第17話 世界最強の護衛
「えー、それでは転入生を紹介するぞー。転入生の一宮かずき君だ。この時期になぜこんなにも転入してくるのか。何故よそのクラスにならないのか、先生は裏で謎の勢力が動いているみたいでちょっと怖いです」
えーそんなわけないじゃーん!とか先生ドラマの見過ぎー!とか生徒は口々に先生に笑いながら言う。
違うの。ホントに裏で動いてます。はい。
「席は……そうだな。奥宮の後ろだな。あれ?でもなんで机といすが用意されてるんだ?このクラスにあまりの席はなかった筈なんだが…。え?マジでなんで?誰の仕業?」
先生考え過ぎだってーとか他の先生が用意したに決まってんじゃーんなど生徒は笑いながら言う。
うん。それ私達。新品な時点でおかしいって思わない?みんな?
「ハルぅ!またイケメンが来たよ!」
「そうね、それは本当に嬉しいわね」
「およ?気になる人の事は良いの?」
「ええ、あの人よ」
「え?同い年じゃん」
「いいえ?少なくとも五百年以上は生きてるわ」
「え?なにそれ、もうっハルってばー!なに先生みたいに面白いこと言ってんのー?」
そう、この世はすでに狂ってるのよ……
イケメンがまたも来たということでクラス内の女子はかなり盛り上がっている。そして一宮も満更でもないような笑みで返す為、さらにキャーと女子は色めきあっていた。あれ?あの人何しに来たんだっけ?
一応、松条やダンテの様子を見ておこうと視線を向けると松条と目があった。あー、はいはい、また放課後に体育館の裏ね?目線で会話できるってのも楽でいいわね。
ダンテは少し険しそうな目で一宮を見ていた。一宮もふーんみたいな目でダンテを見ている。ちょっとヤバいかもですねー。
これって本当に普通の高校生活?
◇ ◇ ◇
四限目は体育の時間だった。今日は選択性の種目を選んで体を動かすというので私はサッカーを選んだ。野球やバレーなどもあったがあまり得意ではないので消去法というやつだ。別に決まってはないのだが普通男女別々でやるのが通例。でも一宮はハルと一緒がいいと言ってきかない。
「ハル。何故ダメなんだ?俺はもう君のモノなんだ。出来るだけ一緒にいたい」
それを聞いた周りの女子がキャーと騒ぎ立てる。うん、ちょっと嬉しいっていうかかなり嬉しいのだけれど目立つのはやめてほしい。
「ちょ、ちょっと恥ずかしいわよぉ!学校では普通にしてて!」
「普通?俺にはよくわからないよ。普通なんて。それに大事なのはハルがどうして欲しいかだろ?」
ううぅ、なんでこういう時だけかっこよくなるのよぉ…
「え?あんた達もうそんな関係なの?だから今まで他の男子に興味がなかった……!?」
やだ、私の友達進みすぎぃ!みたいな顔で玲子は私を見る。
「そ、そんなんじゃないわよっ!一宮さんはあの霧の事件で助けてくれただけよっ!」
「あー、ハル大変だったもんね。助けてもらったから好きになったのね」
「ち、違うわよっ!」
「え?違うの?ほんとに?」
「…………違く……ないです」
「キャー!ハルかわいいー!もうハルと付き合っちゃったほうがいいんじゃない?一宮?」
一宮はうーん、と考えると振り切れたように
「まぁ可能性としてはありえるね」
と言った。え、マジで?ワンちゃんある?
「やったねハル!チャンスじゃん!ん?でもおかしくない?一宮はハルのものなのに付き合ってない?なんで?」
「と、とにかく!私の事はいいからー!サッカーしようよ!」
とサッカーをしようという時に松条とダンテがこちらに寄ってきた。
「一宮といいましたか?あなた、かなりの武術を極めていますね?何者ですか?」
「君がダンテだね。さっきぶりかな?でも君だって武術をやってるようじゃないか。例えば剣術とか?」
剣術と聞いたダンテはピクッとわかりやすく反応する。おっと?なんかまずい雰囲気?
