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ピリオド プレビュー

本当はこれでエンディングの予定だったけど、10万文字に足りないことが計算したら分かったので、悪魔辞典とにらめっこしながら主天使バラムを登場させたという。魔神の日。
絵はアリカ=シュルツェ=ドレッシャー。ペガサス女騎士の斧使い。ロボットアニメ化したアスタルロサ王国からヴァーレンスに移ってきた人。
 三つ編みカチューシャがトレードマーク。結構やりやすい髪型……? 左右三つ編みにして頭の上でアーチさせてへアバンドで止めればいいだけだから。
プレビュー↓


(お願い……届いて、私の声が)
 彼女は祈っていた。神にではない。仲間たちに。彼女の人間としての非力な、しかし何よりも強い意志が、研ぎ澄まされた刃のように精神の深奥へと潜っていく。混沌と矛盾、無限の自己言及によってノイズの嵐と化した鏡食いの存在領域。その中で、たった一つの「始まりの点」を探す。


(それは、悲鳴だ)
 リアナは「視た」。無数の自己模倣と論理破綻の果てで、ただ一つ、最初に生まれた矛盾。己の存在を呪い、ここではないどこかを願い続けた、原初の苦痛。それがこの怪物の「核」。それは悪意ですらない。ただ、孤独な、救いを求める叫びだった。


「……そこ」
 リアナの唇から、囁きが漏れた。それは音にはならず、しかし明確な指向性を持った意志の矢として、アリウスと蒼依の魂に直接届く。


「アリウスさん、左三歩、真上だ!」
 リアナの声を、声としてではない、確信として受け取ったアリウスは、思考するよりも先に動いていた。左へ三歩。虚空にしか見えない頭上へ向けて、『時織』を突き上げる。剣先は何も斬らない。だが、そこにあるはずのない「一点」を、現実空間に固定する錨となった。


「蒼依ちゃん!」
「ほいほい見えたよー!」
 精神世界の中で、蒼依は無数の鏡像の向こうに、リアナが示した一点を見た。そこだけが、どの鏡にも映らない。ぽっかりと空いた、存在の空白地帯。そこから、か細い光が、まるで助けを求めるように明滅していた。
 蒼依は跳んだ。迷宮そのものを足場にして。彼女の持つ刀が、仲間たちの祈りを、覚悟を、未来への願いを束ねた一筋の光となる。


「これで、終わり……!」
 ズブリ、と。抵抗のない手応え。刀は、存在の空白地帯に吸い込まれるように突き刺さった。
 ――――――――!
 その瞬間、世界から一切の音が消えた。
 鏡食いの巨体が、内側から眩い光を放ち始める。それは爆発ではない。解体だ。「私」が「私」を定義できなくなった存在が、意味の連鎖を失い、構成要素であったはずの概念へとほどけていく。形は光に、光は情報に、情報は意味のないノイズへと還元されていく。

「自分に惚れたまま、逝け…………」
 無限に続いた自己言及の呪い、意味消滅魔法ナルキッソスは、その参照先である「核」を破壊されたことで、最後の一撃を自らに加えた。鏡が、自らを映す最後の鏡を、砕いたのだ。
 アリウスは蒼依を庇うように抱き寄せ、リアナはゆっくりと目を開けた。彼女の瞳には、神話の終焉のように静かに崩壊していく、巨大な光の奔流が映っていた。

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