おまけ話短いです。
ではさっそくどうぞ!
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「そういえば殿下の結婚したがってる相手にも会ったぜ」
「……っ!」
それは前王妃が花々に水をあげながらトラムからの報告を聞いていたときのことだった。前王妃はその言葉を聞いた途端、ぴたりと動きを止めた。
「それが例のヒメさん」
「まあ!まあまあまあ!」
前王妃はじょうろを投げ捨て、瞳をキラキラ輝かせながら椅子に腰かけた。
あなたも座りなさいと彼女はトラムを呼び寄せる。
これは長くなりそうだ。
自身の失敗にトラムは顔を引きつらせるも、仕方がないと早々にあきらめ、前王妃と向かい合うように椅子に座った。
「ばーさん興奮しすぎ」
「だってその方―—ヒメさんがギルの笑顔を取り戻してくれた人なのでしょう!行方不明だと聞いていたから、ああ、よかったわ生きていて。そのお嬢さんをギルはしっかりと捕まえたのでしょう?お会いしたいわ~」
もうすっかりヒメに会う気まんまんでいる老婆にトラムはため息をつく。
「ばーさん、俺の話聞く前から勝手に盛り上がらないでくれよ。ヒメには会えないぜ」
「え!なぜ!?」
まさかギルは私に未来の義孫娘を見せないつもりなの!?あんまりだわ。前王妃はほろほろ涙をおとす。が、騙されてはいけない。これは演技だ。嘘泣きだ。
冬の国の王家の血を引く者は皆総じて演技がうまい。
前王妃は王家に嫁入りした身であるが、彼女の父は先々代の王の弟である。よって彼女は王家の血を継いでいる。つまり冬の国の王族らしく演技上手だ。
連鎖的にヒメの正体に気づいたときのギルのキャラの変わりようを思い出してしまい、トラムは身震いした。
「あら?トラム、寒いの?」
「あー、これは体感的な寒さじゃないのでお気になさらず」
「ところでどうして私はそのヒメさんにお会いできないのかしら?」
そういえばそんな話をしていたなとトラムは思い出しうなずく。
「ヒメさんさぁ、ただの平民じゃなくて、けっこう訳ありな感じの子だったんだよ。まあようするに、逃げられちゃった」
「まあ!ギルから逃げたってことは…」
口元を手で覆い目を丸くする前王妃を見て、トラムはにやりと笑った。
「殿下の片思い」
「あらまあ!」
「いやーヒメさんの鈍感は筋金入りだぜ。殿下べた惚れなのに、ヒメさん全くその好意に気付いてないの。殿下のこと弟だとか言ってたからな」
「まあまあ~!でもギルは眉目秀麗でやさしいいい子だし、優良物件よ?告白しちゃえばすぐに落ちてくれるのではなくて?」
前王妃が子煩悩ならぬ孫煩悩であることを抜きにしても、ギルからの告白を断る女はほぼほぼいないだろう。いたとしてもその数は1割にも満たないに違いない。
だがしかし、悲しいかな、トラムの見立てではヒメはその1割の中に属している。
「ばーさん、ヒメを甘く見ちゃいけねーよ。ヒメはそんなにちょろくねぇ。むしろめっちゃめんどくさいタイプだ。下手に告白すれば、あの手の女は混乱赤面混乱でまともに話ができなくなる。それに保護者手強いし、恋敵も多そうだしなぁ」
「まあ!ギルってば前途多難ね!」
私ギルを全力で応援するわ!と言う前王妃の顔は満面の笑みだ。
孫の恋を絶対に楽しんでいる。
かわいそうな殿下~。お気の毒様と笑うトラムも実は楽しんでいたりする。というか楽しまないわけがない。
「案外、行方不明の孫たちもヒメさんと出会って恋に落とされちまってるかもなぁ」
「そうだとしたら、うれしいわね~」
「いやいやうれしいのかよ。孫同士で一人の女取り合うんだぜ?」
「青春よ~」
2人がなごやかに話している中、
「はくしゅっ!」
冬の国と、
「くしゅっ!」
春の国で、
「「誰かが噂してる…?」」
水色の髪の少年と、紺色の髪の男が、鼻をすすりながら首をかしげていたとか、いなかったとか。
ちなみに同時刻、
「あんたはほんとうにぃいいいい!」
「うわぁーん。師匠がぁあ!それ13回目ぇええ!」
例のヒメさんは鬼と化した師匠に尻を叩かれていた。