サウンドノベル作りに於いて、一番重要なのは何だろうか。
テキストだろうか。もちろん、これがなくては話にならない。
絵だろうか。これがなければ、キャラも背景も存在しない。
BGMといった音楽だろうか。作品を支えるのはこちらだ。なければ、ただのノベルに成り下がる。
プログラム関係だろうか。こちらも重要だ。何せ、これがないと動かない。
だが、これらを超越する、一番大事な役職がある。
そう――『デスク』である。
デスクとは簡単に言えば、すべての工程を仕切る重要な役目なのだが、その実態はほぼほぼ雑用に近いという悲しき職である。
もっと言えば、大体デスクの所為にされる。どこかのゲームで森に入るロールプレイヤーのように、あらゆる責任が擦り付けられるポジションといっても過言ではない。
有体に言えば、体のいいサンドバッグである。
そして私はデスクだった。つまり、私こそがサンドバッグだった。
サウンドノベルの進め方としては、まずは何はともあれ、企画の立ち上げが必要だ。
もっと言うと、テキストがないと何も始まらない。なので、時に褒め宥め、時に叱責して、ライターの機嫌を窺う毎日だった。そのライターは、こんなことを言ったものだ。
「本気でパソコンを窓から投げようか悩んだ」
それを聞いて、私はこう答えた。
「投げても良いから、テキストを出せ」
テキストがある程度、形になりはじめる頃には、キャラクターデザインと背景である。
同時にBGMも集めなければならないのだが、これはライター本人にやらせていた。お前の作品なのだから、お前のイメージを言え、というわけだ。
さて、今度は絵師を宥め賺し始める。
ここで三人の絵師がいたのだが、二人はまあ仕事が早い。
うち一人はプロレベルで、信頼と信用を全幅寄せていたので、何も言うことはなかった。今でも頭が上がらない私にとっては神のような存在である。毎年必ず貢ぎ物を捧げている。
もう一人は多少は粗があったので、さすがに口を出したが、すぐに修正できる優秀な奴だった。
だが、最後の一人。
これがもう、ものすごく遅かった。もう、本当に遅かった。
しかもキャラクターデザイン担当だったので、致命的だった。
殴って筆が早くなるなら、きっと手を出していただろう。それくらいには遅かった。
ゲーム作りとはチームプレイである。
一人の遅れが全体の進行に影響を与えるのは世の常だ。その帳尻を合わせるのもデスクの役目なのである。なんでやねん。私は嘆いた。
おそらくは、ライターもその絵師も私を恨んだことだろう。
しかし、形にならなければただのデータでしかなく、もっと言えば、ただのゴミだ。
デスクは調整し、形にすることを優先しなければならない。
よくここで聞く言葉がある。
「クオリティはどうなるのか」と。
知ったことではない。
デスクの立場から言わせてもらえば、「クオリティを人質にするな」である。
お前一人の遅れで、どれだけ作業が滞るのかを理解しろ、と言いたい。実に言いたい。
とまあ、そんな紆余曲折あり、なんとか形にはなった。
その瞬間、全員が固く誓った。
「二度とゲームは作らない」
これ以降、ゲームは作っていない。
もしも、これを読んで始めようと思った人に告げておこう。
仮にやるとしても、企画が固まり、テキストが半分以上は出来ていて、なおかつライター本人がスクリプトを触れ、更に取り合えず触りだけでも何でも手伝えるフットワークが羽のように軽いデスクを置ける場合のみやっていい。
それくらいの覚悟がないなら、最初から関わらない方が全員のためだ。
間違いなく、時間は瞬間で飛び、精神は摩耗するだろう。
他にはツクールでゲームを作るというのにも挑んだ事があるのだが(これもデスク)、これはまた別の機会にしよう。