊びに夢中という……
「かずくんはわたしのこと、すきぃー?」
それでも覗き込むように体を傾ける星羅は、ひたむき以外の何物でもなかった。
「まあ……ぼーりんぐのぴんくらいには」
そして、オレもひたむきではあったよ。できるだけ、興味を……『熱』を持とうと必死にね。
でも、無理だった。そんな冷めた態度が続いたからかな。いつしかあいつとは……あまり話すことをしなくなった。
◆
十一年後、『
もしあいつを見つけることができたら、いつ振りの会話になるだろう? 確か小学二年とかそこら以来だから……九年くらいか? 参ったなぁ……なんて話しかけよう。
と、あるかどうかも分からない再会に頭を悩ませていると……
「ねえ、アンタ……? もう少し警戒とかそういうのしないわけ? ただでさえ夜の学校なんて不気味なのに……」
右斜め後方、火口がジト目で意見を物申してきた。
「いや……オレは幽霊とかその類いのオカルト、あんま信じてないから」
「さっきその最大の例を見たけど⁉ あれでもまだ信用しないわけ⁉」
「あれは『七不思議』だろ? 現実にあるんだから幽霊とは全く別物さ」
実際、オレもその『力』を手にしたしな。
「随分とねじれた解釈の仕方ね……。アンタ、絶対変よ。ねえ、茜?」
「そうだね……。でも、正直驚いたよ。意外と話せるんだね? 数原くん。もう少し怖い人かと思ってた」
話者は変わって左斜め後方、どこか興味ありげにこちらを覗き込む、水戸へと引き継がれる。
「話せはするさ。ただ、対応が冷めたもんで、大抵の人間はすぐ離れていく。だから……話さない」
「へえ~、ボクはそんな感じしないけどね? 星羅から聞いてたからかな?」
「……あいつはなんて?」
「『困ってる人がいたら絶対助ける優しい人』だって。『とんと喋らなくなってちょっと寂しい』とも言ってた。……喧嘩でもした?」
「してない。ただ、オレの性格が……クソッたれなだけさ」
会話を切ろうとしたところで、ちょうどよく目的地である『図書室』に到着。三人はその扉前にて歩を止めた。
「おーい、星羅。いるかー?」
が、オレは間髪入れず、中に入って久方ぶりの一声。「だから少しは警戒しなさいよ⁉」と、火口にツッコまれながらな。
しかし、結果は……
「やっぱり、居ないみたいだね。まだ帰っても……」
水戸の言う通り、室内を見渡せど人の気配どころか『七不思議』特有の空気もなし。無論、打つ手も……
………………………………
………………
……
いや、打つ手なら――まだある。
「あいつが消えたのは何時くらいの話だ?」
「は? 確か一時間前くらいだから、九時過ぎだったと思うけど……」
『一』時間前か……なら、行ける!
火口の回答を受け、オレは即座に『力』を行使。瞳は紫に染まり、階段が如き凹凸を生み出す。
オレの能力は『数を変換する力』。範囲が零~十三であるなら、オレをそのまま一時間前に変換する……送ることも可能なはず。要は時間遡行ってやつだ。これができれば、ほぼ無敵と言っていいだろう。自然と『熱』が入る。
……が、その瞳の色は……『熱』は、すぐに失われてしまった。
変換できない……? いや、足らないということか? どうやら変換に必要な『数』が不足しているらしい。感覚で分かる。やはり時間を操るとなると、それだけ大きな力が必要ということか。
「何? どうしたのよ? 急に黙って……?」
訝しげに眉を寄せる火口に、オレは「別に……」と前置き。行き場のなくなった『熱』の残り火を、続く言葉に乗せる。
「とにかく消えちまった以上、警察に連絡するしかないだろうな」
「警察に……? でも、それでなんとかなるとは……」
「だとしても今のオレたちよか可能性はあるだろう。警察も『七不思議狩り』を認知して、だいぶ経つしな。何かこういう時の為の策を講じてるかもしれん」
「それは……そうかもだけど……」
とは言いつつも、こんな安い言葉じゃ、その曇りゆく面持ちは晴らせない。
今、必要なのはそう――
「一応、考えはある。上手くいくかは……わからんけどな」
『力』ある言葉、だ。
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