「貴様…何者だ?」
「貴様なんてひどいなぁ。俺はただの一般人。一宮かずきだよ。さっきも自己紹介したでしょ?」
「ふざけるなっ!どこに貴様のような一般人がいるかっ!わかった。剣で確かめよう。松条!剣を出してよいかっ!」
「ダメですよ、物騒な。忠告したはずです。しかし、この学校には剣道部がありましたね。竹刀を借りてきましょう」
え?ここ外だよ?そんなことしていいの?
「いいですよね?先生」
「ああ、構わんぞー。多少の怪我なら許す」
「え?いいの?普通にダメじゃない?」
あまりの対応についため口で先生に話してしまった。
「実はなー、校長からは松条には逆らうなって言われててなー。教頭からは一宮に逆らうなって言われてるんだよ。先生、もう裏の勢力が動いているようでちょっと怖いんだ」
この体育の先生も裏の勢力の存在を疑っていた。
「はい、持ってきました。これがダンテの、これが一宮さんのですね」
松条は剣道部の部室から拝借したであろう竹刀を二人に渡す。
「まぁこれは試合でもないので寸止めでいきましょう。ルールは実戦形式ということでいいですか?」
「うん」
「ああ」
え?実戦形式って何?剣道のルールじゃないの?
気づけばほとんどの生徒がその試合を見に来ていた。中には剣道部も混ざって応援しているものもいる。 お前らは止めるべきじゃない?この二人そもそも防具つけてないよ?
「では始め!」
先制攻撃はダンテだった。竹刀の動きが見えない程の速さで一宮に打ち込む。しかし、一宮は片手で竹刀を握っており、躱したり反らしたりしながら巧みにさばく。
「貴様!余裕のつもりかっ!」
「ああ、余裕だからね。でも君だって同じだろ?君の本気は二刀流なんだから」
「!! 松条!もう一本!」
「はいはい、まったく」
めんどくさそうにしながらも松条はダンテに竹刀を一本放り投げる。あんたなんで三本も持ってきてたのよ。
二刀流になったダンテはさっきより多い手数で一宮を攻める。しかし、二本の竹刀でも一宮にかすりもしない。
敵わないと察したのか、ダンテは一旦距離を取る。
「くっ!強すぎる!貴様も本来二刀流であるのに!」
「うん?わかってたの?君は鋭いなぁ。でもね。俺は二本でも強いし一本でも強いんだ」
そういい直すと一宮は竹刀を下ろし脱力する。
「致し方あるまい。我が『絶対領域』で貴様を倒す!」
すると、一宮がおや?という表情になる。え?なに?何なの?
「なるほど、君はやはり……」
「覚悟しろっ!」
勝負は一瞬だった。ダンテが一宮へ飛び掛かったところは見えたのだが、気づけばダンテは倒れていた。速すぎて全く見えなかった。ていうか寸止めでなんで倒れるの?
その瞬間。わぁっとギャラリーが一宮とダンテに詰め寄る。
「すげぇよお前らっ!感動したっ!」
「最後の全く見えなかったんだけどっ!何したのっ!」
「どっちもかっこいいー!どちらでもいいから付き合って―!」
一宮がダンテに手を差し伸べて起こすのを手伝う。ダンテはまだ信じられないといった顔だった。
「完全にダンテの負けですね。一宮さん、凄いですね。流石ハルさんの護衛なだけある」
あー、流石に私の護衛だってのはバレてるわよねー。
「こちらこそ俺はうれしいよ。アヴェンジャーの名を継ぐ者が強いのはね」
「き、貴様!い、いえ、あなた様は何者ですか?」
「それは言えない。俺は一宮だからね。でもさっきのは感心しないな『絶対領域』の二つ名は伊達じゃないけど、それはいけない」
「!!」
「じゃあまたね」
そのタイミングで鐘が鳴った。一宮は着替えに行ったのだろう。でもまたねって言ったけどあんた達更衣室で会うわよ?
