概要
これは命令じゃない。……だから、手伝って。
結婚三年目の金曜の夜、俺は妻がグレーのスーツの男と駅裏のホテルに入るのを見た。
帰る場所を失って戻った会社の第二会議室で、灯りの下にいたのは営業二課長・篠宮紗江。
社内で「氷の篠宮」と恐れられる三十五歳の彼女は、ブラウスの前を開け、白く濡れたタオルを胸に押し当てていた。
「閉めて。……見たものは、忘れて」
産んだことがないのに母乳が出る――誰にも言えない体質を、彼女は半年間ひとりで処理していた。
俺は二十八歳の平社員で、妻に裏切られた夜に、上司の秘密を知ってしまった。
「これは命令じゃない。断っていい。……だから、手伝って」
昼は誰より冷たい課長が、夜は俺の前でだけ、張って痛む胸と震える声を隠せなくなる。
妻と男には、俺が何もしなくても因果が返っていく。
裏切られた夫が、年上の上司と「身体か
帰る場所を失って戻った会社の第二会議室で、灯りの下にいたのは営業二課長・篠宮紗江。
社内で「氷の篠宮」と恐れられる三十五歳の彼女は、ブラウスの前を開け、白く濡れたタオルを胸に押し当てていた。
「閉めて。……見たものは、忘れて」
産んだことがないのに母乳が出る――誰にも言えない体質を、彼女は半年間ひとりで処理していた。
俺は二十八歳の平社員で、妻に裏切られた夜に、上司の秘密を知ってしまった。
「これは命令じゃない。断っていい。……だから、手伝って」
昼は誰より冷たい課長が、夜は俺の前でだけ、張って痛む胸と震える声を隠せなくなる。
妻と男には、俺が何もしなくても因果が返っていく。
裏切られた夫が、年上の上司と「身体か
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