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さゆがさらに上をいくほどうぜえ プレビュー

 絵はアホ女。フレッドとさゆはキャラが勝手に動くから作者としては重宝する。
 12月4日更新予定。
 プレビュー↓


 ホテルの裏手、立ち入り禁止のテープが張られた旧研究所への入り口付近は、異様な熱気に包まれていた。数十人の若者がスマートフォンを掲げ、ライブ配信中の「ヤミナベMV」リーダー、ケンジを取り囲んでいる。
「うおおー! 見てるかお前ら! ここがガチでヤバいって噂の廃墟だぜ! 今から俺らが潜入して、悪霊だろうがなんだろうが、その正体を暴いてやんよ!」
 ケンジがそう叫ぶと、取り巻きたちは
「ヒュー!」
 と歓声を上げ、コメント欄は凄まじい勢いで流れていく。彼らにとって、ここはただの肝試しスポットであり、金と名声を生み出すための舞台に過ぎない。
 その様子を、さゆは少し離れた木陰から冷めた目で見ていた。
「……品性のかけらもないねぇ。こんな場所で騒ぐなんて、罰が当たるって知らないのかな。まあ、教えてあげるのが親切ってもんか」
 彼女はふふふ、と楽しそうに笑うと、すっと闇に溶けた。

 ケンジと彼の仲間たちが、バリケードを乗り越え、懐中電灯の光を頼りに薄暗い通路を進んでいく。
「やべえ、空気ひんやりしてんな! マジでなんか出そうじゃね!?」
「コメント欄、『背後に何かいる』で埋まってんぞ!」
 彼らがわざとらしく怖がってみせ、視聴者の期待を煽っていると、不意に通路の奥からコロコロ、と何かが転がってきた。
「ん? なんだ?」
 ケンジが懐中電灯で照らすと、それは人間の頭部だった。しかも、一つや二つではない。通路の奥から、まるで無限に湧き出すかのように、大量の頭が、頭が、頭が、ゴロゴロと転がってくる。




「ひっ……!?」
 その全てが、桜雪さゆと寸分違わぬ顔をしていた。ある頭は微笑み、ある頭は泣き、ある頭は怒りに顔を歪めている。百の貌を持つ百の頭が、一斉に彼らを見つめた。

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