「結局、サッカーは出来なかったわね……」
ハルは以前よりもまともな高校生活が送れなくったのでは?と今更ながらに気づいた。
◇ ◇ ◇
「で、放課後ってわけね」
「?どうしましたハルさん?」
「なんでもないわよ」
そして放課後。松条、ダンテ、ハル、一宮は体育館の裏に来ていた。
「しかし大変だったね、ハル。まさか放課後まで色々聞きに来る人がいるなんて。ハルは毎日大変だなー」
「い、一宮さんのせいですよぉー」
惚れているため強くツッコむことができない。ううー複雑だよぉー。
「それで?本当にそちらの方は何者なんですか?あのダンテより強いなんて信じられません」
「それは言えないわね。そもそも言う必要もないわ。私は自分の身を守れればそれでいいのだから」
「まぁそれもそうですね。ではこのままということで」
「いや、まてっ!」
ダンテがいきなり叫ぶ。もう何なのよ。
「我が名はダンテ・アヴェンジャー。デルマンデ王国第二騎士団長だ。貴公の本当の名を知りたい!」
「俺は一宮だよ」
「そんなはずはないっ!あなたもこの世界に飛ばされた身であるはずだっ!でなければ『絶対領域』であの動きは……」
「あのね」
ダンテが言い終わらないうちに一宮は遮る。
「そこの松条だったかな。この人に関わらない方がいいと思うな」
「何故です?理由がおありですか?」
「この人の近くにいると不幸になるからさ。さっきのあの試合、彼はズルをしようとした」
「ズル?」
「ああ、『絶対領域』の二つ名。その種がこんなひどいものだったなんてね。その正体は周囲の生きた人間から魔力を奪い取るというもの。しかし、君のはさらにひどい。魔力以外も奪い取ってる。その言語や知識、生命エネルギーに至るまで」
「やめろっ!!」
ダンテは叫ぶ。しかし、一宮はやめない。
「その『異端魔術』の中でも特に禁忌とされている異端の中の異端。俺が死体なら君は生体。『生体魔術』を使う極悪非道の聖剣使い。それが君だろう?ダンテ・アヴェンジャー。ルーク・アヴェンジャーの後継者の末裔さん?」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
その瞬間、ダンテは一宮から距離を長くとる。そして唱える。
「我が剣はアヴェンジャーに!我が魂はルーク様に!我が誇りはレイン様に捧げよう!」
途端、ダンテの姿は『自作魔術』で全身黒と白の鎧を装着した状態になった。
「これは………」
一宮は絶句していた。それを見たダンテは一宮が恐れているものと思っていたが実際は違った。
「これは酷い。捧げる対象が見事に酷い。君は信仰する対象を誤った」
「な、なんだとっ!貴様にわかる筈もない!ルーク様は偉大なお方だっ!最強で崇高な精神を持っていた!だが裏切られて国を滅ぼしただけだっ!世間はルーク様を『堕ちた英雄』などと呼んでいるが世界が間違っているのだっ!」
「そんなことはないさ」
一宮は続ける。
「ルークも間違えているし、世界も間違えている。結局は立場が違うだけなんだよ」
「貴公に何がわかるっ!何も知らない異世界人がっ!」
ダンテはさらに激高するが、一宮は悲しそうな表情になる。
「俺はすべてを知っている。彼の事も、その後のことも」
「世迷言を!ルーク様は五百年前の人。貴公にあの人のことがわかる筈もない!もういい!貴公は何が何でも私が倒す!」
すると、急に体が重くなった気がした。え?なにこれ?
松条を見ると松条も苦しそうに俯いてる。これって……
「今よりこの学校は我が『絶対領域』となった!さぁ、貴公はもう逃げられぬ!時間が経つほど不利になるぞ?貴公の運命は定まった!」
「だから言ったじゃない」
一宮は松条を見ながらフッと笑う。
「この人に関わるのはやめた方がいいって」
◇ ◇ ◇
一宮は走る。校庭を駆け、グラウンドを駆ける。
その後ろをダンテは剣を構えながら追いかける。
「ほらほら!逃げてばかりじゃつまらんぞ!それに見てみろ!校内に残っていた者が我が『生体魔術』で苦しんでおるぞっ!」
一宮が辺りを見回すと、部活で残っていた人などが校庭に倒れこんでいたりしていた。校内も似たような状況だろう。
一宮は仕方ないとばかりにダンテに空中にいくつも魔法陣を発現させ、何本もの槍を射出する。しかし、そのすべてが剣で折られてしまった。
「『無限射出』の真似事かっ!ルーク様をどこまでも汚しおって!」
本人なんだけどなーと思いながらも一宮は逃げる。
「いつまで逃げるかっ!仕方ない!『疾風迅雷』の名が伊達ではないことを証明してやろうぞ!」
途端、ダンテは加速した。それはまさに雷のごとき速さだった。しかし、一宮は避ける、いや、避けたはずだった。
ズシャァァァ!
