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プリンセスSS ③王子様はラストにちょこっとしか出ない


 昔々あるところにリディアと言う名の美しいけどお馬鹿な少女がいました。
 ほんとうはシンデレラという名だったのですが、オカマな継母が「シンデレラって灰かぶりって意味でしょ!?センスないわね。リディアでいくから。無理?へー無理ねぇ」と脅してきたのでリディアという名になりました。

 リディアは継母とその連れ子である2人の姉妹に毎日のようにいじめられていました。

 「リディア!あんたまた野菜を残して!ちゃんと食べなさい!」
 「お義母さんがいじめ…もごご」

 目を吊り上げ怒る継母に無理やり野菜を食べさせられ、

 「リディア。あーん」
 「リカおねえさま、自分で食べてください」
 「あーん」
 「ぐっ。上目遣いで見てきても無駄……くそ!なんで私よりもかわいいのよ、この女装男子がーっ!食らいやがれ!」

 無表情の義姉の口にご飯を運び、

 「リディアおねえちゃ~ん。おれと一緒にお風呂に入ろ?え照れてるの?おれ達家族だから平気でしょ」
 「ギ、ギル。そんなの台本にはな…」
 「一緒にお風呂に入ってくれないの?それってやっぱりリディアおねえちゃんはおれたちのこと家族として認めてくれてないってことだよね」
 「ギルぅ?そんな泣きそうな顔をしないで」
 「じゃあ一緒にお風呂入ってくれる?」
 「いやそれは…あ!師匠…じゃなくてお義母様が呼ぶ声が聞こえた気がした!リディア、ただいま参りますぅ~」
 「あーあ。逃げられちゃったー」

 義妹のセクハラを躱す日々。
 
 リディアは毎日疲弊しきっていました。
 そんな彼女が唯一落ち着ける場所は自室の屋根裏部屋です。
 
 「お義母様たちが来てからというもの早寝早起き、好き嫌いは許さない、勉強と運動の毎日、リディアはいじめられてつらいです。全然ぐーたらできません。ああ、お父さま。どうしてリディアを置いて逝ってしまったの。会いたいです。シクシク」

 今は亡き父を想い涙を浮かべるリディアを労わるように肩に手を置くのは、彼女の唯一無二の親友である鼠でした。

 「チュウチュウ(ずぼらなお前はこの生活を苦に感じるかもしれないけど、これが普通だからな)」
 「ソラ!私をなぐさめてくれるのね。私の味方はあなただけよ」
 「チュウチュウ(リディアがバカすぎて辛い)」

 かみ合わない会話に鼠耳に灰色全身タイツのソラは涙を浮かべます。

 「ところで今日はお前が楽しみにしていた舞踏会の日じゃなかったっけ?」
 「そうそう!舞踏会についてソラに相談したいことがあったの」

 ツッコミパワーで「チュウチュウ」しかしゃべれない呪いを解いたソラがリディアに問えば彼女はしょんぼりとうなだれました。

 「お城の舞踏会にお義母様たちが行かせてくれないの!ごちそうが食べたいのに!」

 理由はともかくリディアが舞踏会に行くことをずっと楽しみにしていたことを知るソラは彼女に同情します。

 「それはかわいそうだな。どうして行かせてくれないんだ?」
 「お義母様は私が舞踏会に行けば大失態をやらかすからダメだって」
 「あー、んー。そうだな」

 否定できないのが悲しいところです。

 「リカおねえさまは万が一にでも私が王子様に見初められたら困るからダメって」
 「んー。そっか。ノーコメントで」

 義姉であるリカは妹であるリディアをかわいがっています。姉妹の枠をとび越えて愛でています。舞台裏にいるソラの兄が苛立っています。彼は考えることを放棄しました。

 「それでもって義妹のギルはまだ舞踏会に行ける年齢ではないでしょ?一人で留守番はさみしいから私と一緒に留守番したいんですって」

 最後がまともな理由でソラはほっと胸をなでおろします。

 「たしかに屋敷に使用人がいるとはいえ家族の中で一人だけ留守番はかわいそうだもんな」
 「いやそれが使用人は皆、夕方から休みなのよ。家に帰るからこの屋敷には家族以外誰もいないわ」
 「は?」

 嫌な汗が頬を伝います。

 「お義母様や私が気づいたときにはもうギルが使用人の皆さんを家に帰していたの。私と2人きりでお留守番したかったらしくて。そうそう!舞踏会に行けない代わりにギルがごちそうをつくってくれるんですって。ほんとうに姉思いよねぇ。あれ?でもごちそうはごちそうでも、おれにとってのごちそうって言ってたかしら?」

 どういう意味?
 演技ではなく本気で首をかしげるリディアにソラは頭痛を覚えます。

 「リディア、お前は舞踏会へ行け。なにがなんでも行け。食われるぞ。つーかお前の過保護な母と姉は妹の発言を聞いてなんの反応もなしなのか!?」
 「ああめっちゃ怒ってたわね。ギルの年齢ごまかして無理やりにでも舞踏会につれていくって。師…お義母様はリディアの貞操はあたしが守るとか意味わかんないこと言ってたわ。でもギルはこっそり舞踏会から抜け出して家に帰ってくるって笑ってたわ」

