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ちゃんと考えたらアスタルロサがえらいことになった

絵は2部で空を飛ぶことになる空夢風音。ギャグで。
ムーンショット 第2部で。
プレビュー↓


 ティルナノグでの激戦と、それに続くAI技術という新たな力の発見からある程度の期間が経過した。
 火明星(ほあかりぼし)は、穏やかな雨の季節を終え、新たな時代の幕開けを予感させる乾いた空気に包まれていた。だが、その静けさは水面下の激しい潮流を隠すための、薄い氷膜に過ぎなかった。
 ヴァーレンス王国とその同盟国がAI技術の解析と応用で目覚ましい進歩を遂げる一方、その動きを苦々しく見つめる者たちがいた。中央大陸の覇者カイアス王国と、その同盟国である北西の軍事大国アスタルロサ。北東のルルメール。彼らがこのまま沈黙を守り続けるはずがなかった。
「——というわけで、ミハエル様。アスタルロサの連中が、何やらきな臭い動きを見せているとのことでーす。わたくし、レティチュ=ド=エーロが、忍びの術でその実態、丸裸にしてまいります!」
 蒼穹を穿つようにそびえ立つ、アスタルロサの軍事研究施設の尖塔。
 その影に、青い忍び装束を纏った金髪のエルフ、レティチュは完全に同化していた。
 彼女の体は、まるでカメレオンのように周囲の風景を写し取り、最新の魔導探知機すら欺く完璧なステルス状態を維持している。
 その緑色の瞳は、いたずらっぽく輝きながらも、眼下に広がる巨大な軍事基地の全容を鋭く捉えていた。
 彼女の脳裏には、数週間前のミハエルの言葉が蘇る。『AI産業革命だ』。
 その言葉が、彼女の冒険心を、そして忍者としての使命感を強く刺激していた。ミハエルのような圧倒的な強者たちに認められるには、自分にしかできないやり方で貢献するしかない。それが、彼女の出した答えだった。
「ふふん。わたくしの水遁隠れの術にかかれば、こんな鉄の塊だらけの砦なんて、お庭を散歩するようなものですよー」
 レティチュは小さな笑みを漏らすと、猫のようにしなやかな動きで尖塔の壁面を滑り降りる。重力など存在しないかのように、彼女の体は軽やかに宙を舞い、警備兵の視界の死角を縫うようにして、巨大な格納庫の屋根へと音もなく着地した。
 格納庫の内部は、異様な熱気と金属の匂いで満ちていた。天井近くのダクトから内部を覗き込むと、そこには彼女の想像を絶する光景が広がっていた。数十体、いや数百体はいるであろう、黒鉄の巨兵。
 その姿は、ティルナノグで目撃されたネフィリムの模造品、バトルドールに酷似していたが、より洗練され、殺戮のためだけに最適化された禍々しい気を放っている。 その時、下で作業をしていたパイロットたちの会話が、彼女のエルフの鋭い耳に届いた。
「おい、聞いたか? 量産型の正式名称が決まったらしいぜ。『ブラックソルジャー』だってよ。安直だが、強そうじゃねえか」
「それよりエース機だ。四天王とかなんとか言って、それぞれに名前がついたらしい。『アメイモン』『コルソン』『ジミマイ』『ゴアプ』……なんか、悪魔の名前みたいで気味悪いよな」
 レティチュの瞳が、きらりと光った。これこそが、彼女が求めていた情報だった。
 彼女はすぐさま魔導携帯端末を取り出し、指先で高速でメッセージを打ち込む。
 送信先はもちろん、ヴァーレンス公爵、ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒだ。『ミハエル様、こちらレティチュ! 敵の新型兵器、確認しました! 詳細、送ります!』


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 その報せは、瞬時に仲間たちへと拡散された。
 ヴァーレンスの公爵邸。ミハエルは、フレデリック、アリウスと共に、レティチュから送られてきた映像とデータを巨大な立体モニターに映し出していた。
「ブラックソルジャー……か。数で押す気だな。
 そしてエース機には悪魔の名を冠する、と。
 アスタルロサも、ただの脳筋集団ではなかったというわけか」
 ミハエルが冷静に分析する横で、フレデリックはワイングラスを傾けながら面白くなさそうに呟いた。
「ガラクタの数が増えたところで、ガラクタはガラクタだろう? それより、この『ジミマイ』って名前、なんか間の抜けた響きだよな。俺が名付けるなら『クリムゾン・タイフーン』とか、もっとこう……」
「問題はそこじゃないよ、フレッド。このエネルギー署名……純粋な魔力や科学技術だけじゃない。何か異質なものが混じっている。おそらく、霊的な、あるいは悪魔的な契約か何かを動力源に組み込んでいる可能性が高いね。名前が悪魔だしね」
 アリウスが、モニターに表示された複雑な波形を指さしながら、鋭い指摘を入れた。その瞳は、未知の技術に対する探求心で爛々と輝いている。 ミハエルの屋敷の別室では、女性陣がそれぞれの反応を見せていた。

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