第18話 見てみたいのですよ。修羅場ってやつをね。

 ここはアンリが普段生活しているところ。つまり、自宅である。そこにアンリと不知火、一宮、村上、銀の五人がテーブルを囲んで座っていた。


「さて、こんな時間に集まってもらったのは他でもありません。このアホたんチンがまたやらかしてくれたからです」


 アンリはまじめな顔でみんなの表情を窺う。時刻はすでに夜の七時を回っている。本来であれば夕食を摂る時間なのだ。一体何のために集めたのか知らないがとりあえず終わらせてくれといった感じだった。


「そ、それでぇ?アンリちゃん。一宮君が何したの?」


 アホたんチンとしか言っていないのに一宮の事を指していると思うとは。不知火は一宮の事を普段どう思っているのか察することができたが、合ってはいるのでアンリは触れないでいた。


「銀、今一宮はあなたのとこにいるの?」

「違うわ、『ヴァルキリー』のとこよ。ハルと同棲してるわね」


 銀は不服そうに答える。村上と不知火はえっ?という顔をしている。


「何故そんなことに?確かに一宮さんは奥宮さんとは『黒霧の悪夢』から仲がよろしかったようですが、そこまでいく仲だったのですか?」

「そ、そうだよぉ!今まで一宮君は村上君のとこに泊まることが多かったけど、その事件のことがあってからは銀ちゃんの好意に甘えて一緒に住んでたじゃない?」


 一宮はテーブルの上のお茶をずずずっとすすっている。あー、これは一通りみんなが発言してから色々言う感じね。


「その通りよ。私達は一緒に住んでいたわ。一週間前までは」

「私たちは二週間前に一端、殺し屋稼業を中断しています。理由は前にも言ったけど私と不知火の大学の研究室が忙しくなったからよ」


 そう、アンリ達が通う『千の宮大学』の工学部建築学科ではアンリ達は研究室での作業に追われ、色々と大変になっているから一端仕事は休んで再開未定の長期休暇になっていたのだ。


「けれど、言ったわよね?何か変化があれば報告するようにって。それがちょっと目を離した隙にまたもう……なんとか言ったらどうなの?一宮!」


 名指しされた一宮はバツが悪そうにアンリに向き直りこう言った。


「だからごめんよ、アンリ。別に隠していたわけじゃないんだ。ただめんどくさかったというか、純粋に忘れていただけなんだ」

「それが悪いって言ってんでしょうっ!どうしてそんな重要なことを報告せずにいられるってのよっ!」

「そうよ、一宮さん。私の元を去って一週間。私は毎夜枕を濡らして寝ていたわ」


 銀は一宮が勝手に一週間もハルのところに泊まっていたのに対して少し不機嫌なようだった。


「でもさ、銀。元々俺は居候の身だったんだ。君のとこに長居することは君にとっては迷惑だったんじゃなのか?」

「いいえ?毎日が新婚生活みたいで幸せだったわ」


 一宮は?マークを頭に浮かべている。この鈍感系主人公めっ!


「まぁそれはともかく。私がちょっと気まぐれで一宮に『最近何か変わったことはない?』ってメールしてみたらこいつが色々とやらかしていたみたいだったからね。ちょっと聞いてくれるかしら?」

「やらかしてるとは失礼だな、アンリは。まぁ、話せと言われれば話すよ。あれは一週間前くらい前のこと。銀と買い物をしていたらハルからメールが来てね……」


 それから一宮は話し出す。『ブケヤシキ』と松条のこと。ハルの事。そして、ダンテ・アヴェンジャーのこと。それらとの学校での出来事を簡単に。


「それはまた何とも複雑なことになったものです。『ブケヤシキ』は銀が元居た組織。それらのメンバーに一宮さんの後継者の末裔が入るなんて。さらに、私達『必要悪』とはお互いに部下を殺し殺された関係にあります。立場は微妙な関係と言っても過言ではありません」


 村上はかなり深刻そうな顔をしている。


「『ヴァルキリー』と『ブケヤシキ』のボス同士が『ヴァルキリー』の本部で話し合うなんてことも異常だよぅ…それにお互いに護衛を付けてでしょう?何もなかったの?」


 不知火はあわわと言った感じで一宮に聞く。


「ああ、楽しかったよ。あの学校での事件から松条とハルは一緒に帰る仲みたいでね。仲良く学校生活を送っているみたいだったよ?夕方になるとハルはいつも松条とダンテを連れ添っていたらね。一緒にゲームする仲になっているさ」


 対人戦のゲームに最近ハマってるんだと一宮は嬉しそうに言う。このバカは危機感というものがないのかしら?


