私自身も、数年前に私と極めて親しかった姪の一人が二十一の年に自殺したとき、美しいうちに死んでくれて良かったような気がした。
一見清楚な娘であったが、壊れそうな危なさがあり真逆様に地獄へ堕ちる不安を感じさせるところがあって、その一生を正視するに堪えないような気がしていたからであった。
--- 堕落論(坂口安吾)
私の近所のオカミサンは爆撃のない日は退屈ねと井戸端会議でふともらして皆に笑われてごまかしたが、笑った方も案外本音はそうなのだと私は思った。
--- 続堕落論(坂口安吾)
人間の持つグロテスクなホンネを暴くこと、キレイゴトではなく、ありのままの真実を見せることは文学の役割の一つだと思う。
綺麗な言葉で誤魔化しながら生きている者に現実を見せつけ、真に生きよ、と告げることなのだと思う。