名前

YouGo!

ゆうご

 名前を間違われたことはあるだろうか。

 「ゆうじ」なのに「りゅうじ」、「まこと」なのに「まこと」——些細な違いのようで、妙に引っかかることがある。

 私は、何度も間違われてきた。


 私の名前は悠悟ゆうご

 「ゆう」と読む漢字も、「ご」と読む漢字も多く、間違われることは日常茶飯事だ。今日もまた、手紙の宛名が違っていた。


「誰だよ、優吾ゆうごって」


 そうぼやきながら、私は手紙の封を切る。


 ——優吾さま、当選おめでとうございます。あなたは選ばれました。


「……何だ、これ」


 書かれた住所は間違いなく私のものだ。しかし、この手紙にまったく心当たりがない。

 差出人も書かれていない。中身はただ一行、『当選おめでとうございます。あなたは選ばれました』


 何の当選? 何に選ばれた? その説明が一切ないことが、不気味だった。


「……イタズラ、だな」


 私はそう思い、手紙をゴミ箱に捨てた。



 翌日、また手紙が届いた。

 今度の宛名は「祐悟ゆうご


 同じ封筒、同じ切手、同じ筆跡。そして、同じ文面。


 ——祐悟さま、当選おめでとうございます。あなたは選ばれました。たくさんの友達に出会えるといいですね。


「何なんだよ、これ……」


 私はゾッとして、手紙をぐしゃぐしゃに丸めて捨てた。

 優吾でも、祐悟でもない。私は悠悟だ。


 ——私は、悠悟……だよな?


 その不安を振り払うように、深く息を吐いた。



 ——翌日。


 ピーンポーン。


 インターフォンが鳴る。ドアを開けると、知らない男が立っていた。


「よお、雄吾ゆうご。久しぶり。元気だったか」

「……どちら様ですか?」

「何言ってんだ雄吾? 友達の顔も忘れたのか?」

「……私に友達なんていません」

男は笑いながら首を振った。

「さては本気で忘れてるな? ほら、高校で同じ部活だった、安田やすだだよ」

 そう言われ、男の顔をよく見る。

 ……確かに、高校にこんな顔の友人がいた気がする。


「安田……吉貴よしきか?」

「そうそう、吉樹よしきだ。やっと思い出したか」

「何年ぶりだと思ってるんだ。それも急に来て……詐欺だと疑われても知らないぞ」

「ははっ、ひでえな」

 吉貴はしばらく話をした後、「また連絡するよ」と言って帰っていった。

 しかし、その後、ふと思った。


 ——本当に、私にあんな友達はいただろうか。



 私は急いで自室に戻り、高校時代の卒業アルバムを引っ張り出した。

「どこだ……安田、安田吉貴……あった」

 三年三組に、彼の名前を見つける。

「よかった……実在するんだな」

 正直ホッとした。彼が私の名前を呼んだとき、妙な違和感を覚えたからだ。

 最近、よく名前を間違われる。だから疑心暗鬼になっていたのかもしれない。


 気を落ち着かせるように、アルバムをめくる。

 ……しかし、どのクラス写真を見ても、自分がいない。

「おかしい、おかしい……」

クラスの集合写真にも、部活の集合写真にも——どこにも自分の姿がない。

「いない……いない……ここにも……」

 最初から最後まで隈なく見た。

 しかし、『悠悟』の名前も、姿も、どこにもなかった。


 恐怖が背筋を這い上がる。


「そんなはずはない……俺は、確かにこの学校に——」

 アルバムを手放し、思わず壁に投げつけた。

 バサッ。


 床に落ちたアルバムが無造作に開く。

 ふと、目に入ったページ。そこには——


「……雄吾ゆうご?」


 三年三組に、雄吾という名前の男がいた。

 そのクラスには、吉貴がいた。


 ——まさか。


 急いでほかのページをめくる。

 一組には優吾ゆうご、二組には祐悟ゆうごがいる。


 しかし——


「知らない……誰だこいつ……」

どの『ゆうご』も、見覚えのない顔だった。


 ——何だ……何なんだ!


 頭がガンガンする。

 気分が悪い。耐えられなくなり、洗面所へ駆け込んだ。


 蛇口をひねり、冷たい水で顔を洗う。

「落ち着け……ただの、見間違いだ……」

 そう思って、鏡を見る。


 ——違和感。


 私は、こんな顔だっただろうか。

 私は、こんな体型だっただろうか。


 私は——


 ——私の名前は?


 ピーンポーン。


 インターフォンが鳴る。


『よお、裕吾ゆうご。久しぶり。高校で一緒だった良樹よしきだよ。元気だったか?』

それは、知らない男の声だった。

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