• 現代ファンタジー
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    固定されたコレクション

    北山大学自炊研究会シリーズ  1st Season

    料理サークルとして始まったわけではない。 レシピを共有するための集まりでもない。 北山大学自炊研究会は、春野さつき、志摩澪、佐野晃の三人が、料理を作り、撮り、食べるところから始まった。 最初はただの自炊だった。けれど、同じ台所に立ち続けるうちに、料理は少しずつ三人の関係そのものになっていく。 洋食の春野さつきは、前に出る人。 誰かに届けたいという衝動で動き、料理の華やかさも、言葉の熱も引き受けていく。 けれどその奥では、何をもって届いたと言えるのかを、ずっと探している。 和食と出汁の志摩澪は、静かな人。 感情をそのまま出す代わりに、温度や手順や味の構造に変えて扱う。 料理は表現である前に、世界を整えるための形式でもある。 そして、主人公の佐野晃は、少し後ろに立つ人。 料理が特別好きだと言い切るわけではない。 それでも台所に立ち、カメラを持ち、三人で続いていく時間を見つめている。 物語は 『いただきますのプレリュード』 から始まり、 『いただきますのフーガ』、 『いただきますのコンチェルト』、 『いただきますのシンフォニー』、 そして 『いただきますのカデンツァ』 へと続く。 料理を作る。 食べる。 撮る。 続ける。 その繰り返しの中で、三人の距離は少しずつ変わっていく。 やがて声部は増え、関係は揺れ、台所の外側まで物語は広がっていく。 これは料理の話であると同時に、 同じ火の前に立つことでしか繋がれなかった人々の話。 そしてたぶん、 「いただきます」と言うその一瞬だけは、ずっと同じ方向を向いている。

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  • 2作品

    Letter ~人生は、まだ読み終わっていない~

    二十八歳、独身。 地方の量販店で魚を売る綾瀬翔は、ある春の夜、駅のホームで人生の終わりを迎えた。 ――はずだった。 目を開けると、そこは音も温度もない白い場所。 案内人から与えられた選択の末、翔は中学一年の春から、自分の人生をもう一度辿ることになる。 吹奏楽部で手にしたコントラバス。 初めて自分の「好き」を受け取ってくれた村上晴音。 何も聞かずに隣にいた友人たち。 鳴った音。 鳴らなかった音。 言えなかった言葉。 言えたあとに残ったもの。 高校を卒業し、大学へ進み、音楽にのめり込み、恋をし、働き、旅をして、酒を覚え、就職活動に迷い、やがて社会へ出ていく。 けれど、人生をやり直したからといって、すべてがうまくいくわけではなかった。 正しくやれば、正しく返ってくる。 結果を出せば、ここにいてもいい。 誰かに選ばれなければ、自分には価値がない。 翔を最後まで追い詰めたのは、失敗した出来事だけではない。 いつの間にか自分の中に作り上げていた、いくつもの法則だった。 それでも、何も残っていなかったわけではない。 指が憶えていた音。 くだらない昼休み。 誰かと並んで歩いた帰り道。 途中で閉じられなかった会話。 届かなかったと思っていたものは、形を変えながら、ずっと翔の中に残っていた。 これは、過去を変えて成功する物語ではない。 終わったはずの人生をもう一度歩きながら、自分が何を受け取り、何を読まずに捨ててきたのかを知る物語。 自分の心の底から届き続けていた、未読の手紙。 その一通に、返事を書くまでの物語。

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