第8話 『数』を極め、『力』を貯えよ

 数多の赤いランプが、夜の学校を赤く染めた。


 さすがに時間帯も時間帯だし、代わりの日を設けられるかと踏んだんだが、緊急案件ゆえそういうわけにもいかず、オレたちは深夜にまで亘って事情聴取を受けることに。


 火口茜ひぐちあかね水戸葵みとあおいについては、こっぴどく叱られていた。そりゃあ、自分で危険に足を踏み入れて警察呼ぶ事態になってりゃ世話ないもんな。お陰でオレも死にかけたしね。


 当然、星羅せいらの親御さんにも連絡が行った。こんな時間にもかかわらず、二人して学校まで来てたよ。姿を消した娘を泣きながら探そうとする奥さんを、旦那さんが宥め、止めている光景が印象的だった。


 火口も水戸も事の重大さを痛感、罪悪感に締め付けられ、呼応するように涙を流す。しかし、泣いたところであいつは帰ってこない。オレだけは既にを見据えていた。



 翌朝――


 GW明けから怒涛のような一日を過ごし、明けた翌日。携帯のアラームにより、オレは起床する。


「おう……匠十たくと。おはよう」

「ああ……。おはよう」


 階段を下りてリビングに行くと、スーツ姿の親父が朝食を終え、席を立ったところに出くわした。


「………………」

「………………」


 しかし、親父と息子。男同士ならどこの家庭もこんなもんだろう。いつものことだ。でも……


「………………」


 今日は少しだけ、様子が違う。しばらく見られていた。まるで『何か』を見透かすかのように。


「今日は……休みだっけか?」


 沈黙を破り、視線を下げた親父は、寝間着姿のオレに向かってそう問う。

 昨日の件で学校には立ち入り禁止令が出された。警察も色々調べることがあるんだろう。その旨をそっくりそのまま伝えると、


「そうか……。昨日は色々とご苦労だったな。でも、もう勝手にあんな真似するんじゃないぞ? お前まで何も言わずに消えられたら、さすがに……な」


 親父は眼鏡のブリッジを人差し指で上げ、言葉を濁す。……が、視線は自然と隣、月岡家の方に。


「……じゃあ、行ってくる。何かする時は、ちゃんと母さんに一声かけるんだぞ?」


 そうして親父は腕時計を一瞥したのち、背凭れに掛けてあった上着を取って家を後にした。


 だの、だの、まるで一声かけたら問題ないって言い草だな。全面的に許すわけでもないけど、探すその行為自体は咎めないと? まったく……オレって男をよく分かってやがる。


「あら、匠十。早いわね……。ご飯、食べる?」


 お次は長く艶のある黒髪を束ねつつ、リビングへと足を踏み入れる母、数原千景かずはらちかげ。オレと違って物腰どころか、その面持ちでさえも柔らかで……


「ああ。それと飯食った後、ちょっと出てくる。あいつを……探しに」

「そう……。無茶だけはしないでね?」


 思慮深い、人格者と言って差し支えない人物である。



 朝食後、面白味のない私服に着替えたオレは、早々に家を出て街へと繰り出す。

 オレが住んでる場所は都会寄りな為、平日であってもそれなりの人間が外を出歩いていた。


「さて、まずは……」


 大通り最奥、在るのは遠目でも分かるほどの大きな時計台。針は『十時十分』を刺している。そこまでの距離は十メーター。まずはここから『射程距離』の下調べと行こう。


 『力』もあれ以降使用していない為、それなりに貯えができた。やはりクールタイムがそのまま、執行できる『弾』へと変わるらしい。要は強力な変換を行なう為には、連発を控えた方がいいってこった。貯めて貯めて吐き出す。能力を使っていくうえでの基礎ってところだろう。


 再確認も済んだため、早速オレは『射程距離』確認作業へと移る。瞳を紫に変え、時計の針を……あくまでも針だけを五分前へと変換する。


『十時五分』――


 十メートルは難なくクリア。それから十一、十二、十三と『十時十分』と『十時五分』を行き来させる。


 しかし――


「やはりダメか……」


 十四メートル以降は変換できなかった。十五、十六と試したが、いずれも能力は沈黙。保有量がないというわけではない。ちゃんと『力』の源は感じるからな。『十三階段』ゆえの縛りがあると見て、まず間違いないだろう。


 ちなみに百メートルの方も一応は試してみた。結果は言うまでもなく不発だったがな。とにかく『射程距離』は十三メートル。今んとこはこれで決まり。


 次、『触れた場合と見た場合とで力に差異はあるのか?』についてだ。一応この能力、目視によって行使できることが確認されている。今しがた調べた『射程距離』で念じたりもしてみたが、そいつは無理だった。


 では、その逆……はどうなるのか? その検証もしていきたい。対象はこの腕時計。触れながら先ほどと同じように針を変換していく。


 するとどうだろう? 『十時十分』――『十時五分』――『十時十分』――『十時五分』。さっきよりも心なしか、スムーズに変換できているじゃないか! 『弾』もそこまで減ってない……ような気がする。どうやら触れながら使用した方が、消費量を抑えられるらしい。いいことを知った。


 しかし、これはあくまでも前座。この話にはなんと、まだ続きが――


「ちょっとぉ……! いい加減にしてよ! アンタらに構ってる暇なんて、アタシたちには……!」


 あったのだが、昨日耳にしたばかりのが話の腰を折りやがった。

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