「あのねぇ!そんな状況がいつまでも続くわけないでしょう!!」

「え?なんでだい?」


 このおバカはっ!


「あのねぇ!何かあって『ヴァルキリー』と『ブケヤシキ』の抗争に発展したらどうするのよっ!」

「ダンテか俺が止めるけど?」

「ダンテが裏切ったらどうするのよっ!」

「俺が止めるさ。俺の方が強いからね。そもそも、ダンテは裏切れないよ。ダンテはもう心を入れ替えているんだから」

「で、でも私達『必要悪』と『ブケヤシキ』は違うでしょう!こっちには私怨とか銀のこともあるし!」

「それこそ愚問だね。俺がその争いは許さない。それにお互い痛み分けみたいなとこがあるんだ。もう十分だろう?松条に銀の事を話したらもういいってさ。『ブケヤシキ』としては今はそれどころじゃないみたいだし、俺がいるからそもそもやろうとしたらこっちがやられるからって」


 アンリは絶句した。え?銀の事話しちゃったの?しかももういいって?


「そんな重要なこと勝手に決めないでよっ!私がリーダーなんだから私に相談するのが筋ってもんでしょう?もし銀に危害が加わるようなことがあったらどうすんのよ!!」

「そ、それは……ごめんよ?銀。俺が悪かったよ…」


 一宮が銀に謝るという滅多にないことが起こっていた。普通に初めてじゃない?


「そうね。確かに一宮さんは軽率だと思うわ」


 そして、珍しく銀が一宮に怒っている。これも初めてね。


「だから今日からは私とまた一緒に暮らしてもらうわ。それで毎日一緒に寝てもらいます」


 結局こうなるのね。もう付き合っちゃいなさいよ。


「なんで銀は俺と一緒に寝たがるんだ?」

「あなたが好きだからよ」

「俺も好きだけどそれは異性との好きじゃないんだ。わかってくれ」

「でももしあなたが昔レインに同じこと言われてたら大人しく引き下がったかしら?」


 おっと、これは予想外の展開ですねー。流石の一宮もうろたえてるわ。


「それは………確かにそうだね。銀の言うとおりだ。」

「でしょう?もういい加減諦めたら?あなたはもう私と付き合うしかないのよ」


 それも極論だと思うけどねー。


「俺もそろそろ次のステージに進む頃合いかもね…レインの亡霊も去ったわけだし…」

「だったら……」

「でも俺一人では決められないな」


 え、どういう事?


「以前話した通り俺には二人の俺がいる。三人共好きになってもらわないとお互いに納得できないと思うんだ。だから俺のことが好きな人と俺の中の二人をデートさせてみるべきだと思う」


 そういえばあんためんどくさい感じになってたわよねー。


「だから、銀とハルに俺の中の二人ともデートしてもらおうと思う」


 やっぱりハルちゃんも一宮のこと好きなのねー。ていうか前にあんた自分では二人には成り代われないって言ってなかった?


「ちょっと待ってください」


 村上がここで口を挟む。え、このタイミングで?なんで?


「アンリさんも混ぜてもらってもいいですか?」

「はぁ?」


 今まで心の中で色々ツッコんでいたが流石に口に出す。いや、だってこんなん言われちゃあねぇ?


「なんで私が一宮とデートしないといけないのよっ!」

「アンリちゃん……一宮君の事好きでしょう?この二週間そわそわしてたもん。一宮君に会えなくて寂しかったんでしょう?連絡とるべきかどうか悩んでたし…」


 し、不知火ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!


