第11話 届かなかった、力
第一門【獣】
いつもなら複数人のハンターと一緒に入る場所。
でも今日は違う。
僕は一人で門の中を歩いていた。
「……静かだな」
周囲を警戒しながら進む。
以前は一匹の牙狼を倒すだけでも他のハンターに助けてもらっていた。
でも今は前とは違う。
茂みから牙狼が飛び出してきた。
「来た!」
牙を剥き出しにして襲いかかってくる。
僕は拳を握り、真正面から振り抜いた。
ドンッ!
拳が牙狼の顔面に直撃する。
牙狼の身体が大きく吹き飛び、そのまま地面を転がった。
「……一撃?」
以前とは明らかに違う。
力に振り続けたことで僕の身体は確実に変わっている。
「これなら……」
もしかしたら、本当に単独クリアできるかもしれない。
そう思いながらさらに奥へ進んだ。
何匹かの牙狼を倒した。
どれも以前とは比べ物にならないくらい簡単だった。
このままなら――
そう思った、その時だった。
「……ん?」
森の奥から、何かが飛び出してきた。
牙狼。
……いや、違う。
身体が一回り大きい。
爪も牙も、普通の牙狼とは明らかに違っていた。
「こいつ……」
その瞬間、目の前に表示が浮かぶ。
【刃牙狼】
「……刃牙狼?」
次の瞬間。
刃牙狼が消えた。
「えっ――」
速い。
反応するより先に、横から衝撃が来た。
ドゴッ!
「ぐっ!」
身体が吹き飛ばされ、地面を転がる。
「痛っ……!」
何とか立ち上がる。ギリギリで防いだ。
でも――
「速すぎる……!」
刃牙狼が再び突っ込んでくる。
僕は拳を振る。
しかし、空を切った。
「くそっ!」
刃牙狼は僕の攻撃を簡単に避け、そのまま背後へ回る。
「しまっ――」
ドンッ!
背中を爪で切り裂かれた。
「ぐあっ!」
痛みで膝が落ちる。
力に全振りした。
それで強くなったと思っていた。
でも――
攻撃が当たらなければ意味がない。
僕が拳を振るたび、刃牙狼は避ける。
そして、避けた直後に攻撃してくる。
「はぁ……はぁ……」
息が苦しい。身体も重い。
体力はほとんど上げていない。
一発、一発の攻撃が重く感じる。
「こんなの……どうやって……」
刃牙狼が低く唸った。そして姿勢を落とす。
来る。
そう思った瞬間、刃牙狼が地面を蹴った。
「――!」
一直線に突っ込んでくる。
避ける?
いや。
今までの攻撃は全部避けられた。
なら――
僕は拳を構えた。
「……ここしかない!」
刃牙狼の牙が迫る。
怖い。でも、退いたら負ける。
あと少し。
あと少しだけ引きつける。
そして――
「うおおおおっ!」
刃牙狼が飛び込んできた瞬間、拳を突き出した。
ドンッ!
拳が刃牙狼の頭部を捉えた。
「……当たった」
刃牙狼の身体が宙を舞い、そのまま地面へ叩きつけられる。
動かない。
「……倒した?」
恐る恐る近づく。
刃牙狼は完全に動かなくなっていた。
「……はぁ」
その場に座り込む。
「なんとか……倒せた……」
目の前に霊魂石が落ちる。
いつもの牙狼から手に入るものより明らかに質が良い。
「これなら、かなり経験値になるかも……」
霊魂石を拾い上げる。
その時、ふと気づいた。
「……でも」
周囲を見渡す。
ここはまだ最深部じゃない。
ということは――
「こいつ……ボスじゃないのか」
少し迷った。ここで帰還することもできる。
でも、せっかくここまで来た。
「……少し休んでから、進もう」
僕は回復薬を飲み、しばらく身体を休めた。
そして再び歩き始める。
進めば進むほど、森の雰囲気が変わっていった。
さっきまで聞こえていた魔物の鳴き声が、いつの間にか消えている。
風もない。
ただ、重い空気だけが漂っていた。
「……この先にいる」
理由は分からない。でも、そう感じた。
僕はゆっくりと歩を進める。
そして――
森が開けた。
その中央に、それはいた。
「…………」
息が止まる。
先ほどの刃牙狼よりも、さらに一回り大きい。
全身から放たれる威圧感が、まるで違う。
目が合っただけで、身体が動かなくなりそうだった。
目の前に表示が浮かぶ。
【刃王牙狼】
「……こいつが」
第一門【獣】のボス。
刃王牙狼が低く唸る。
それだけで空気が震えた。
「……やるしかない」
僕は拳を握る。
妹を助ける。そのためにここまで来た。
負けるわけにはいかない。
「……行く!」
地面を蹴る。
一気に距離を詰め、拳を振り抜いた。
しかし――
「なっ……!」
外れた。
刃王牙狼が、紙一重で拳を避けている。
速い。刃牙狼よりも、さらに速い。
「もう一度!」
拳を振る。避けられる。
蹴りを入れる。それも避けられる。
「くそっ!」
焦る。
力はある。なのに、当たらない。
次の瞬間――
ズドンッ!
身体に強烈な衝撃が走った。
「がっ……!」
吹き飛ばされ、地面を転がる。
肺から空気が全部抜けた。
「……痛い……」
立とうとする。
足に力が入らない。
刃王牙狼がこちらを見ている。
ゆっくりと歩いてくる。
「……来るな」
怖い。
さっきの刃牙狼とは違う。
こいつには、今の僕では――
勝てない。
それでも立ち上がろうとする。
「僕は……」
妹を助けるんだ。そう思って拳を握った。
刃王牙狼が飛びかかってくる。
「――!」
避けられない。
身体が動かない。
死。
その言葉が頭をよぎった。
「……嫌だ」
次の瞬間。
強烈な衝撃。僕の身体が地面を転がった。
視界が霞む。立てない。
もう一度立ち上がろうとしても、身体が言うことを聞かなかった。
「……無理だ」
初めて、本気でそう思った。
「勝てない……」
妹を助ける。そのために強くなったはずなのに。
まだ足りない。
圧倒的に。
「このままじゃ……絵美を助けられない」
刃王牙狼が再び近づいてくる。
「……っ」
僕は震える手でポケットを探った。
帰還書。
これを使えば、門の外へ戻れる。
でも――
ここで逃げたらレベル10にはなれない。
それでも。
「……死ぬわけには、いかない」
帰還書を握る。
刃王牙狼が飛びかかってきた。
「――帰還!」
刃王牙狼の爪が目の前まで迫った瞬間。
視界が白く染まった。
次の瞬間――
僕は門の外に倒れていた。
「……はぁ……はぁ……」
生きている。それだけは分かった。
でも...。
「……勝てなかった」
力だけなら確かに強くなった。
それでも。
「このままじゃ……」
第四門【王】なんて、到底無理だ。
王樹の雫を手に入れることもできない。
絵美を助けることもできない。
「……どうすればいいんだ」
俯いた、その時だった。
「九条彩戸」
背後から声がした。彩戸が振り返る。
そこに立っていたのは――
大型クラン、ナイトオブラウンズの一人。
御影玲司(みかげれいじ)だった。
ハンターランクで人生が決まる世界〜設計者のミスで確率0.000000000001%を引いた「無色級」のハンター〜 ゼロベース @Zerobase
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