第5話 『数』を従え、行使せよ

 『七不思議』の一つ、『十三階段』を攻略し、晴れて『超常の者』となったオレ――数原匠十かずはらたくと

 感覚的なものではなく、実感としてはオレの中に存在する。不思議な感じだ……


『いやああああ――ッッッ‼』


 そんな得も言われぬ『力』をこの身に感じていた最中、ある女の悲鳴が耳に届く。


『誰か――ッッ‼ 先生――ッッ‼ 助けてぇ――ッッ‼』


 今度は別の女だ。二人いる。そして、でもあった。もしかしてこれは……


 響く足音で走っているのは……いや、逃げているのは明白だった。というか、そんなのはこの悲鳴で言うまでもないこと。オレは身体を押し上げ、悲鳴のする方向、二階へと駆け上がっていった。


「はぁ……っ、はぁ……っ、……先生っ⁉」

「助けて……っ! ……って、あれ……?」


 足音からして向かうまでもないのは自明の理。ということで待機していると、曲がり角から二人の女子がこちらへ。やはり、水戸みと火口ひぐちだったか。


 星羅せいらとよくつるんでるクール系女子とギャル系女子。それは片やパンツスタイル、片やミニスカスタイルという私服選びからでも、容易に見て取れた。


 普段は教室の女王クイーンたる二人だが、今は完全に泣き腫らしている。生と死の狭間に置かれた彼女らは、いつも以上に……美しい。


「先生じゃなくて悪かったな」


 しかし、いつまでも見惚れていては気味悪がられてしまう。オレはいつもと変わらぬ冷めた対応を以て、彼女らへの回答とする。


「君は確か……数原君、だったっけ……? 星羅の幼馴染の……?」


 これは驚いた。水戸はどうやらオレのことを知っていたらしい。……って、まあ同じクラスなんだから当たり前なのかもしれないけど、星羅から聞いたのかな?


「今はそんなことどうでもいいって……! 早く逃げるのよっ! が……がもう……!」


 あいつ……? そう言って振り返った火口に釣られ、廊下の最奥を見遣ると……


『アァ……ァ……アア……ァ……』


 二メートルオーバー、天井に頭がつく程の長身を持つ、人型の化物が曲がり角からゆらりと姿を現した。


「「――ッ⁉」」


 息を呑み、目を見開く火口と水戸。片や向こうは……そう。痩せ細った人間にも見えるが、もう骸骨状態と言った方が早いかもしれん。床まで伸びた白髪と手が特徴的で、あとは……足がない。代わりに黒い煙のようなものが身体を支えている。闇を従えているかのようだ。


「あれも『七不思議』の一つか?」

「ええ……。『いざない老婆』よ。自分のテリトリーに誘い込んだ者を、『闇』へと引きずり込むっていう、ウチの学校でも一番ヤバい奴……」


 淡々と問うオレに対し、カタカタと震えながら、そう答える水戸。


「でも、、本来出てこない奴なのよ……! アタシたちはちゃんと手順を踏んで学校に入ったはずなのに、どうして……」


 誘いに乗りさえしなければ……? もしかしてあのひとりでに開いた窓……この『いざない老婆』ってやつの仕業だったのか? だとしたら完全にオレの所為だな。オレが誘いに乗ったから、こいつが起動しちまった。こんなことなら鷹志たかしにちゃんと聞いときゃよかったな。


『アァ……アァ……ア……ァ……』


 『いざない老婆』の声は大層な重低音。響く、この身のどこまでも。

 そして、ゆらり……ゆらりと近づく度、どこか息苦しさも感じる。奴の従える『闇』のせいか? それとも……


「早く……っ! 早く、逃げな……きゃ……!」

「どこに逃げるっていうのよ……っ⁉ 窓も、ドアも……全然、開かなかったじゃない……っ!」


 水戸と火口は声を潜めつつ、一歩……二歩と後退り。自然とオレの背に隠れる構図に。


 まあ、元を辿ればオレが蒔いた種。守る義務ってのも発生しないこともない、か。それに『力』を試すという意味でなら、このシチュエーションはちょうどいい。……やってやる。


「二人は一階に。あいつはオレが引きつける」

「は……? ちょっ……何を言って……?」

「引きつけるって……? どうするのよ、アンタ……?」


 言うや否や水戸も火口も、先程とは別ベクトルの驚きを見せる。こんな月夜だってのに、酷ぇ顔してらぁ。


「問題ない。考えがある。それとも……一緒にやるか?」


 そん時のオレは……どんな顔してたんだろうな。自分じゃ見えちゃいなかったが、火口曰く「なんで笑ってんのよ……?」らしい。だいぶ気味悪がられてしまった。


『アァ……! アァ……ア……ァ……!』


 標的との距離、あと凡そ三メーター弱。迫る『闇』にもう言葉はいらない。


「……っ! 行くわよ! あおい!」

「ちょ……っ! 待って……あかねっ!」


 恐怖は次第に火口を駆り立て、水戸の手を取ってはこの場から退避。有無を言わさず、階段を駆け下りていった。


 火口茜に水戸葵、か……。覚えておこう。もしかしたらここで死んでしまうかもしれないからな。あぁ、もちろん……


『アァァ……! アァ……! ア……ァア……ッ!』


 彼女たちがって意味だけどね。


 接敵。真ん前まで来られると、余計デカさを感じるな。息苦しさもハンパない。普通だったら余裕で殺されてるとこだろう。


 だが、それも――ここまで。


 オレは奴を。視ただけだった。その目で確とな。でも、それが重要だった。にする必要があったから。


『アァ……ア……? アァ……ァ……』


 その結果、『いざない老婆』は踵を返し、オレの前から去っていった。



 

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