「そうだったんですね。ではそういう事で。一宮さんは銀とハルさんとアンリさんでデートをするという事で決定ですね。日程は私が組んでおきますのでご安心を」

「か、勝手に決めないでよっ!てかなんであんたがそんなノリノリなのよっ!関係ないことでしょう?」


 すると村上は眼鏡をキラン!と光らせるとやれやれといった風に答える。


「私はね、見てみたいのですよ。修羅場って奴をね」


 ああ、だからこいつモテないんだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「まずは正妻からよね」

「制裁?どういう意味ですか?」

「いずれわかるわ」

「何故だか怖い気がします……」


 まずは銀から一宮とデートをするということになった。村上曰く一番暇だそうだからだ。確かに私は大学があるし、ハルは高校がある。銀は学校に行っていないから仕事がなければただのニート同然なのだ。


「で、それはわかるんだけどだったらなんでここに私がいるのかしら?」

「いや、気になるかなと思いまして」

「気になるか気にならないかで言われたら気になるけどさぁ…」


 だったら今日私講義がなかったから私で良くない?と言いそうになるのをこらえる。それを言ったらなんか私が早く一宮とデートしたいみたいに思われるからだ。


「なんで私村上とデートの尾行してるんだろう…」

「尾行しなければこんな意味わからないデートを勧めませんよ」


 村上はあくまでこのデートを楽しみきるつもりのようだ。


 現在一宮と銀は二人で商店街をぶらぶらと散歩している。それを後から村上とアンリはつけているのだ。変装してはいるが知っている人に見られたらすぐにバレる服装をしているのだが、村上曰くそれがいいのだという。なんなんこいつ?


「でもあいつ自分の中の二人と意識的に代われないんでしょう?見た感じ騎士の頃の一宮じゃない?」

「ええ、そうですね。ルーク一宮ですね」


 なんか新しい名前が付けられていた。


「ダンテさんの件でなんか代われるようになったみたいですよ?」

「そんなご都合主義じゃないんだから……」

「あ、二人が脇道にそれました!行きましょう!」

「テンション高過ぎでしょう…」


 あんた顔は良いんだからもうちょっと自分を見つめ直したら?



     ◇     ◇     ◇ 



 銀とルーク一宮は水族館へ来ていた。きっと銀が誘ったのだろう。そもそもルーク一宮はこの世界に詳しくないし。


「見てみて!この子かわいいー!」

「そうですね。海の生き物がこんな感じで見られるなんて……面白いですね」

「もうっ!もっと魚を見てよぅ!」

「あはは、そうですね。すみません、銀さん。こんな経験は初めてで…」

「そうね。でもこれからはたくさん経験できるわ。私と一緒にね?」

「え?それはどういう……」

「ほら!あっちにも行きましょう!」


 二人はめちゃくちゃエンジョイしていた。銀もなんだかテンションがいつもより高めだし。やっぱり騎士の頃の一宮ってなんだかんだ紳士だし優しいのよねー。

 隣を見ると村上は舌を噛み切って何とも言えない顔をしていた。あんたほんと何がしたいのよ。


「あ、イルカショーを見に行くようよ?行きましょう?」

「ええ、そうですね………このデートが終わる前までに失血死しなければいいのですが……」


 こいつもう色々と限界ね。


 私達が二人の後をつけると、銀とルーク一宮はイルカショーの最前列の席に並んで座っていた。その後ろの三列後ろに私達も座る。


「楽しみね、一宮さん」

「そうですね。でもやっぱり今はルークって呼んでくれませんか?なんだか落ち着かなくて……」

「そうだったわね。今はルークだったわね。じゃあ今日はルークって呼ぶわね。じゃあルークも私の事は銀って呼び捨てにして?」

「そ、それは恥ずかしいですよ……」

「じゃあルークって呼ばないっ!」

「そんな…わかりました。銀。これでいいですか?」

「うん!嬉しい!」


 銀はとてもうれしそうだ。なんだかここまで嬉しそうだとほっこりするわね…

 村上は自分の爪で右腕を引っ掻きまくっていた。


「あ、始まるわよ!」

「そうですね。楽しみです」


 イルカショーが始まると二人はとてもはしゃいでいた。キャーとかウワーとか言ってる。そしてしばらく様々な演目が行われ、水面から高いところの輪っかをくぐるパフォーマンスでイルカが水面に着地する際に水しぶきが二人にかかろうとしていた。


