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没かなぁ……って思っている作品③

7.荷運び(1)

 鞄から一つ目の小包を取り出し、住所を確認する。

「……うん、ちゃんと読める。この住所はどこに行けばいいのかな?」

 住所を読むと、地図を広げて確認する。そこには地区ごとに線が引かれ、地区の住所が書かれてあった。

「えーっと、あった! ……結構離れている?」

 どれくらい離れているか確認してみると、十ブロックも離れた位置にあった。これは、届けるのが大変だ。

「……急いでいかなくっちゃ」

 カバンを背負い直し、地図と小包を手に持つと目的地に向かって歩き出した。

 朝の活発な時間、人通りは多かった。買い物に行くのおばさん、荷車を引く商人、肩をぶつけ合いながら走っていく冒険者。大人たちの間を縫うように進んでいく。

 けれど――。

「ぅ……お、重い……」

 背負った鞄が肩に食い込む。最初は平気だと思っていたのに、歩けば歩くほど重さが増していく気がした。

 額にじわりと汗が滲む。スキルを使っているから持てている。でも、ずっと力を使い続けている感覚があって、体力が少しずつ削られていく。

「はぁ……はぁ……」

 息を整えながら歩く。まだ最初の配達なのに、こんなに大変なんだ。大人の人たちは、毎日これをやっているの? すごい。

 そう思うと同時に、自分にも出来るだろうかという不安が湧き上がってきた。

 弱気になっちゃダメ! 気を取り直して、地図を広げる。

「えっと……今、ここで……次を右?」

 周囲の建物を見回して確認する。けれど、初めて来る場所ばかりで、自信が持てない。

 もし道を間違えていたら? もし荷物を届けられなかったら?

 そんな考えが胸の中をぐるぐる回る。

「……だ、大丈夫。ちゃんと確認すればいいだけ」

 自分に言い聞かせるように呟く。焦ったら駄目だ。間違えたら、依頼主に迷惑がかかる。だから何度でも確認するんだ。

 地図を見て、通りの名前を見て、周囲の建物を見る。また歩き出す。少し進む。不安になって、また地図を見る。

「ここ……合ってる、よね?」

 同じ場所を何度も指でなぞる。大人なら迷わないのかもしれない。でも、全部が初めてだった。だから、一歩進むたびに不安になる。

 それでも足は止めない。止まったら、届けられないから。そうしてしばらく歩いていた時だった。

「あっ……!」

 視界の先に、大きな石造りの時計台が見えた。地図に描かれていた、この地区の目印。

「……あった!」

 本当に合っていたんだ。道を間違えていなかった。その瞬間、胸の中に溜まっていた不安が少しだけ軽くなった。

「よかったぁ……」

 ほっと息を吐きながら、時計台へ向かって歩き出す。まだ配達は終わっていない。むしろ、ここからが本番だ。

「えっと、ここから東の通りに一ブロック進んだところ……」

 ここからは慎重に動き出す。とりあえず、一ブロックを進み、そこから配達先の家を探す。

 住所の数字が合っている建物を探していくと、同じ数字があった。その家の玄関に向かって、表札を確認する。

「……うん、名前も同じ。ここで間違いない」

 ようやく、目的地にたどり着いた。私は扉をノックして、しばらく待った。すると、扉が開く。

「どちら様?」

「えっと、あの……荷物を届けに来ました!」

「……あぁ、コハルト支部の輸送組合か」

 出てきたのは女性で、荷物を差し出すと、宛名を確認した。

「うん、ウチで間違いないよ。でも、出来れば最初に名乗った方がいいよ」

「えっ、あっ、はい! ありがとう、ございます!」

 もしかして、悪いところを教えてくれた? 私は勢いよくお辞儀をすると、その女性は家の中に戻っていった。

「ふー、ドキドキした。うん、今度からはちゃんと名乗っておこう」

 これで一つ、悪いところが直る。少しずつ、良くしていこう。

 玄関を離れると、次の配達をするために小包を取り出す。住所を見て、地図を確認してみると――。

「えーっと、あっ! 来た道を戻らなくちゃいけない!」

 そんな……折角ここまで来たのに、戻らないといけないの!? うぅ、またあの距離を歩かないといけないだなんて、大変だ……。

 肩を落とし、歩き始めようとした時――おじいさんの「考えろ」という言葉が頭に響いた。

 ……そうだ。考えて仕事をしないといけないんだった。考えたら難しい仕事も、きっと簡単になる。

「簡単にするには……近い荷物を届ける、こと?」

 たくさんの距離を歩くのは大変だ。だから、近い距離の荷物から届けた方がいい。別にこの小包を次に必ず届けないといけないっていう約束じゃないはずだ。

「うーんと……。他の荷物の中でここから近い距離の物を届ける?」

 ……うん、それが移動する距離が短くて済むはずだ。私はカバンから小包を取り出し、ここから近い配達先を確認する。

 一つずつ確認していくと、同じ地区に届ける小包を見つけた。

「やった、あった! これだと、距離が近いからすぐに届けられるし、歩くのも短くて済む!」

 ……凄い。考えるとこんなにも仕事が簡単になるなんて。あのおじいさんが言った通りだ。

 よし、ちゃんと考えて仕事をしよう。そしたら、たくさん仕事をこなせるようになる。お金だって稼げるようになる。

「よし、行こう!」

 地図を片手に、私はまた歩き出した。

8.荷運び(2)

