• 現代ドラマ
  • 現代ファンタジー

寸劇「試写会に行きたくないシオン」


【シオンの自宅・リビング】

「深山監督から招待状が届いたよ!」

 ゆいが、封筒を三枚ヒラヒラさせながら入ってきた。

『英雄は四月に死ぬ』ゼロ号試写会——関係者限定。
 あの天才映像監督の最新アニメ映画。しかも主題歌は私たちの『Destiny』。

「ガチ?やったー!」

 私は、思わず声を上げた。

「いいな、完成版を誰よりも早く観られるわけか」

 セイラも、珍しく嬉しそうだ。

「シオンも早く支度して。映画館じゃなくて試写専用の施設だから、みんなでタクシーで——」

「……いや」

「え?」

「いやや」

 シオンが、ソファの端で膝を抱えたまま動かない。

「……シオン?」

「いやや。行かへん」

「は?」

 セイラの眉が、ピクリと動いた。

「おまえ、何言ってんだ。これ深山監督からの直々の招待だぞ?アタシたちの曲が主題歌になった映画のだな——」

「いやや」

「だから、なんで——」

「外、出たくない」

 シオンがソファのクッションを抱きしめる。

「引きこもる」

「おまえなあ……!」

 セイラの声が大きくなる。

「……あのな、アタシたちFAKE-3として呼ばれてんだぞ?三人揃わないとおかしいだろ!」

「二人で行ってきて」

「なんでだよ!」

「……映画館暗いし」

「試写会だって言ってんだろ!」

「試写会も暗い」

「当たり前だろ!」

「人がいっぱいおる」

「試写会だから関係者しかいないって!」

「関係者も人や」

「テンメェ!ぶんなぐんぞ!」

 セイラがイライラして頭を抱える。

 私は、シオンの横にそっと座った。

「シオン、どうしたの? 体調悪い?」

「……体調は普通」

「じゃあ、なんで行きたくないの?」

 シオンが、モゾモゾとクッションに顔を埋める。

「……深山監督に会うのがいや」

「え? なんで? 撮影の時は普通に話してたじゃん」

「あの時は……カメラ回ってたから」

「……どういうこと?」

「今日は……素の自分で会わなあかん」

「素の自分?」

「シークレットブーツ履いてへん時の、151cmの自分で……」

 ——あぁ。

 私は、ようやく理解した。

 撮影の時、シオンはシークレットブーツを履いて、胸パッドも入れて、「Shadow Guitar」としての自分を演じていた。

 でも今日は、プライベート。

 素のシオンで、あの天才監督と再会しなければならない。

「小さいに見られるの……恥ずかしい」

 シオンの声が、くぐもる。

「『え、こんなちっちゃかったの?』って思われる……絶対」

「思わないって」

「思う」

「思わないよ」

「思うもん」

「深山監督、おまえの身長なんか気にしてないだろ」

 セイラが呆れた声を出す。

「むしろ『意外に中身も同じなんだ』って楽しそうに言ってただけじゃねえか」

「あれが一番キツいねん!」

 シオンがクッションを握りしめる。

「うちの方はチラ見だけして、YUICAとセイラばっかり見てた……」

「おまえがガキだから気を使ったんだろ……」

「セイラは背が高いから分からんのや!」

「おまえより7cm高いだけだわ!」

「7cmはでかい!!」

「だいたいおまえが!アバターの設定170cmにするからだろうが!」

「だって理想の自分やから!」

「理想と現実の乖離が激しすぎるんだわ!」

 二人の言い合いが続く。

 私は、シオンの肩を優しく叩いた。

「シオン、大丈夫だよ」

「何が」

「深山監督は、シオンの音を認めてるんだから。身長とか関係ないよ」

「……」

「MV、見た? シオンのギターソロ、めちゃくちゃカッコよく撮ってくれてたじゃん」

「……うん」

「あの映像を作った人だよ? シオンの才能を、ちゃんと分かってる人」

 シオンが、少しだけ顔を上げる。

「……でも」

「うん?」

「たぶん道路、混んでる」

「首都高も使おう」

「タクシー、運転手さんと二人きりになる」

「三人で乗るから大丈夫」

「三人やと狭い」

「我慢しろ」

「座席が革張りやったらお尻が滑る」

「このクソガキいい加減に……」

 セイラが限界を迎えた。

「もういい!おまえは留守番してろ!!」

「え」

「YUICAと二人で行くわ!陰キャなガキの世話なんかしてられるか!」

「……ほんまに?」

 シオンの目が、ちょっとだけ輝いた。

「ほんまにお留守番していいん?」

「いいから!さっさとゲームでもしてろ!」

「やった」

 シオンが、パッと表情を明るくする。

「じゃあうち、地下でギター弾いてる」

「好きにしろ!」

「あ、でも」

 シオンが、私とセイラを見上げた。

「……感想、聞かせてな」

「は?」

「映画の感想。うちのギターが、どんな風に聴こえたか……」

 少し、照れたような表情。

「……気になるから」

 セイラが、深いため息をついた。

「……はいはい、分かったよ」

「ほんま?」

「ああ。だから大人しく待ってろ、引きこもり」

「引きこもりちゃう。戦略的撤退や」

「どこがだよ」

 私は、クスッと笑った。

「じゃあシオン、行ってくるね」

「うん。いってらっしゃい」

 シオンが、小さく手を振る。

「……あ、YUICA」

「うん?」

「深山監督に会ったら言っといて」

「なに?」

「『シオンは風邪ひいた』って」

「嘘つけって言うのか」

「嘘ちゃう。心の風邪や」

「それを世間では引きこもりって言うんだよ!!」

 セイラの怒号を背に、私たちは試写会へ向かった。

 この時の私は……
 まさか人前で、あそこまで号泣するとは思っていなかった。



 太陽王子の中の人は美少女に見える陰キャ男子だった
 第28話「試写」

 https://kakuyomu.jp/works/822139842424087823/episodes/822139843945054832

 カクヨムコンテスト11 ライト文芸部門 1位

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する