「キャー!」

「危ない!」


 ルーク一宮は銀の前に出て、どこから取り出したのか。木刀で水しぶきを斬りまくり、水をはねのけていた。周囲の人たちはその光景を見てすごーいとかキャーとか言って拍手をし始めた。やっぱり人間やめてるわね、あいつ。


「大丈夫ですか?銀」

「ええ、大丈夫よ。ありがとう、ルーク」


 銀は顔を赤らめていた。とても女子女子していてこんな銀はとても珍しい。でもいいなー。こんな感じで守られたら私でもそんな反応しちゃうかも。 

 村上は右腕では引っ掻き足りず、左腕も引っ掻き初めていた。


 二人はイルカショーを見終わったので席を立ってどこかへ行こうとしている。


「ほら、二人が移動するわよっ!」

「そうですね。早く後をつけましょう」

 

 村上は何事もなかったかのように引っ掻いた腕を服で隠してアンリと一緒に二人をつけようとする。病院行った方がいいんじゃない?


 色々見て回った後に水族館を出た二人は海の見える桟橋の方に歩いて行った。もう空は真っ赤に染まっているため最後は夕焼けの景色を見に来たのだろう。なんとなく二人の背中が哀愁漂うロマンチックなムードになっているような気がした。


「ここからじゃ二人の会話が聞こえないわねぇ…どうする?もっと近づく?」

「いえ、ルーク一宮であれば気配でバレますね。こんな時はお約束のこれでいきましょう」


 村上はバッグからラジコン式の盗聴器を取り出す。こいつなんでそんなバッグを持ってきているのかと思えばそんなもの入れてたのか。ガチすぎて引くわ!


「よし、この距離なら聞こえますね…」


 村上は器用にラジコンを二人の十メートル離れた茂みに操作する。流石プロね。


「………てことがありましてね。夕焼けは私好きなんですよ」

「そうなのね。やっぱりこの世界のとは違う?」

「いいえ、やはりどの世界の夕焼けもきれいなことに変わりはありません。きっと今でもあの世界ではこのようにきれいな夕日を見せていることでしょう」

「そうね………」


 なんかロマンチックじゃない?


「そういえば前に魔装具を私に作ってくれるって言ってなかった?」

「ええ、時間があるときにでも」

「じゃあ明日にでも…」

「すいません、銀。明日は予約があるのです」

「……ハルのとこ?」

「ええ」

「デート中に他の女の話は失礼だわ」

「すいません…」


 銀はわかりやすくすねたようにそっぽを向く。


「ど、どうすれば許していただけますか…?」

「……して?」

「またデートしてくれたら許してあげなくもないわ」

「ええ、機会がありましたら是非。今日みたいにまたいろいろなところを見て回りましょう」

「絶対よ?」

「騎士の誇りにかけて」


 なんだかお姫様とその従者って感じね……。これは凄いわ、色々と……

 隣の村上は目から血を流していた。どうやったら目から血が出んのよ…。血管破裂した?


 すると、銀はどこか別の方向に去っていき、一宮はこちらの方に向かってきた。え?やっぱりバレてた?


