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『ナカノヨウタの変貌』あとがき

 こんにちは。正野雛鶏です。
 本作のきっかけになったのは、鴨志田一の『青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない』でした。
 私が影響を受けたのは映画の方で、レンタルショップで借りたそのDVDをひとり深夜に視聴した際、私のインスピレーションが刺激されました。
 見る人が見れば本作は既視感のようなものを抱かれるかもしれませんが、私の中ではあくまでもオマージュの域に留めているつもりです。どうかご容赦ください。
 また本作は概ね私小説といえる代物になっています。その点で見れば、作者自身の私情が本作を生み出す契機につながっているとも考えられるかもしれません。
 とはいえ物語要素を多分に含み、ジャンルをSFと謳っていることもあり、私小説的な側面はあまり露骨ではありません。ですから本作を読まれた方が私の考えを理解しようとすることは野暮だといえるでしょう。もっとも私はそもそもそんなことを願っていませんので、解釈は自由にしていただければ幸いです。
 ただ一点言及しなければうまく伝わらないだろうと思われる向きに、本作でしばしばニキビが青春の象徴として婉曲的に表現しているところが挙げられます。これは高校一年次に芥川龍之介の『羅生門』を学んだ際の国語教師による言説を受け売りにしているのですが、それが言い得て妙だなと思い、ゆえに本作では重要キーワードに位置づけています。
 ニキビは一般に、成長に必要なホルモンの働きによって皮脂が過剰に分泌されやすい思春期にできやすいとされています。
 私も慢性的なニキビには悩まされてきました。ニキビというのは非常に厄介なものでして、一度その状態になると悪循環に陥り、なかなか完治してくれないのです。一度でもニキビができるとなぜか伝染するように新たなものができる。すると一向に治らないことに閉口し駄目だと自覚していても、ニキビを潰すという非行に走ってしまう。だから永遠に治らないのです。もっと厄介なのは、そこに追い打ちをかけるかのように、周りの人、特に大人がそのことを指摘してくることです。彼らは自分が学生だった頃の、顔全体を侵略し精神的にも塞ぐニキビの苦しみを忘れているのでしょうか。
 本作は私が高校生という身分のうちに書かねばならないものでした。
 現役高校生が書いたものですから、青春時代を遠くに据えた方にとってはどうしても共感し難い部分もあるでしょう。ただそれは仕方のないことなのかもしれません。私だっていつか大人になった時、自分でも本作をなんて稚拙で痛々しいものなんだと指摘していてもおかしくはないのです。
 それでも私が本作を執筆したのは、その苦しみをどこかに綴っておきたかったからです。
 思春期の苦しみは思春期のうちにしか理解できない。大人がそれを再現しようと思っても実態とは絶対にどこか齟齬が生じてしまう。ならば私はそれを大人になってから書くのでは遅いと考えたのです。
 本作が今の私の、ニキビで悩む方の、そして少しでも面白いと感じてくださった皆様の備忘録となることを願っています。
 ありがとうございました。

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