一宮はわき腹から深く血を流す。き、斬られた!?
「我が『疾風迅雷』は避けても周囲を切り裂く!狙われれば不可避の攻撃よっ!」
「く、くそっ!」
生体魔術でダンテは時間経過で強くなるのに対し、一宮は時間経過で力を奪われる。
一宮は治癒術式を自身にかけるが効果がない。
「我が剣は聖剣。斬ったものは治らぬわっ!」
その後も何度も避けようとするが、何回かは斬られてしまい、全身が血まみれになっていく。頬が裂け、背中は破れ、腕は斬られる。
一宮は焦った。いや、迷っていたのだ。ここでダンテを殺すべきかということに。ダンテは一宮の後継者の末裔。彼が悪ならそれを正すのが俺の役目ではないかと。
突然、声が聞こえた。
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。
我はアク。必要アク。我に敵対するすべてを我は許さナイ。
それはダメだよ。可能なら助けたい。
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。
お前は他者の為に死ぬノカ?自分がどうなってもイイト?そんなのは間違ってイル。
でも彼は俺の後継者の末裔なんだ。
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。
であれば死を与えるのが我がツトメ。死こそスクイ。さぁ、我を呼ぶがイイ。
あぁ、それしかないのかな……
そう考えていた時、自分の中にもう一つの声が聞こえた。
それは懐かしい、かつて自分自身が信じるべきものがあった時の。かつてその力で守りたいものがあった時の。かつて自分が一番輝いていた時のあの時の声が。
――――――――――――――――ダンテ。ダンテ・アヴェンジャー。
一宮が立ち止まるとダンテも立ち止まる。それは攻撃をされそうになったからではない。声が聞こえただけ。ただそれだけでダンテは止まってしまったのだ。恐れを感じない。怖さを感じない。何も感じない。
――――――――――――――――あなたの罪は私の罪でもある。あなたが剣を、魂を、誇りを。その為に戦うとのいうのなら
ここは無。無の境地。剣だけが正しさを許される唯一の場所
――――――――――――――――私はそれに応えましょう。さぁ、ここはかつて私が騎士団長になった、騎士団長に認められた再現。『再現魔術』の極み。場所、物、空気だけでなく概念までも再現する究極の極致。
一宮とダンテは剣を構える。本人たちは気づかないが、周囲の景色は変わっていた。砂地の舞台、周囲には観客席。それはまるでかつての決闘場そのものに。
――――――――――――――――最強にして最高の、最悪にして最低な、傲慢にして高潔の、今こそ私は本来の姿を体現する。
一宮の体がぱぁっと光るとそこにはかつて王国の第一騎士団長であったころの赤と白の鎧の姿で一宮が現れる。
――――――――――――――――勝負は一瞬。どちらかが勝ち、どちらかが負ける。どちらかが正しく、どちらかが正しくない
一宮が頷き、ダンテも頷く。
―――――――――――――――――私はルーク。ルーク・アヴェンジャー。ロスト王国の第一騎士団長にしてゼスト・アヴェンジャーの後継者。いざ参る。
次の瞬間。全ては終わっていた…………
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うぅ…なんなのよぉ、一体……」
私は気づくと体育館の裏で倒れて気を失っていた。松条もいま気が付いたばかりのようでちょうど立ち上がろうとしてた。
「これは……何が起きたのでしょう?」
「一宮達がいない!探してみましょう?」
私は松条と一緒に学校の外を探し回る。気を失って倒れている人が所々いた。
「きっとダンテが魔術で何かしたんだわ」
「魔術?そういえば一宮さんもダンテも色々言っていたようですが……」
「今はとにかく二人を探すわよっ!」
グラウンドにつくと、そのひときわ目立つところに二人は倒れていた。私たちは駆け寄る。
「ちょ、ちょっと!大丈夫なの?」
「大丈夫ですか?ダンテ!」
ダンテは無傷で制服も破れていなかったが、一宮は制服がボロボロでいたる所に大量の血が滲んでいた。