「盗み聞きとは感心しないなぁ、騎士の一宮が恥ずかしかったって言ってたよ?」

「ご、ごめんなさい。つい出来心で…」

「まぁいいよ、俺が見られてたわけじゃないしね。ところでなんで村上はそこで倒れているんだ?」


 隣を見ると村上は色々なところから血を流していた。あーあ、もうどうしようこいつ、置いていこうかな


「仕方ない。今日は村上の家に泊まろう。運ぶついでだしね」

「あんた次はハルとデートするんでしょう?いつよ?」

「村上曰く明日だね。まったく、せっかくの休暇なんだ。もうちょっとゆっくりスケジュールを立ててほしいよ」


 そう言いながらも一宮は村上を担いで家の方向に歩き出す。


「アンリも途中まで一緒でしょ?帰ろう?」

「う、うん……」


 さっきまでデートシーンを見ていた手前なんだかむずかゆかったが、大人しく一宮の横になって一緒に歩く。けどよく考えたら、二日続けて別の女とデートするって普通に最低だわ……



     ◇     ◇     ◇



 翌日、案の定村上に呼び出された私はまたもルーク一宮とハルのデート現場を尾行していた。


「アンリさん、昨日はすみませんでした。しかし今日こそは完璧に尾行してみせます!」

「あんたのそのやる気はいったいどこから来るのよ…てかまた失血で倒れないでよね?」

「ええ、大丈夫です。今回は輸血パックを持ってきているので」


 村上はバッグの中の冷却パックと輸血袋を私に見せる。


「なるほど、この稼業ならではの恩恵ってやつね。流石ね、あんたバカ?」

「ふふふ、入手するのは簡単でしたよ」


 得意顔で村上はドヤっているがアンリは冷たい目でそれを見ていた。

 現在二人がいるのは動物園。アンリ達の大学からはかなり離れているのだが、ハルの要望でここをデート場所に決めたらしい。


「見てみて!象ですよ!一宮さん!」

「ええ、大きいですね」


 ルーク一宮はさほど驚いていないようだ。まぁそれもそうか、こいつの世界では魔獣とかが日常茶飯事だったみたいだし。


「興味ありませんか?」

「そんなことはないですよ、ハルさん。私はこれより獰猛な動物をたくさん知っていますので驚かなかっただけです。それと、今の私はルークとお呼びください」

「わかったわっ!ルークさん!」

「ルークでいいですよ?ハルさん」

「えー人に呼び捨てで呼ばせといてルークは私のことハルって呼んでくれないんですか?」

「……わかりました、ハル」

「えへへ」


 ほほえましいんだけどこのくだり二回目なのよねー。

 村上もこのパターンは流石にう、うんと頷くだけだった。


「じゃああっちはどうですか?ほら!あそこ!」


 ハルが指さした場所はライオンがいるスペース。檻の中にライオンが入っており、ガラスが透明で観客が中の様子を見られるようになっている。日差しがいい感じにライオンに当たっており気持ちよさそうだ。


「これは美しい動物ですね。ちょっとけしかけてみますか」

「へ?けしかける?」


 一宮がキッと睨むとライオンがピクっとルーク一宮を見る。え、なにしたの?あいつ?

 ライオンは少しの間ルーク一宮を見ると突然ルーク一宮めがけて走り出した。


「キャーー!」


 思わずハルが叫び声をあげながらルーク一宮に抱き着く。ルーク一宮はそハルを何事もないように抱きしめ、ライオンに再び強く睨み返した。すると、ライオンは再度ピクっと体がとまり、ルーク一宮から逃げるように背を向けて走り出した。


「すみません、ハル。悪ふざけが過ぎましたね」

「も、もう!びっくりしたじゃないですかっ!ってごめんなさい!くっついちゃって……」

「いえいえ、大丈夫ですよ」


 ハルはさっとルーク一宮から体を離す。モジモジしている姿がかわいくて私アリだと思います。

 隣の村上は壁を地面をどんどんと叩きまくっていた。あーあ、右手が真っ赤っかになってるわよ…


「では他の動物も見に行きましょう。お手をどうぞ?」

「は、はい……」


 二人は手をつないでまた別の場所を見に行き始めた。


「ほら、私達も行くわよっ!」

「ええ、そうですね。どうしましょう、輸血パックが足りますかね…」


 村上は既に輸血していた。



 その後も二人は色々なところをめぐる。キリンや猿、ウサギやゴリラなど、メジャーな生き物ばかりだ。その度に村上は段々と全身が血だらけになっていく。これ通報されるわよ。


