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『アガルタのイオリ』第63話 ヘミングウェイの『日はまた昇る』

今回タイトルにした『日はまた昇る』はヘミングウェイの処女長編で、自分が一番好きなヘミングウェイの小説です。

スケールの大きい一種の私小説で、若きヘミングウェイが滞在したパリでの日々が主題です。
ヘミングウェイはこの作品をヨーロッパ滞在中に書きあげました。
現在進行形の体験を間髪入れずに書いたのです。
これはすごいことです。
地震の真っ最中に地震のようすを書くような行為で、これは余人にはまねできません。
超人的な体力、そして人を人と思わない強烈なエゴを持っていなければ、こういう芸当は不可能です。

とくにストーリーはありません。
要約するのが難しい小説で「失われた世代(ヘミングウェイやフィッツジェラルドをさす)の虚無感が現れている」という批評をよく聞きます。
自分が覚えているのは主人公のジェイク・バーンズ(ヘミングウェイ自身がモデル)の友人が

「英国人は週に二日も休むんだぜ」

と愚痴をこぼす場面です。
この小説が書かれたのは1920年代ですが、このころ英国はすでに週休二日制が普及し、アメリカはまだそうではなかったことが伺えて面白いです。


詩人の萩原朔太郎が

「フランスに行きたしと思えども、フランスはあまりに遠し」

といいましたが、そんな日本人にとって遥かな憧れだった遠いフランスやヨーロッパが生き生きと描かれていて、そこが好きでした。
もしかしたらヘミングウェイが書いたのは「もう一つのベルエポック」で、かつて田舎の少年が憧れたフランスやヨーロッパは、21世紀の現在もはやないでしょう。
『日はまた昇る』を読むと、そんな哀感も感じます。

『アガルタのイオリ』第63話 日はまた昇る
https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792436498078572

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