第6話 冥界送り

 自分の領域テリトリーへ引きずり込んだ対象を、闇に葬る『七不思議』の一つ――『いざない老婆』。話を聞くにこいつは、ウチの学校じゃ一番ヤバい『七不思議』だったとか。


 しかし、そんな奴も今や……


『アァ……ァ……ァ――――――』


 闇の中へと消えていった。


「これが……オレの『力』……」


 と、己が手のひらを見下ろし、それからふと左手にある窓を見遣るオレ。

 闇夜に反射して映ったオレの姿……というか、オレの『目』。紫色に光っていた。そして凹凸おうとつも。まるで『階段』のように。


 それも次第に解除され、窓には元のオレが映り込む。

 そこでオレは自分の『力』、その概要を一旦整理することにした。


 オレの得た『力』、それは――『数を変換する力』。


 変換できる範囲は恐らく零~十三だと思われる。さっきの『いざない老婆』の件は、『オレらに対する興味をゼロに変換した』ことで事なきを得た。要は使いようってことだ。


 無論、これはまだ説明書で言うところの一ページ目。全てを理解しているわけではない。影響度合、射程距離、執行代償などなど、まだまだ知らなければいけないことは山ほどある。でも、今は――


 一仕事終えたオレは、溜息を一つまみ。先ほど上がってきた階段を降りて一階を目指す。


 すると……


「あ――っ⁉ 大丈夫だった? 数原かずはらくん……?」


 壁際から覗いていた水戸葵みとあおいが、驚き半分、心配げな面持ち半分でお出迎え。


「ああ。なんとか」


 そんな彼女に対してオレが淡々と返すと、


「なんとかって……どうやってあんなのから逃れたのよ? アンタ、何者……?」


 火口茜ひぐちあかねもひょっこり身を乗り出し、訝しげな視線を此方に向ける。


 さすがに怪しまれてるみたいだな。とはいえ、能力のことをペラペラ喋るのは得策とは言えない。『超常の存在』は未だ謎な部分も多いし、どっかの研究機関に送られるなんてのも、まっぴら御免だ。自ら危険な領域に足を踏み入れる必要もない。そういうのは、さっきの『いざない老婆』ん時だけで充分だ。


「何者でもない、ただの普通の男さ。それより二人は大丈夫か? 怪我とかは?」

「心配してくれるのもありがたいし、助けてくれたことにはお礼を言うわ。けど、よくよく考えたらさ……アンタ、なんでこんな時間にここにいるの? まさか、アンタが『いざない老婆』を……?」

「バレたか」

「バレたかって……! ふざけんじゃないわよ‼ アタシたちもう少しで死ぬとこだったのよ⁉」

「まあ、半分はオレの所為だ。それは認めよう。でも、オレがここに来る羽目になったのは、星羅せいら含め、お前らがトロトロしてたからだ。未だに帰ってこないっつって、星羅のお母さん、泣いてたんだぞ? 言ってる意味、わかるよな?」

「残りの半分はアタシたちの所為って言いたいわけ……?」

「そういうこと。だから、これ以上は言いっこなしにしよう。で、そろそろ本来の目的に戻りたいんだが……?」


 と、二人の間に視線を巡らせるも、あるのは視線を逸らす水戸と火口、その曇りゆく顔だけ。


 こいつらしかいない時点でなんとなくは察してたけど、まさか……


「星羅は……まさかさっきの奴に?」


 待てども口を開かないので、オレがそう促してやると、


「いや、星羅は『七不思議』なんかにはやられていないよ。寧ろその逆さ」


 水戸の視線がこちらに回帰。とはいえ、その面持ちに晴れ間は見えない。


「逆? ってことは……」

「そう。。さっきのとは別の『七不思議』――『冥界送り』をね」

「『冥界送り』?」

「聞いたことない? 『その扉を開けし者、冥界へと誘わん』って言葉。『冥界送り』は別世界へと通ずる扉を開くことができる『七不思議』の一つ。星羅はそれを……」


 聞いたことないわ、そんなもん。聞いたとしても一蹴する自信がある。


「で? あいつはそれで『力』を得たんだよな? 居ないってことはつまり……?」

「たぶん、『冥界送り』の力を使って……だと思うけど……」

「だと思う? 随分と曖昧な言い回しだな」

「それが……。だから実際には見てないんだ。でも、何も言わずにいなくなったってことは、そういうことだと思う……」


 水戸曰く、星羅は『力』を使って別の世界に行っちまった……らしい。ったく、何やってんだアイツ……! まあ、オレも試し撃ちしてた手前、人のこと言えんが……


「あいつが消えた場所は?」

「『図書室』だよ。あそこは色んな知識、世界が本として存在している場所だからね。だから、『七不思議』もそこに」


 聞くだけ聞いたオレは、また溜息を一つまみ。図書室が存在する四階を目指さんと、振り返りしな階段の方に。


「ちょっと待ちなさいよっ! アンタまさか……行くつもりじゃないでしょうね⁉」


 すると、『いざない老婆』が消えて普段の自分を取り戻したのか、火口が声を張り上げてきやがった。キンキン声が鬱陶しい。


「そりゃあ、このまま『はい、そうですか』と帰るわけにはいかないからな。せめて自分の目で確かめてから判断する。二人はもう帰っていいぞ。『いざない老婆』が消えた今なら、領域テリトリーも解除されてるだろうしな。それじゃ」


 と、そいつを冷めた態度で流したオレは、今一度歩を進めんとする。が……


「ちょっ……! そんな言い方なくない⁉ アタシたちだって星羅のこと、心配してんのに……。ねえ、葵⁉」

「そ、そうだよっ! ボクもこのままじゃって思ってたし……。それにあんなことがあった後で、この夜道を帰るのは、ちょっと勇気が……」


 火口も水戸も星羅の友人。心配するその気持ちはきっと本物だろう。……あと怖いって乙女心も。


 こうしてオレは何の因果か、クラスの女王クイーン二人を引き連れ、図書室を目指すことに。正直、一人の方が楽なんだが……まあ、情報源として確保しておこう。また別の『七不思議』に巻き込まれたら、さすがに堪らんからな。

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