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もはや自分がドラゴンになっちゃうお話

 突然だが、俺は転生者だ。
 何がどうなって転生したのかは分からないが、気付いたら日本ではない異世界へと生まれ変わっていた。
 赤ん坊の頃から記憶は覚醒しており、よく小説なんかで描かれるかつての記憶を持ったまま通る恥ずかしい道――授乳だったりを満遍なく経験して健やかに成長した。

【剣と魔法の世界】

 俺が転生したこの世界は、正しく剣と魔法の世界だった。
 剣だけでなく大剣や斧、槍と言った武器を持って戦う人もそうだが、何より派手に魔法をぶっ放す魔法使いだってこの世界には居る。
 いやぁ、最初にこの世界を知った時はテンションが上がった。
 前世でゲームや漫画、アニメが好きだった俺としては大好物の世界というか……夢に見ることもあって、妄想だってするくらい好きだった。

『転生者としてバリバリ活躍してやる! チート能力でハーレムの酒池肉林を築きあげてやるぜ!』

 転生し、成長した俺はそんなことを考えていた。
 創作物を読む中で、定期的に目にする頭の緩い主人公を笑う側だった俺になった瞬間だった。
 各地を巡りダンジョンなんかを攻略する冒険者も居るし、国のために戦う騎士や魔法使いだって存在するこの世界……転生者だからこそ、絶対的な力を信じて調子に乗るのも至極当然の話だった。

『嘘……だろ?』

 しかし、現実は非常だった。
 何故なら俺には膨大な魔力が備わっているわけでもなければ、類い稀なる強力なスキルに目覚めたわけでもなかった。
 俺はどこまで行っても一般人……正に前世の自分と大して変わらなかったというわけだ。

『なんつうか……ですよねぇって感じだわ』

 剣と魔法の世界に転生した結果、特に才能もスキルも持たなかったことに失望は少しあったが、身の丈に合わない期待はするものじゃないなとすぐに落ち着いた。
 そして、それからは普通に生きることにした。
 俺を産んでくれた両親は凄く良い人たちだし、知り合いになった人たちも素晴らしい人たちなのは言わずもがな。
 後は流石異世界ということもあって美人が多く、そんな人たちを遠目から眺めるだけでも楽しくて、そんな風に俺は異世界での生活を俺なりに満喫していたのに……。

「いやああああああああっ!?」
「助けてくれええええええええ!!」

 異世界らしいと言いたくはないが、死の足音はあまりにも簡単に近くへとやってきやがった。


▼▽


「……クソがっ!!」

 空を飛び回る影を見つめながら俺は汚い言葉を吐き出す。

「……ワイバーンの群れ……いつもより多くねえか!?」

 空を飛び回る影は、ワイバーンという魔獣だ。
 ドラゴンになり損ねた生き物という認識だが、空をそれなりの速度で飛び回るアドバンテージに加え、口から吐き出す炎も威力は高い。
 俺のようなただの人間が太刀打ち出来ないのは当然だが、ああも群れになられると高ランク冒険者でも手に負えない。

「……ははっ、ここまでか?」

 ワイバーンの襲撃は、ここ最近ずっと続いていた。
 俺が産まれたこの場所――ドラゴニア王国は、昔から最上位の魔獣であるドラゴンと契約を交わしていた国だったのだが、前王が何やら粗相を働いたらしく、国の守り神でもあったドラゴンが居なくなってしまった。
 ドラゴンの加護が失われたことで国の力は一気に弱まっただけでなく、ドラゴンが居ることで寄り付かなかった魔獣たちによる被害も増え、今こうして無数のワイバーンに襲われる事態になっている。

「がああああああああっ!?」
「っ!?」

 すぐ傍で痛ましい悲鳴が響き渡った。
 どうやらワイバーンのブレスが直撃してしまったらしく、焦げる臭いと共に人だった何かが崩れ落ちた。
 俺も逃げないと……そうは思っても、体が上手く動かない。
 それはおそらくもう終わりだと諦めていたからかもしれない……そしてついに、俺の前にワイバーンが降り立った。

「っ……」

 ブレスを吐くのではなく、ジッと俺を見るワイバーン。
 もしかしたらどんな風にして殺そうかを考えているのかもしれない……しかし、こんなことで良いのかよと少し思った。
 こんな……こんな終わり方で良いのかよって。

「ギャッ!」
「っ!?」

 鋭い牙を見せるように、ワイバーンは口を開いた。
 そこからは走馬灯のようだった……可愛い顔かと思えば別にそうでもない顔のワイバーンがゆっくりと近付いてくる。
 俺はおそらく、このままあの牙に引き裂かれて無残に死ぬんだろう。
 結局俺は自分がどうして異世界に転生したのか、それを知る間もなく死ぬ……そう思っていた。

