概要
異世界の者ども、距離が近すぎませぬか。拙者、武士にござる。
天正十八年、夏。遠江の小領主・志賀崎兵部正虎《しがさきひょうぶまさとら》、四十五歳。
息子に家督を譲ったその日の夕方、縁側で冷めた茶をすすっていたら――目の前に、泣きべその少女がいた。
少女の名はティルダ、十五歳。試験に三度落ちた、落ちこぼれの従魔師。
潰れかけの魔獣牧場を救うため、三年分のお小遣いで魔石を買い、一匹の魔物を喚んだ。
来たのは、魔物ではなく、刀を差した隠居武将だった。
手の甲に浮かんだ主従の紋。
「なるほど、仕官か」
大真面目にうなずいた正虎は、十五の娘を「殿」と呼んで仕えはじめる。
しかし、この国の人々は、とにかく距離が近い。
名乗りの途中で抱きつかれる。背中をばしばし叩かれる。初対面で手を握って振られる。
月代《さかやき》は「はげ」と呼ばれ、市場では口に食べ物を押し
息子に家督を譲ったその日の夕方、縁側で冷めた茶をすすっていたら――目の前に、泣きべその少女がいた。
少女の名はティルダ、十五歳。試験に三度落ちた、落ちこぼれの従魔師。
潰れかけの魔獣牧場を救うため、三年分のお小遣いで魔石を買い、一匹の魔物を喚んだ。
来たのは、魔物ではなく、刀を差した隠居武将だった。
手の甲に浮かんだ主従の紋。
「なるほど、仕官か」
大真面目にうなずいた正虎は、十五の娘を「殿」と呼んで仕えはじめる。
しかし、この国の人々は、とにかく距離が近い。
名乗りの途中で抱きつかれる。背中をばしばし叩かれる。初対面で手を握って振られる。
月代《さかやき》は「はげ」と呼ばれ、市場では口に食べ物を押し
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