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てな訳で石井聰亙「1/880000の孤独」を観た

 前作「高校大パニック」では主人公の〝狂気〟が爆発するプロセスの描写が薄いと感じたが、それは石井自身も自覚があったのか、今回はその辺りをじっくり写し撮っている。
 三浪めの大学受験のプレッシャーを基底に、周囲から疎外された孤独感、亢進する一方でけして解消されぬ性欲、高校時代の友人らとの境遇の差などが、主人公の青年の心と精神をじわりじわりと追いつめていく。
 青年が片足が不自由なのも周りとの〝周回遅れ〟を暗示させて上手い。手紙の届かない、いつまで経っても空のままな郵便ポストの使いかたも、彼の断絶された孤独を表していて上手い。
 そんな〝88万分の1の孤独〟を埋めあわるためか――やがて青年は己の承認欲求を満たすように、毒入りコーラや放火などの犯罪に手を染めていく。そして〝狂気〟は、満員電車の車内で赤ん坊と眼があった際に、不意に爆発する。最初は微笑ましげに見ていた青年なのだが、無心に見つめる赤ん坊の視線に次第に顔色が変わりだし、挙げ句にはその赤ん坊を床に叩きつけ殺してしまうのだ。
 赤ん坊にじっと見つめられると何故かドギマギしてしまう経験は誰にもあると思うのだが、果たしてこの時、青年の心にはいったい何が去来したのか――8ミリ自主映画の枠を軽く超えた、濃厚な作品。

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