加納一郎「怨霊高須館」。小姓と姫という身分を超えて結びついたふたりがさらわれた先は、身体中が膿み崩れる不治の病に支配された“異境”だった――。姫に懸想する城主の腹いせで牢に幽閉された小姓もやがて病に感染し、美丈夫だった面影は消え、徐々に一個の醜怪な汚物のような“もの”へと変わっていく。最終的には小姓も一太刀報いるのだが、すでに姫も死に絶えており、その後を追うように彼もまた死して怨霊と化す。これだけ陰惨で救いのない話も珍しいが、それゆえ印象に残る一編。
潮山長三「鷺娘」は、鷺が縁で出会った絵師の男と踊の女の電撃的な恋物語。芸事が機縁で始まった恋が、同じ芸事によって終わる。電撃的に始まった恋というものは、やはり短命で終わってしまうものなのか。
想いを残して死んだ若い比丘尼の死霊が座頭にとり憑こうとする、柴田錬三郎「座頭国一」。耳なし芳一よろしく、死霊避けのために僧によって身体中に経文を書かれるのだが、やはり一箇所だけ書き忘れがあり――その箇所が男性自身というのがちょっとエロチック。