「え、い、一宮さん!?大丈夫なの!?」
すると、一宮は目を覚ましたようでゆっくりと起き上がった。まるで寝過ごしたーと言わんばかりの顔で。
「ああ、おはよう、ハル」
「い、生きてる!怪我はないですか?」
「うん?ああ、これは酷い。制服がダメになっちゃった」
「せ、制服より体を心配してくださいぃ!」
「体?あぁ、大丈夫だよ。彼に斬られたところは治っている、俺の正しさが勝ったんだからね」
「え?それはどういう………」
ハルの言葉が言い終わらないうちにダンテが目を覚ました。
「う、うぅ……」
「ダンテ!大丈夫ですか?」
松条が近寄るがダンテは手で制した。
「すまない、松条。私は貴方を利用していたのだ」
「?どうしたのです?急に」
「私は騎士失格だ。私の魔術は他者を蝕むもの。松条の優しさにつけ込み、他者の生命エネルギーをたくさん奪っていたのだ」
「……………」
「ここへ来たのもより多くの魔力を蓄えるため。全ては私の罪だ。私を罰して欲しい」
「……………」
「松条?」
「魔術?私はそんなもの知りません。あなたのその厨二設定も大概にしていただきたいものです」
「いや、そうではなくてな」
「だから」
松条はダンテに言わせない。認めない。それを。その言葉を。
「今後は人の役に立つことをしていただきたい。あなたが罪を感じているというのであれば、それは罰を受けるのではなく、人に奉仕するのが正しいのでは?」
「松条………感謝する」
ふん、と松条はそっぽを向いた。この照屋さんめっ!
「そしてルーク様。申し訳ありませんでした。私がすべて間違っておりました。これまでの非礼、重ねてお詫びいたします」
「ああ、君もつらかったんだね。ダンテ。君の剣に君の全てが見えた。それと俺は一宮だよ。一宮。君は俺の後継者なんだ。呼び捨てで呼んでくれると嬉しいな」
「……………はい、一宮。やはり私の剣は貴方に捧げることにします」
「うーん、まぁいいや。君がいいというのなら、それもまたいいんだろう」
一宮とダンテは気持ちのいい、やり切った後の穏やかな顔で笑いあう。
「まぁ一件落着ってとこですかねー。あ、でもこれどうしましょう」
これ、とはもちろんこの倒れちゃってる人達のことである。これヤバくない?
「私の『生体魔術』はつまり、エネルギーの流動。奪った生体エネルギーを彼らに返しましょう」
「でも記憶が…」
「大丈夫です。ここでの事はなかったことになります。いずれは全員にも私の事も忘れてもらいましょう」
「あ、じゃあ俺のも頼める?」
「はい、もちろんです、一宮」
うーっと背伸びして私は言う。
「じゃあ帰りましょうか。松条達も来る?『ヴァルキリー』本部に」
「え?なぜです?」
「ここまで来たなら魔術のこととか聞きたいでしょう?てかダンテと今後もいるなら聞いていたほうがいいと思うけどなぁー」
「し、しかし私たちは組織のトップ同士で…」
「別にいいじゃない。明確に敵対してるわけじゃあるまいし。それにお互い最強の護衛がいるでしょ?」
松条は少し考えたあとに吹っ切れたように頷く。
「そうですね。ではお邪魔しましょう。エスコートをお願いしますよ?ハルさん?」
「ええ、ご案内しましょう、誠也さん?」
二人は子供のように笑った。
「あーあ、でもこれで学校生活も終わりかぁー」
一宮は残念そうに言う。
「また来ればいいじゃないですか?今度は本当に受験して」
ハルはでも受かってもすぐ卒業だよーと心の中で笑う。
「そうだね、そしたらハルと学校でデートできるかもねー」
「え、ちょっとマジですかっ!ヤバっ!今から受験してくださいっ!『ヴァルキリー』で缶詰しましょう!」
「そんなことしなくても私の『生体魔術』で記憶をいじれば可能ですよ」
「ダンテ天才!あなた『ヴァルキリー』に来ない?」
「それはダメですよ。ダンテは『ブケヤシキ』の一員なんですから」
「前から思ってたんだけどダサくない?その名前ー」
「あなたの『ヴァルキリー』よりマシです」
「なにおーーー!」
四人は夕暮れの中、笑いながら並んで帰る。明日もこんな風に笑いあって帰れることを願いながら。
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