少年の手に剣はない。
握り締めるのは、道中で拾った木の棒である。
目の前には、魔物がいた。
これで五度目の出会い――、そして交戦だ。
相手の動きもだいぶ見慣れてきた……はずだ。
鋭い牙と、吐き出される火の玉が強力だ。
しかも機敏な動きで姿を捉えにくい。
「シシャーッ!」
鳴き声と同時、大地を疾走し、砂煙をあげ、視界不良の中で魔物が少年の真後ろへ。
少年の反応が遅れた。
振り向けば、眼前に魔物の爪が迫っていた。
咄嗟に頭を後ろへ引き、偶然にも爪の脅威から逃れられた。
だが、風を切る音が近距離で聞こえ、少年がかけていた丸メガネが吹き飛ぶ。
地面の小さな石にかかとが引っ掛かり、少年が尻もちをつく。
額を踏み台にされ、晴天に向くお腹へ。
愛玩動物にも見える魔物が、後転した後にとすんと着地した。
四足歩行の、毛玉のような小さな魔物である。
真ん丸の瞳に――「まだまだだな、ひよっこ」と言われているような気分だった。
「あー、また負けた……」
そして。
容赦なく火の玉が吐き出され、少年の顔が煤だらけになった――。
少年の名はオットイ。
これでも選ばれし、レベル1の勇者である。
・・・ 過去作「旅する勇者がきらう町」のプロモーション掌編でした