STUCK STORM [スタック・ストーム]【リバイバル版】

渡貫とゐち

第1話 この身が朽ち果てようとも


・まえがき・


 現代なのか、異世界なのか、曖昧にしておきます。

 はじめての群像劇と言えばこれ。しかも時系列を少しいじっていまして、最初から難しいことをしているという。よくまとまったなあ。……たぶんまとまっているはず。


 古めの映画をイメージしました。

 なのでタイトルもそれに合わせて。ネット小説としては不利になるタイトルでしょうけど、大半を切り捨てることで本当に好きな人が集まる場所、なんて。そうなるといいですね。


・おわり・





「第1話」





 走る。

 走る。

 私は、走る。


 ただただ、目標に向かって、一直線に走っている。


 その目標が良い理由ならば、これはまるで「青春しているなー」とでも言えるようなことだとは思う……それに、爽やかな汗を流している、とは思うけど――。

 でも、私が今かいている汗は、冷や汗だった。

 まずい状況への、どうしようもない状況に向けての、汗だった。


 目を背けたくなる状況に、目を背けていた私は、顔を上げ、視線を向ける。

 その、どうしようもない状況に、目を向ける。



 ――私の大切な人が、車に轢かれる、まさに数秒前。



 それが、今の状況だった。

 周りを確認できていないのか、彼は、迫る車に気づいていない。

 そのまま、道路を渡ろうとしている。


 この道路には街灯がないから、迫る車の運転手さんの方も、彼には気づけない。

 と言うよりは、気づきにくいのだろう。

 気づいたところで、至近距離にならなければ分からないほどに、真っ暗なのだ。

 ヘッドライトで照らせるのも、至近距離、少し前くらいだろうし。


 そんな状況。

 本当に、どうしようもない。

 どうすればいいのか、全然、まったく、分からない。


 教えてほしい。

 この状況を、どう打開すればいいのか、教えてほしい。


 神様でもなんでも、今ならば悪魔でもいい。

 魔王だって、閻魔様だって、なんだっていい――


 ただ――手が欲しかった。

 猫の手でもいいから欲しかった。

 実際に問題を考えれば、猫の手じゃ全然足りないから、人間の手が欲しかったところだけど。


 しかし、贅沢も言っていられない。

 人間の手は、今や私の二本だけ。

 期待していたわけでもなかったけれど、猫の手だって、今は一つもない状態だった。


 自分の力で、どうにかするしかない。

 思えば、最初から、これは神様が私に与えてくれた試練なのかもしれない。


 大切な人を――好きな人を助ける。

 自分の力でやってみろ、なんて、女の子にさせるにはあまりにもハードなことを、神様は要求していたのかもしれない。 

 でも、思う。

 これくらいできなくて、なにが好きな人だ――。


 命を懸けることもできない相手を、本当に、自分は好きなのか――?

 好きだ。本当に好きだ。全部、全部、どこを切り取っても。

 全身、細胞から全部。

 欠点だって、全部。なにもかもが、私は、その人のことが好きだった。

 命を懸けられない、わけがない。


「はあっ、はあっ……」


 吐息が漏れ、体力が全身から奪われていく。

 そんな感覚が、脳にきちんと届いている。

 これを感じて――ああ、私は今、きちんと生きているんだなあ、と感じる。


 勘違いしてはいけないのが――私は、別に死のうと思っているわけではないのだ。

 命を懸ける、イコールで、死ぬじゃない。

 死ぬほどの危機を味わうことにはなるけど、生きて帰ることだってできるのだ。

 一歩間違えれば、死ぬ。ただ、それだけの危機でしかない。

 まあ、充分な死の危険だけれど。


 それが、なんだ。

 それが、どうした。

 そんなもの、今の私には、手枷にも足枷にもならないっ!


 決意は固く、揺るがない。

 足は疲れ切っている。しかし、止まらない。

 道路に足を踏み込み、進む。

 迫る車の運転手さんにも、彼にも、まだ、私のことは認識できていない。


 今なら、相手に動揺や戸惑いを感じさせることなく、事態を、安全に終わらせることができるかもしれない。

 結局、時間との勝負。動け、私の体。勝負はここからなんだから!


「――っ、あぶ、ないっ!」


 私は、彼を勢いよく押した。

 背中から地面に倒れたら、たぶん痛いだろう勢いをつけて、彼を押した。

 そのおかげで、彼は車に轢かれることはないだろう。

 完全に、安全に、この状況から抜け出すことができただろう。



 でも――


 今度は、私の番だった。



 車の速度は変わっていないだろう。

 さっきと変わらず、一定の速度なのだ。

 けれど、私には、加速しているように見えた。


 迫る車を見る。

 迫力が凄くて、ここまで恐いものなのかと、心の中に刻み込まれた。

 ヘッドライトが、私を照らす。


 そこで、ようやく運転手さんは、私の存在に気づいたらしい。

 すぐにクラクションを鳴らす。

 そして、ハンドルを大きく切るけど――でも、明らかに、間に合わない。


 ちょっと、悪いことをしちゃったかな……。

 運転手さんには、人殺しという罪を被せてしまったことになるし。

 どれだけ努力をしても、『できない』――不可能なことはある。

 今の状況はそれに当てはまるだろう。


 運転手さんも、諦めたのかもしれない。

 顔が――表情が、消えた。

 無の表情だった。

 なにも感じられない、全てを諦め、真っ白になった、顔。


 私も、そんな顔をしているのだろうか。

 だったら、彼には見せられないな、と思った。

 けれど、



「おい、せ――なっ、おいッ!!」



 彼が、私の名を呼ぶ。

 でも、聞こえづらい。

 クラクションとか、タイヤが地面を削る音とか、色々と混ざっていて。

 彼の声は、あっさりとかき消されていく。


 見せたくない顔だったけど……

 でも、私は、最後だからと思って、意を決して、見せる。

 走馬灯を見る前に、彼に見せる。


「――きだった」


 私は、言う。

 しかし、彼に聞こえていないだろう。

 自分でもそれが、分かってしまう。


 声は、震えて。

 私は、今から死ぬという事実に、今更、恐怖を覚えて。

 言えなかった。

 もう一度、声を発するという行動は、あっさりと、中止に追い込まれて。


 激しい衝撃が全身を突き抜け。

 視界は一気に真っ暗になr、sのmm暗tnしt、



 ――――――


 ――――


 ………………。


 ………………………………。

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