攻略対象1 ゲームのカレ 現実のカレ
桜舞う入学式の日の朝。
美しい男子生徒は、憂いあふれる表情で桜の木を見上げていた。
「あの、ここの生徒の方ですよね。入学式、遅れちゃいますよ」
声をかけても、返事はこない。
けれど、男子生徒がこちらを見れば、ハッと息を呑むほどの美しさに、暫し時が止まったように感じてしまう。
キーンコーン……カーンコーン……
始まりのチャイムの音だ。
「……」
彼に、急ぐ様子はない。
「君は、この花をどう思う?」
「あの、キレイだと思います」
答えてみると、彼の顔が近づいてきた。
彼の宝石のような目に、吸い込まれそうになる。
「どうやら君は、他とは違うようだ」
「……」
ドキドキしているワタシとは逆に、彼はスンとした表情で、近づいた顔を離した。それから、彼はまた、木を見上げた。
「ワタシ、新入生なんです。これから、よろしくお願いします」
深くお辞儀をして、式場である体育館に急いで向かった。
ゲームの序盤。ルカは口数が少なく、ヒロインにもさほど関心を持っていなかった。
ヒロインがルカに話しかけて、ストーリーが進行していくと関係も進展していく。
これが、ゲームでのルカ。
現実でも、入学式の日。ルカは木を見上げていた。
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ここに来てから、この時期になると、この木を見る。
あの花とよく似ているこの花を。
あの花を見て。
あなたは、この花をどう思う?
あの花たちは、特別なの。
そんな顔をしないで。ルカは、ワタシにとって特別だから。
ーーーの声が聞こえた気がして、振り向いた。
そこにいたのは、花の色より濃く鮮やかな目をした少女だった。
あなた、とてもキレイね
泣きたくなるくらい、懐かしくて恋しい声がした気がする。
でも、これは間違いだ。聞きたい声の主はいないだろう、と視線を戻した。
あの娘と出会ったのは、それからすぐの講義での事だ。
「花の香りがする」
おそらく、無意識に出た言葉だろう。
その言葉に、一瞬ドキッと心臓が跳ねた。
ここに来て初めて、話がしたいと思う人に出会った気がした。
彼女からも、名前を知らない花の香りがした。
君を、もっと知りたい……
けれど、女生徒と目があった時、バツが悪そうに目線を逸らされた。
それから講義の間、彼女の視線が僕と交わることはなかった。
乙女ゲームの世界に転生しました。ゲームの世界も現実です 月花たぬき @ana
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