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おならで逮捕

 クリーンチュルナイを思い出すこの展開。
 シンガポールの法律をもう少し尖らせてみました。
 絵のように空夢風音もそんな顔するわ。この展開だと。
 プレビュー↓


 カイアスとアンリの国境あたりにある街、宇宙一清潔な街クリーンゲート——。
 石畳は磨き上げられた鏡のようで、朝の光を受けて白く輝いていた。風が吹けば、排気の匂いどころか、草木の香りさえも立ち込めることはない。空気は無味無臭、まるで透明な水を呼吸しているような錯覚さえ覚える。
 四人の旅人は、そんな街の中心市場を歩いていた。
「むぅ……」
 ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒが、突然足を止めた。高貴な面立ちに、かすかな苦痛の色が浮かんでいる。
「どうしたの、ミハエル?」
 水鏡冬華が、不思議そうに声をかける。普段は無表情な彼女だが、ここ数日で多少は表情が豊かになってきた。
「いや……その……」
 ミハエルの額に、汗の粒が浮かぶ。昨夜食べた、あの妙なカイアス名物『発酵ハーブチーズとキノコのシチュー』が、今になって叛旗を翻しているらしい。



(ま、まさか……このわたしに、生理現象の魔手(おなら)が……!)
 内心で叫びながら、ミハエルは周囲を見回した。清掃用の魔導人形が巡回し、白い制服の衛兵たちが、杖のような装置を携えて歩いている。あれが、空気中の埃一つでも感知する『サニタリー・スキャナー』だ。
(神々や魔物相手ならいざ知らず、この『屁(へ)』には勝てそうにないぞ……! エウメネス!! への対処法を教えてくれ!! エウメネス!!!)
だが、ここで『排泄物の発声(へ)』などという失態を演じれば、公爵としての威厳も地に落ちる。何より、この清潔狂いの街では……!
「ミハエル? 顔色が悪いぞ」
 フレデリック=ローレンスが、心配そうに覗き込む。漆黒の鎧に包まれた彼は、二振りの剣を肩で回しながら、いたずらっぽく笑った。
「まさか、朝から酔ってるのか? この街、酒も売ってないってのに」
「違う……その……」
 ミハエルは、必死に言い訳を考えた。だが、腹の奥底から込み上げてくる衝動は、抗いがたいものだった。
(仕方ない……周りの喧騒に紛れさせ、バレないよう、できるだけ音もなく……そして『霊波動』で分解・消滅させながら、完璧に事を済ませよう)
 彼は、万全の準備を整えた。意を決したその時——
 スゥ……(プッ)
 ほとんど無音の、しかし全身全霊を込めた、完璧な『屁』が放たれた。誰も気づかない、はずだった。
 しかし、その直後!
「ピーーーッ!ピーーーッ!ピーーーッ!」
 頭上、屋根、壁面、そして路上……ありとあらゆるところに設置された『衛生検知魔導器』が一斉に、耳をつんざくようなけたたましい警報を鳴らし始めた! 街全体が真っ赤な警告灯に染まり、まるで臨界点を超えた原子炉のように光り輝く!
「な、なんだ!? この数値は……!?」
 アリウス=シュレーゲルが、手帳を取り出しながら興奮気味に叫ぶ。銀髪を揺らし、赤い瞳を見開いた。
「未曾有の有機物反応! メタン、硫化水素、そして未知の複合アミンが瞬間的に高濃度で検出されています! こんなことは、過去のデータにもありません!」
衛兵隊長が無線で指示を出す。
「警戒レベルMAX! A-1からC-7区画まで、全浄化部隊を投入せよ! 殲滅ではなく、『清掃』だ! 清潔こそが正義!」
 衛兵たちが装着しているガスマスクや、防護服が、「排泄物検知センサー」と連動して点滅する
「おいおいおいおい!  まさか、この大騒ぎ……」
 フレッドが、半ば呆れ、半ば恐怖に顔を引きつらせた。
「ミハエルの『一発』か!? そんなバカなっ!」
「……ミハエルの『屁(へ)』一発でテロ並みの騒ぎじゃない……」
 水鏡冬華が、珍しく目を丸くして感嘆する。
「ち、違う!  わたしは……!」
 ミハエルが慌てて否定しようとしたその時、
「ガタタタタタタッ!」
 たちまち、建物の陰から、下水道のマンホールから、空からは小型の飛行艇に乗って!  無数の衛兵たちが、「クリーンゲート式排泄物汚染緊急対応隊」と書かれた腕章を光らせながら、四人を取り囲む!
「動くな!  お前たちだ!」
 衛兵隊長が、剣を抜きながら叫んだ。
「この瞬間、街全体の衛生指数が危険水域に突入した! 生命の息吹どころか、『生命の終焉』を感じるほどの瘴気が街を覆ったぞ! 貴様ら、一体何を放出した!?」
「これ褒められてるよな!? 褒められてるよな!? わたしのおなら、核兵器級だってよ!」
 ミハエルは、額に汗を浮かべながら、内心どころが表に出して呻いた。

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