「はぁー楽しかったですねールーク!」

「はい、とても楽しかったです。ハル」

「またいつでもいいから行きましょうね!あ、あと学校にもたまに来てくださいよー。ダンテさんが松条と私を同時に守ってくれてるのは良いんですけど、たまにはルークさんがいいー」

「ダンテですか。もう一人の私から聞いてますけどむず痒いですね。自分の後継者の末裔というものは

「ルークの後継者って王国にいたんでしょ?でも王国を滅ぼしたんならその方も亡くなっているのでは?」

「ええ、その点聞いてみたらですね。その後継者は王国が滅びる前に別の国に修行をしに行っていたみたいなんです。だから生きていたと言っていました」

「へぇーそうなんだー」

「はい、私を慕ってくれていまして、私のアヴェンジャーを自身の名前にして後世に繋ぐと言ってくれましてね。私はよせと言ったんですが…そうですか、本当に後世に繋いだんですね。ジュネスは」

「なんだか素敵ですね。師匠の名前を繋いでいくって」

「そうですね……最終的には国を滅ぼしているので師匠の面目がありませんが」


 ルーク一宮は遠い目をしている、今のルーク一宮はまだ王国を滅ぼす前の一宮。だが、その後妻を殺され、王国を滅ぼしたと聞いて何も思わない筈もない。


「でも今のルークはあの一宮さんではありません。ルークはルークですよ。まだしていないものを責められたって関係ありませんって」

「ですが……」

「責めるような人がいれば私が怒ります!私じゃなくても今のルークにはたくさんの仲間がいるじゃないですか!大丈夫です!みんないればこれから先もなんとかなりますよっ!」

 

 ハルは満面の笑みでルーク一宮に笑いかける。あー癒されるわー。そうよね、女子高生ってこんな感じよね。と、どこからかすすり泣く声が聞こえる。え?誰?


 アンリ達がいる茂みのそのまた奥にリンとアンの二人がルーク一宮とハルを覗き見ていた。ああー、あんた達も来てたのね。


「は、ハルぅ!立派になってぇ…」

「リン!バレるアル!静かに!」


 アンがリンに注意するという珍しい光景がそこにあった。てかバレるわよ。


「うん?あ!リンとアン!何よあんた達!まさかついてきてたの!?」

「ご、ごめんなさい、ハルぅ………、私、我慢できなくってぇ……」

「なんで泣いてるのよ…」


 リンはバレてなお泣き続けている。リンはあれね、休日にドラマ見て泣くタイプね。

 村上は今回は無表情でただ眺めているだけだった。あー今のは感動系だったもんね。


「昨日に引き続き尾行されながらのデートは恥ずかしいですね。そろそろアンリさんたちも出てきたらどうですか?」

「あれ?やっぱりバレてた?」

「ええ、最初から」

「あーー!アンリさんと村上さんもいるじゃないですかー!酷いですよー覗き見るなんてー!」


 ハルはプンスカと怒りを表現する。この子かわいいわね。


「ま、これで残りはアンリさんだけですね」

「え、も、もう私はいいわよー!ルーク一宮だってもう十分でしょう?」

「ルーク一宮?とりあえずアンリさんのデートもちゃんとしますよ?もう一人の私のご指名ですから」


 ご指名って……まぁもういいわよ、どうせ逃げられないんだし。


「あ、アンリさん顔赤くなってるー!」

「ち、違うわよー夕焼けで赤く見えてるのー!」

「またまたー!」


 ま、まぁいいわ。女子高生はこういう話題が好きだもの。大人な私は一々反応しないわ。


「それでは明日よろしくお願いしますね。もう一人の私の事を」

「へ?どういう事?」

「それではみなさん。また会いましょう」


 そうして各々は帰るべきところに帰っていく。え?マジでどういう事?





 次の日。村上に指示された待ち合わせ場所で待っていると確かにもう一人の一宮が来た。


「ホウ、我より早く来るとワ。わきまえておるじゃなイカ」


 あーこういう事ね。

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異端の王と巡る世界 麒麟山 @kirinzan

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