「……やっと終わったぁぁ……死ぬぅぅ……」
美桜が大学を卒業して1年後、俺らは結婚した。
俺はイラストレーター兼漫画家としてどうにか食えていた。
美桜は美桜で事務員をしている。
「……ねむい……」
二徹で死にそうになっていた俺はベッドに寝転んだ。
意識が泥のようになっていく。
大学生時代も今もそこまで変わってはいない。
ずっとペンを握っている。握れている。
☆☆☆
気が付いたらもう夜だった。
キッチンで料理をしている音が聞こえてくる。
俺は未だ重たい体を無理やり起こして美桜の元に向かった。
キッチンまで来ると案の定美桜が料理をしていた。
付き合い始めたばかりの頃のような短めな髪。
時折光る主張控えめなピアス。
新妻感溢れる可愛らしいピンク色のエプロン。
そして全裸。
うぅむ。これはまずいですね。かなりまずい。
「美桜、おかえり。すまん寝てた」
「二徹してたんでしょ? 仕方ないよ。良春くん。ただいま」
どこか幼さを残すその笑顔は、出会ったばかりよりはこれでも幾分か大人びてはいる。
だが、問題はそれではない。
裸エプロンで何気なくしたやりとりそのものである。
結婚してから段々とわかってきたことではあるのだが、美桜は決して自分から誘ってはこない。
しかし、これはもう誘っているの同義では? という行動を取る。
これはやばいです。
そういえば最後にしたのいつだっけ?
1週間前とか? もうちょい前だったりする?
美桜が裸エプロンをする時はもう我慢できない時である。
要するに「早く抱け」ということである。
そして美桜はふたつのエプロンを持っている。
ピンク色と水色の2種類である。
水色は「今日は安全日ではありません」ということらしい。確かめたことはないが、俺らはまだ子どもを作る予定はないので、基本的には避妊をしている。
一方ピンク色のエプロンは「今日は安全日」ということである。おそらく。
最初はわからなかった。
だが、夜を重ねていくうちにエプロンの使い分けをしているということに気が付いたのである。
そして今日はピンク色の裸エプロンである。
さらに言えば、今日は華の金曜日である。
ここで美桜を抱けなかったら離婚される可能性すらあるだろう。美桜ならそんなことはしないはずだが、夫婦間に大きな溝ができるのは目に見えている。
というかこの状況で自分の嫁を抱かない旦那はEDか不倫相手がいる説。
「今日のご飯はなに?」
鍋で煮込んでいる美桜のそばに立って何気なくこちらも聞いてみた。
美桜は間違っても「へいッ! カモンッ!!」みたいなことはしない。
「今日は牛丼を作ろうと思って。牛の切り落としが安かったし」
包丁はすでに使い終わっているのを確認しつつ、俺は何の気なしに美桜の肩を撫でるように抱き寄せた。
「良春くん、今はだめだよ♡ 料理中なの」
肩から背中、そして腰へとゆっくり手を滑らせていく。
「んんっ♡」
裸エプロンでダメもなにもないだろう、なんてツッコミはしてはいけない。
美桜にはとある性癖がある。
それが折檻である。
俺が描いていたエロ漫画のメイドもので目覚めてしまったらしい。つまり俺のせいである。
まあ要するに、立場の上のやつにセクハラされるというプレイに目覚めてしまったらしい。というか俺にそうして欲しかったと、前に酔っ払っていた美桜が話していたのを覚えている。
結婚前の俺が抱いてくれなかったからこうなったらしい。
……俺が拗らせてしまった美桜の性癖であるが、これはこれで職場で心配ではある。
「なら火を止めよう」
「で、でも……」
腰まで来ていた手で、美桜の手を握った。
そして美桜に火を止めるように促した。
上目遣いで少し困りつつもどこか期待している美桜の瞳はたしかに潤んでいた。
「ご飯……まだ作れてない、よ?♡」
「でももうこっちは、こんなになってるけど?」
「あっ♡」
そうしてベッドまでゆっくりと歩きつつキスをして押し倒した。
今だけは、疲れを感じることはない。
☆☆☆
「おはようございますっ!! 良春くんっ!!」
朝起きて、艶々とした満面の笑みの美桜。
凄く上機嫌である。むしろ明日にでも世界は滅ぶのではと思うほどに清々しい笑顔。
「……ぉ、ぉはょぅ……美桜……」
一方俺は干からびていた。搾り取られた。
今なら蟻の1匹にすら負ける気がする。
何回したかは覚えていない。
死にそうだ。痩せた気がする。
……だが、美桜が元気なので、それで良しとしよう。
男として、責任は果たしたはずだ。
「綺麗な……お花畑が見えるぜ……」
「良春くんっ?! 良春くぅんッ?!」
おいらはもう、燃え尽きた。