 リディアは数刻前の義妹の笑顔を思い出し身震いします。
 なぜでしょうか。リディアはその笑顔を見たとき、身の危険を感じたのでした。

 「わかった。お前はなにがなんでも舞踏会に出ろ」
 「だから出たいけど出られないんだってば。ドレスもないし」
 「リメイクしたドレスがあるとか言ってなかったか」
 「それが…ギルが間違えて私の部屋にあったドレスを燃やしちゃったみたいなの」
 「ああ。確信犯だな」

 舞踏会に行きたいのにドレスも馬車も靴もありません。
 ソラとリディア2人でうなだれます。そのときでした。

 
 「あーこんばんは。おれは魔法使いエルだ」

 
 銀の粉がキラキラと天から降り注ぎ、気が付けばリディアとソラの目の前に白いローブの魔法使いがいました。ローブのフードから覗く顔はまだ幼くリディアやソラと同じ年のころです。
 リディアは瞳を輝かせました。
 
 「まあ!私の日頃の行いがいいから魔法使いが現れたわ!展開的に私を変身させて舞踏会に連れて行ってくれるんでしょ!ね!」
 「……。」

 ソラが頭を抱えたのは言わずもがな。薄眼で見れば儚げ美少女であるというのにこの言葉ですべてが台無しです。
 目深くかぶったフードの隙間から紅色の瞳が値踏みするようにリディアを見ます。

 「いやお前絶対に日頃の行い良くないだろ。暇さえあればぐーたらするようなずぼらなお前にご褒美をあげたくない。つまり舞踏会には行かせたくない」
 「あんたそれでも魔法使いか!」
 「おれはそいつの気持ちが痛いほどわかるぞ」

 垂れ目の魔法使いはじっとリディアを見ます。

 「お前はどうして舞踏会に行きたい」
 「ごちそうが食べたいから」
 「王子様に会いたいからとかでは……」
 「ない!」

 なぜでしょうか。即答したリディアを見て魔法使いはぷるぷると口を震わせました。わかりずらいですが実はこれ、喜んでいる顔です。

 「なら俺がもっといいところにつれていってやる。城で出されるものよりもずっとおいしいごちそうを食わせてやる」

 魔法使いの言葉にリディアは満面の笑みを浮かべます。
 ソラは台本ガン無視の展開に顔を引きつらせています。

 「ほんとに!やったねソラ!」
 「アー、ソウデスネー。おれはもう知らない」

 魔法使いが杖を振るえばリディアを美しいドレスを身にまとい、ソラもタキシードを着た美少年へと姿を変えました。
 
 「さあ行くぞ」
 「はーい!」
 「リディア、お前台本無視して後で怒られても知らないからな」
 「前回も前々回も台本は割と無視してるから大丈夫」

 うだうだ言いながらも3人は城ではなく魔法使い主催の森の晩餐会へとむかいました。
 森の晩餐会にはほっぺが落ちるほどおいしいごちそうが山ほどありリディアは時を忘れて食べまくりました。
 時を忘れて食べまくっていたので、気が付けば12時の鐘が鳴り終わっていました。リディアとソラは自分たちの服装が元に戻ったことでそのことに気づきました。

 「そういえば舞踏会はどうなったんだろう」
 「たしかに」


///////★

 一方そのころ。
 城で舞踏会を開いていたエリック王子はずっとシンデレラを待っていました。

 「おかしいのだ。台本通りであればシンデレラが来るはずなのに、来ないのだ」

 待てども待てどもシンデレラは来ません。
 舞踏会では「ちょっとリディアが行方不明なんだけど!」「舞踏会にも来ていない…」「どうして!?屋敷にもいなかった!」と黄緑、桃色、水色とカラフルな髪色の人たちが騒いでいます。

 なんだかおかしなことになっているなぁと思いつつもあきらめずに彼はシンデレラを待っていましたが、気付けば12時の鐘が鳴り終わっていました。

 仕方がない。エリック王子はあきらめて近くにいた令嬢の手を取ります。

 「俺と踊るのだ」
 「は、はい。エリック王子」

 猫柄のドレスを身にまとった令嬢は頬を桃色に染めてエリック王子と踊り始めました。
 それはそれは穏やかで幸せなひと時だったそうです。


 ちなみにそのあとリディアたちは継母たちに見つかりこっぴどく叱られたそうです。罰として1年間15時のおやつが抜きになりました。

 「うぉおおん。お義母様がいじめるぅぅ。お父さま、どうしてリディアを残して逝ってしまったのぉおお」 

 ちなみにちなみに、リディアのお父さんは死んだわけではありません。一人娘を甘やかして育てた結果ぐーたら娘になってしまったので、現実逃避を兼ねて旅に出ただけでした。



Fin









 あとがきのようなもの

 これにてプリンセスSSは終わりです。
 プリンセスSS空間。そこは未知の世界。なぜリディアたちがこの空間で演劇をする羽目になったのか、それは登場キャラはもちろん作者でさえも知らない……。こんな感じで締めくくらせていただきます。
 

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