 それから、宛先の場所をしっかり確認して、仕事をした。ちゃんと、近い場所から荷物を届けていくと、歩く距離が短くなってとても楽になった。

 初めて歩いた道は距離が遠くて、気が遠くなるような時間だったけど、今は短いから気持ち的にも楽だった。

 だからだろうか。体の疲れも少なくて済むし、歩幅は広くて足は早い。気持ちが楽になると、こんなにも歩くのが楽になるんだ。それは、新しい発見だった。

 今まで家でお手伝いしていた時とか、他の家でお手伝いを任された時は気分が沈んでいた。だから、お手伝いは疲れたし、終わった後は遊ぶ気力もなかった。

 もしかして、その時もこうやって気が楽になる方法があったと思うと、ちょっとだけ悔しい気持ちになった。でも、おじいさんが考えることを教えてくれたから、今は助かっている。

 そうして、明るい気持ちで小包を届けていくと――最後の家にたどり着いた。

「ごめんください。コハルト支部輸送組合です」

 声を上げると、扉が開く。

「あら、子供? 何か用?」

「あっ、コハルト支部輸送組合です。こちら、お荷物です」

 もう一度名乗ると、荷物を差し出した。その女性は荷物を受け取ると、宛名を確認して頷いた。

「ウチで間違いないわ。お嬢ちゃん、お手伝い?」

「あっ、そのっ、し、仕事でやってる、ますっ!」

「子供なのに仕事をして偉いわね。頑張ってね」

 そう笑顔で言葉をかけてくれて、女性は家の中に戻っていった。

「……ほ、褒められた!」

 配達をしていて、届け先で褒められたのは初めてだ。これって、ちゃんと仕事が出来たってことだよね?

「わー……嬉しいな。あんまり、褒められたことってないから」

 家のお手伝いは当たり前だったから褒められることはなかったし、こうして声を掛けられるのって嬉しい。

 捨てられても、案外良いことってあるんだ。きっと、頑張ってくれたから、神様がご褒美をくれたのかな?

「だったら、もっと頑張ればご褒美くれるかな……」

 前は頑張るだけで何も貰えなかったけど、今は頑張れると何か貰える。うん、結構素敵な状況だと思う。

 気持ちは上向きになって、未来が明るくなってきたような気がした。その気持ちのまま、私は職場に戻っていった。

 ◇

「ただいま……戻りました」

 扉を開けて、倉庫の中に入る。中では大人たちが荷物を移動しているところだった。その邪魔をしないようにそろりと倉庫の奥へと向かう。

 奥にはあのおじいさんが帳簿を見つめていた。

「あの、戻りました」

「ん? ……思ったより早かったな。どうしてだ?」

「えっと、おじいさんが言った通りに考えて仕事をしてきました」

「ほう……どんな風にだ?」

 興味があるような視線を向けてきた。

「近い場所から荷物を届けていったら、歩く距離が短くなりました」

「……ふぅん、よく考えているな。……その調子だ」

 ぶっきらぼうにそう言ったけど、もしかして褒められた? 厳しかったあのおじいさんが!

「ふふっ」

「……何を笑っている」

「なんでもない、です!」

「ほら、残った小包を出せ」

 やっぱり、ぶっきらぼうに声をかけてきた。私はカバンの中から二つの小包を取り出した。

「二つか、これはこっちで預かる。届け先の人が取りに来るからな、事務所に預けておくんだ」

 なるほど、そういう流れになっていたんだ。もしかして、その為の不在票? ちゃんと考えると、どんな仕事でも仕事が楽になるんだ。

「じゃあ、今回レミが届けた小包は六個だな。……いくらになると思う」

「えっと、一つが80タルだから……80が六個で……460?」

「違う、480だ。計算も出来た方がいい。自分の稼いだ金はちゃんと数えられないと、困るぞ」

「は、はい!」

 計算か……難しそう。でも、そんなこと言ってられない。もし、相手が間違っていた時、困ることになるのは自分だ。おじいさんは私のことを思って言ってくれているから、ちゃんとしないと。

「じゃあ、次の荷物を持ってこい」

「はい!」

 私はすぐに扉の近くの棚に近寄った。そして、自分が持てそうな小包をカバンの中に入れていく。どんどんカバンが重たくなってくるので、そこでスキルを発動する。

 すると、能力が上がって、カバンが軽く感じた。それから、自分が持っても苦しくない程度まで詰め込む。

「んー……一回きりっていうのがしょぼいって事なのかな?」

 能力が上がるのは助かるけれど、スキルを使った時しか上がらないのは、なんだか寂しい。もう少し、便利だと良いんだけど……。

「もし、この能力が経験値みたいに蓄積されればな……」

 そうしたら、どんどん強くなって、次の日にはもっと持てるようになるのに。だけど、このスキルは使った時しか能力が上がらない。やっぱり、ハズレスキルなんだなぁ……。

「ううん、ハズレスキルでもちゃんと役に立っている。使い方次第だから、もっと考えて使わないと」

 考え方次第で仕事が楽になった。だったら、このハズレスキルだって考え方次第でもっと便利になるはずだ。

 希望を持つと、カバンを抱えておじいさんとところへと戻っていた。

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