4,000PV突破&カクヨムミステリー&ホラー大賞週間ランキング1位、ありがとうございます。お礼と称して、本編にねじ込めなかった小ネタを吐き出します。
今回はAVWに関する解説です:
「なあミリ。ずっと聞きそびれてたんだが」
ヴェッキーが後部座席の窓に足を組んで言った。
「協会が持ってる得物——AVWってやつ、あれは結局なんなんだ。名前だけは聞き飽きたが」
「はぁ!? 今さら!? ……まあいいわ、アタシの解説タイムね」
ミリアーナが助手席から身を乗り出す。マルタウスは運転席で麻袋を被ったまま、器用に片手だけ挙げた。
「僕も交ぜてくれ。AVWってのは知ってるぞ。アモーレ・ヴェンデッタ・ワインの略だろう」
「……は?」
「愛と復讐と、あとワインだよ。僕の中では大体の物事がこの三つでできている」
「一文字も合ってないわよ! Antivampire Vampire Weapon の略、対吸血鬼専用武器! なんでワイン混ざるの!」
「じゃあ違うのか。てっきり僕を酔わせて口説く道具かと」
「アンタに使う武器なら鎮静剤の方が早いわよ」
「オッディーオ! 手厳しいな、我が"記憶の証人"は!」
「今の茶番、二秒で終わらせて。解説するから座ってなさい」
ミリ:もう一回言うわよ、AVWは「対吸血鬼専用武器」。——それでね、ハンターの背中にある焼紋印——刺青みたいな幾何学模様よ——あそこに道具の"形"を仕込んでおいて、体の中のエネルギーを流すと、緑色に光って押し出されるの。
ヴェッキー:出す、じゃなくて押し出される。
ミリ:そう。手品みたいにパッと出すんじゃなくて、体の内側から、こう……にゅるっと。
ヴェッキー:やめろ、想像しちまっただろ。
マルタウス:僕は毎回見てるけど未だに慣れない。
ミリ:茶々入れないでよ。——で、ここが笑えるところなんだけど、名前と見た目が絶対に一致しないの。「氷室」って名前なのに出てくるのは氷のルービックキューブ。「鍋蓋」なのに正体は巨大な円盤。誰だ、このネーミングセンス。
ヴェッキー:役所仕事だろ、どうせ。
ミリ:最初アタシもそう思ってたんだけど、違うのよ。適当にズレてるわけじゃなくて——見た目は、その道具の"本質"だけを突き詰めた形に化けてるの。氷室って名前だからって氷の部屋そのものが出てくるわけじゃない。氷室の本質は「腐るのを遅くすること」でしょ? だから出てくるのは、組み替え続けて終わらない氷のキューブ。永遠に完成しない演算——それが「時間を遅らせる」って機能と、ちゃんと繋がってるの。
ヴェッキー:つまり、名前でボケて、中身でオチをつけてるってことか。
ミリ:うまいこと言うじゃない。そう、名前は見た目の説明じゃなくて、機能の比喩なの。だから外見だけ見て「弱そう」とか「使えなそう」って油断すると痛い目見るわよ。
マルタウス:おかしくないか? 武器なのに取扱説明書がない。僕が営業だったら三日でクビだ。
ヴェッキー:テメェが営業やってる姿の方が想像できねぇよ。
ミリ:あと重要なのが——AVW持ちって、ハンター全体の8%しかいないの。
ヴェッキー:たった8%? そんなんで足りてんのか、協会。
ミリ:足りてないから今の等級制度があるのよ。C級帯までは職員の頭数、B級帯からはAVWの本数、A級帯からは上位十本の本数——危険度が上がるごとに、数える単位そのものが切り替わるの。要するに、下の連中は「何人出すか」で計算されてて、上の連中は「何本出すか」で計算されてる。
ヴェッキー:つまり俺は、今は……
ミリ:アンタは元・E級。人扱いすらされてなかった。
ヴェッキー:(黙る)
マルタウス:友よ、元気を出したまえ。僕も持っていないぞ、AVW。
ミリ:アンタは吸血鬼でしょうが。対吸血鬼用の武器を吸血鬼が持ってたら、それはそれで事件よ。
マルタウス:おや、そういう理屈か。てっきり僕だけ査定にすら入れてもらえない哀れな身の上かと。
ミリ:自分で被害者ぶるの早すぎ。
ヴェッキー:(それはそれで、慰めにはなってねぇ)
ミリ:まあでも皮肉なのはここからで。AVWって「対吸血鬼専用」のはずなのに、量産が全然できてないの。開発された技術のわりに、現場に行き渡ってない——予算なのか職人不足なのか知らないけど、結局いつの時代も「現場は足りない、上は数字だけ見てる」ってことよ。
ヴェッキー:どこの世界でも同じ話だな。
ミリ:あ、そうだ。ついでに言っとくと——数多あるAVWの中でも、性能が飛び抜けてる上位十本だけを指す呼び方があるの。十器(じっき)。
ヴェッキー:十器?
ミリ:ランキングみたいなものよ。一位から十位までしかない、っていう時点でだいたい物騒さが伝わるでしょ。協会本部でも扱いが別格らしいわ。
マルタウス:僕らのこれまでの道中、名前も知らない連中が持ってた武器は、せいぜい下の方の等級だったってことか。
ミリ:たぶんね。でも——この旅がこの先どこまで続くか知らないけど、いずれ十器を持ったのが正面から出てくる可能性、ゼロじゃないと思うわよ。
ヴェッキー:(窓の外を見たまま)……上等じゃねぇか。
ミリ:その顔、やめて。嫌な予感しかしない。
マルタウス:オッディーオ、僕も同じ気持ちだよ、"記憶の証人"。
「——まあでもよ」
ヴェッキーが窓の外、夜の一本道を眺めながら言った。
「そのAVWとやらが8%しか行き渡ってなくて、名前と中身が合ってなくて、説明書もねぇ代物だってんなら」
「なによ」
「それを持たねぇ俺が、それを持ってるやつらに囲まれても普通にやれてる時点で——おかしいのはあっちなのか、俺なのか、どっちなんだろうな」
車内が一瞬、静かになった。
「……なによ急に、らしくないこと言って」
「柄じゃねぇのは分かってる。忘れろ」
「オッディーオ、今の格好よかったよ友よ」
「テメェは黙っとけ」
——というわけで、AVWは「対吸血鬼専用武器」「焼紋印から押し出される」「名前は見た目の説明じゃなく機能の比喩」「保持率8%」「上位十本=十器」の5点だけ覚えていただければ大丈夫です。十器については、今後の展開でまたきっと触れることになると思います。原理の深掘りは、まだしばらく本編の奥にしまっておきます。
4,000PV、週間ランキング1位、本当にありがとうございました。
そして普段から読んでいただきありがとうございます!ここまで面白いと思ったら、⭐️で応援、もしくはまだの方はフォローをお願いします!