第7話 『熱』不足

 十一年前、『風見幼稚園かざみようちえん』――


「わたし! かずくんとけっこんする!」


 月岡星羅つきおかせいら、五歳。あいつは幼稚園の時、いつもそんな風なことを言ってたな。


「えっとぉ……なんで?」


 数原匠十かずはらたくと、こちらも五歳。自分で言うのもなんだが、結婚の『け』の字どころか、恋愛すらも知らない……いや、興味すらないと言った方が正しいか。まあ、そういう冷めたガキだったよ。この時から変わらずな。


「んーっとね。かずくんはね。い~っぱい、い~っぱい、やさしいところがあるから! このまえもみちにさいてたおはな、みんながふまないようにまもってたでしょ? それにひとりでといれにいけなかったこに、いっしょについていってあげてた! あとねあとね……」


 そうやって身振り手振り、オレへの愛を語らう星羅に対し、


「ふ~ん……べつにふつうのことだとおもうけど」


 当のその男は積み木遊びに夢中という……


「かずくんはわたしのこと、すきぃー?」


 それでも覗き込むように体を傾ける星羅は、ひたむき以外の何物でもなかった。


「まあ……ぼーりんぐのぴんくらいには」


 そして、オレもひたむきではあったよ。できるだけ、興味を……『熱』を持とうと必死にね。


 でも、無理だった。そんな冷めた態度が続いたからかな。いつしかあいつとは……あまり話すことをしなくなった。



 十一年後、『悠志高等学校ゆうしこうとうがっこう』――


 火口茜ひぐちあかね水戸葵みとあおいを連れ、図書室へと向かう最中、オレはふと懐かしい過去を思い出していた。


 もしあいつを見つけることができたら、いつ振りの会話になるだろう? 確か小学二年とかそこら以来だから……九年くらいか? 参ったなぁ……なんて話しかけよう。


 と、あるかどうかも分からない再会に頭を悩ませていると……


「ねえ、アンタ……? もう少し警戒とかそういうのしないわけ? ただでさえ夜の学校なんて不気味なのに……」


 右斜め後方、火口がジト目で意見を物申してきた。


「いや……オレは幽霊とかその類いのオカルト、あんま信じてないから」

「さっきその最大の例を見たけど⁉ あれでもまだ信用しないわけ⁉」

「あれは『七不思議』だろ? 現実にあるんだから幽霊とは全く別物さ」


 実際、オレもその『力』を手にしたしな。


「随分とねじれた解釈の仕方ね……。アンタ、絶対変よ。ねえ、茜?」

「そうだね……。でも、正直驚いたよ。意外と話せるんだね? 数原くん。もう少し怖い人かと思ってた」


 話者は変わって左斜め後方、どこか興味ありげにこちらを覗き込む、水戸へと引き継がれる。


「話せはするさ。ただ、対応が冷めたもんで、大抵の人間はすぐ離れていく。だから……話さない」

「へえ~、ボクはそんな感じしないけどね? 星羅から聞いてたからかな?」

「……あいつはなんて?」

「『困ってる人がいたら絶対助ける優しい人』だって。『とんと喋らなくなってちょっと寂しい』とも言ってた。……喧嘩でもした?」

「してない。ただ、オレの性格が……クソッたれなだけさ」


 会話を切ろうとしたところで、ちょうどよく目的地である『図書室』に到着。三人はその扉前にて歩を止めた。


「おーい、星羅。いるかー?」


 が、オレは間髪入れず、中に入って久方ぶりの一声。「だから少しは警戒しなさいよ⁉」と、火口にツッコまれながらな。


 しかし、結果は……


「やっぱり、居ないみたいだね。まだ帰っても……」


 水戸の言う通り、室内を見渡せど人の気配どころか『七不思議』特有の空気もなし。無論、打つ手も……


 ………………………………


 ………………


 ……


 いや、打つ手なら――まだある。


「あいつが消えたのは何時くらいの話だ?」

「は? 確かくらいだから、九時過ぎだったと思うけど……」


 『一』時間前か……なら、行ける!


 火口の回答を受け、オレは即座に『力』を行使。瞳は紫に染まり、階段が如き凹凸を生み出す。


 オレの能力は『数を変換する力』。範囲が零~十三であるなら、オレをそのまま一時間前に変換する……ことも可能なはず。要は時間遡行ってやつだ。これができれば、ほぼ無敵と言っていいだろう。自然と『熱』が入る。


 ……が、その瞳の色は……『熱』は、すぐに失われてしまった。


 変換できない……? いや、ということか? どうやら変換に必要な『数』が不足しているらしい。感覚で分かる。やはり時間を操るとなると、それだけ大きな力が必要ということか。


「何? どうしたのよ? 急に黙って……?」


 訝しげに眉を寄せる火口に、オレは「別に……」と前置き。行き場のなくなった『熱』の残り火を、続く言葉に乗せる。


「とにかく消えちまった以上、警察に連絡するしかないだろうな」

「警察に……? でも、それでなんとかなるとは……」

「だとしても今のオレたちよか可能性はあるだろう。警察も『七不思議狩り』を認知して、だいぶ経つしな。何かこういう時の為の策を講じてるかもしれん」

「それは……そうかもだけど……」


 とは言いつつも、こんな安い言葉じゃ、その曇りゆく面持ちは晴らせない。


 今、必要なのはそう――


「一応、。上手くいくかは……わからんけどな」


 『力』ある言葉、だ。

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