「……?」

 ふと、違和感を抱いた。
 既にワイバーンに嚙みつかれているはずなのに、ワイバーンは俺の前で動きを止めていた……いや、全てが時間を止めていた。

「これは……一体?」

 灰色になった世界で俺だけが動ける……まさか何か力が……チート能力に目覚めたのか!?
 そんな期待が胸を埋め尽くしたかと思えば、焼けるほどの熱さが胸を駆け抜け、あまりの激痛に胸を抑えながら蹲る。

「熱い……なんだ……なんだこれ!?」

 その痛みは、すぐに意識を失いたいほどの痛みだった。
 声にならない呻き声を上げる俺だったが、そんな焼き切れそうな意識の中で声が聞こえた。

『力が欲しいか?』

 ……なんだ、そのテンプレな台詞は。
 そう内心でツッコミを入れられそうなら案外……大したことないのか?
 だが、俺の言葉は決まっていた。

「欲しいに決まってるだろ! 俺は……死にたくない!」

 死にたくない気持ちは嘘じゃないので、この言葉に偽りはない。
 叫んだ瞬間、胸の痛みと熱はなくなった……いや違う。温かくなって全身を覆うように広がっていく。
 そして思わず目を閉じてしまうほどの眩しさが自分の体から放たれ、そして目を開けた時、俺は首を傾げた。

「……?」

 何が起きた……?
 そう思って辺りを見回すとやけに全てが小さく見えた……周りの建物もそうだが、ドラゴニアの王族たちが住まう城もいつも以上に小さい。
 まるでミニチュアの世界に来たような感覚だったが、そこで物音がした方へ目を向けた。

「ギャ……ギャギャ……ッ!?」
「……………」

 ワイバーンが、ギョッとしたように俺を見ていた。

(なんで……ワイバーンがこんなに小さいんだ?)

 まあ、建物が小さく見えたらワイバーンが小さく見えるのもおかしな話ではないわけで……てかこれ、俺がデカくなってないか!?
 体中に溢れる力、遠くまで見えるほどに強化された視力。
 嫌な感覚を抱かせる場所の特定など、まるで感覚そのものが極限まで研ぎ澄まされたような……そして決定的なモノは、ワイバーンの目に反射する自分自身の姿だった。

(ドラゴン……え!?)

 恐れおののいているワイバーンの目に映るのは、目を見開く黒いドラゴン……俺は何故か、その姿が俺であると理解出来た。

(俺……ドラゴンになっちまったのか!?)

 ドラゴンになった……にわかには信じがたいが、間違ってなさそうだ。
 突然のことに唖然とするのはもちろん、思考も儘ならない状況だが体は勝手に動いた。
 今の体をどう動かせば良いのか、何が出来るのかが分かる。

(なんか……思っていたのと違うけど、まずはワイバーンを追い払ってやるぜ!!)

 ワイバーンを追い払うため、俺は空へ飛んだ。


▼▽


「もう無理です!」
「持ち堪えられません!!」

 沢山の悲鳴が木霊するその場は、正に地獄だった。
 無数のワイバーンによる襲撃によって、ドラゴニアの都市は硝煙の香りに包まれている。

「諦めてはなりません! 私たちが諦めてしまえば、ドラゴニアは本当に終わってしまいます!」

 誰もがドラゴニアの終わりを肌に感じていたが、諦めない存在も居た。
 ドラゴニア王国の第二王女であり聖女でもある美しい女性――アリア・ドラゴニアは、騎士たちを鼓舞するように声を上げる。
 彼女の声に騎士たちは闘志を再び宿らせはするものの、ワイバーンの苛烈な攻撃にその闘志はすぐに失われていく。

(どうしてこんなことに……これも全部、父があのようなことをしなければ……っ!!)

 恒久的なドラゴンとの繋がりは、愚かな前王であるアリアの父によって終わりを迎えた。
 平和だった国を地獄へと変えた父親の所業を、アリアは娘として背負わなければならないと責任を感じている……しかし、このような地獄を味わってはアリアの心が折れるのも必然だった。

(……もう無理です……こんなの……こんなのはもう……っ)

 もう諦めて楽になろう……アリアの瞳から光が消えかけたその時だ。

「な、なんだ……?」
「ワイバーンの動きが……止まった?」
「……え?」

 騎士たちの言葉に、アリアは空を見上げた。
 確かに彼らが言ったように先ほどまで激しい攻撃を与えてきていたワイバーンたちが、みな動きを止めていたのである。
 正に絶好の好機ではあるのだが、誰もがその不気味な状況に動き出すことが出来なかった。

「これは……何が起きているのです……?」

 そう呟いた瞬間、世界を黒が覆った。
 黒は白を塗り潰す……闇が光を塗り潰す意味もあるが、しかしてその黒はアリアの心に絶大なる安心を齎す。
 全ての人が空を見上げ、そして涙を流す。

「ドラゴン……?」

 その黒は、アリアたちを守るように佇んでいた。
 愚かな行いによって繋がりが断たれたドラゴニアの守り神であり、創造と破壊さえも超越するとされるドラゴンがそこには居たのだ。

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