川中島ケイ様作『リバース・デイ ―ロードバイクと、キミと出会って―(改題前タイトル:Breathing)』に宛てた、リベンジレース編までのエピソードを読んだ感想をまとめたノートになります。
余談ですがたまたま相互フォローである、三鞘ボルコム様の批評記事にある本作についての内容も拝見しました。なので僭越ながら、本記事のフォーマットはそれに準じたものとなっております。影ながら、この場を借りてお礼申し上げます。
以下からが本文となり、キャラクター、ストーリー、文章の三項目に良かった点と気になった点をそれぞれ述べています。
長文になってしまいましたが、創作活動の糧にしていただければ幸いです。
●キャラクター
・良かった点
主人公であるヤイチを筆頭に、造形とその意図が明確であると感じました。
友人、ヒロイン、アドバイスをくれる先輩にライバルと呼べるキャラクター……役割やそれに対応したキャラ付けがわかりやすいので、なんとなく読み進めても誰が何をしているのか、おおまかに把握できる点はストレスがなく読みやすいです。
セリフの書き分けもきちんとされており、「似たようなキャラクターが喋っている?」と困惑する事もありませんでした。
中でもヤイチに関して言えば、序盤から過去やロードバイクに対する興味を丁寧に描写されているので、読者も彼を見失う事はないのかなと思います。
地の文も基本、ヤイチの視点で進んでいきますし、人物関係も彼を中心に広がっている。辛い過去とあわせて伸びしろを期待させる、主人公らしい造形のキャラクターだと感じました。
他、個人的にはユーダイのキャラが立っていて印象に残りやすかったです。
お調子者な一面があるキャラクターはスポーツジャンルの作品につきものかと思いますが、この作品も例外ではありませんでした。要所要所でヤイチを引っ張ってくれるムーブをしてくれたのも好印象です。
それから、各キャラの行動原理にも致命的な破綻はないように思います。
性格に癖や難のあるキャラクターはいますが、地の文とセリフを照合すれば十分に理解がおよぶ範疇でした。
・気になった点
主人公以外のメインキャラクター、特にユーダイと、可能であれば茜に関する掘り下げが欲しいなと強く感じました。といっても、彼らのロードバイクやそのレースに対する想いなどの掘り下げではありません。
むしろそれらに関しては十分なほどで、特に欠けていると感じたのが日常描写。
ロードバイクと関わりのないところで、ヨイチ達は普段、何をやっているのか。
どんな食べ物が好きで、どんな教科が苦手なのか。カラオケは誰が上手で、ゲームをする時は誰が強く、どんな立ち回りをして戦うのか。
そういったパーソナルな部分の描写がいまひとつ見えなかったので、キャラクターを身近に感じたり、共感するところまでは惹かれませんでした。
ロードバイクが趣味な人間でも、それ以外の事をしている時間は必ずあるはずです。そういった部分にキャラの魅力を掘り下げられるエピソードを配置しておくと、より印象的で親近感の湧くキャラの描写ができると思います。
くわえて言うなら、例に挙げたゲームの上手い下手などの描写は、キャラの絆や成長を描く上で足掛かりにもできるのではないでしょうか。
劣勢の時にこそ強気に出て勝利を掴んだり、そもそもの読み合いや駆け引きに長けているため油断できなかったり……そのキャラが「自分の強み」に気付いていない時、こういった何気ないところからヒントを得て武器を得るのは、ありがちですが面白い展開にもなるのではと思いました。
●ストーリー
・良かった点
キャラクターの良かった点と被るのですが、お話の軸が明確だったので本筋を見失うことがありませんでした。辛い過去をもった主人公・ヤイチがロードバイクを通じて繋がりを得たり、成長をしていく物語であると、本作を読んだ九割九分の方が誤謬なく認識できるはずです。
ネガティブな展開も最序盤にこそあれ、以降は軽快なテンポで、爽やかなストーリーラインが続いていくので安心感があります。
一度挫折を味わってからの再起、新しくできた友達とロードバイクで広がるヤイチの世界。というところに降り掛かる、ヤイチにとっての壁と過去……物語自体は王道に属するものかと思いますが、それゆえ面白さは担保されていると感じます。
ストレートなストーリーラインは、それ自体が既に武器です。
複雑な人間関係や葛藤などを交えれば濃厚な人間ドラマが生まれるのかもしれませんが、個人的には今の路線を貫いてほしいです。
本作の根底にある、爽やかさや勢いのある作風がなくなってしまうのは、とても惜しいと感じるので。
・気になった点
良くも悪くも、ロードバイクとそのレースに関する話が、ストーリーの大部分を占めているという点が気になりました。
もちろん本作のジャンルと題材を踏まえればそれは正解に違いありませんし、好きな方にも刺さるのかもしれません。が、そのあたりに興味がまだない、あるいは関心の薄いいち読者からすると、もう少し話のフックが欲しい感じです。
ロードバイクを抜きにしても、抜きん出た魅力を感じさせるキャラクターがいるとか、キャラ同士の掛け合いが面白い・楽しいとか……このあたりの懸念・改善点については、キャラクターの項目にある、気になった点で述べた事と似ています。
コメディ色の強い会話をさせたりするのが分かりやすい解決策なのかなとは思いますが、展開や全体のバランスが損なわれないかという不安があります。
なのでやはり、キャラやそれを取り巻く日常の掘り下げをもう少し深めにしてみるのはどうでしょうか、というのが私にできる精一杯の提案になります。
●文章
・良かった点
一話およそ2000~3000字弱程度と、読みやすい文量にまとめられていた点がまず素晴らしいです。
難しい固有名詞もほとんどなく、専門的な用語の説明もなるべく簡潔かつわかりやすく済まされていたのもありがたかったです。頻度もそこまで多くなかったのもスポーツに疎い自分にとってはプラスでした。
セリフと地の文の比率についてもおおむね理想的な配分だったかと思います。
レース中は地の文で細かに周囲の状況が描写されていたので、都度イメージがしやすかったです。
と箇条書きのように述べましたが、一番の美点は一人称視点の持ち主である、ヤイチの身の丈に合った表現がされていた事でしょうか。
不自然に難しい言葉が使われず、常に等身大の身の丈に合った語彙力で文章(=物語)が進んでいく。地の文における“視点のブレなさ”が守られているのは、地味かもしれませんが良かったポイントです。
・気になった点
特に中学生編:リベンジレース編で感じたのですが、ここぞという場面におけるレースシーンでの臨場感、盛り上がりが著しく欠けていたように思います。
そう感じた理由はいくつかあって、ひとつは『ヤイチ自身の描写の不足』。
状況描写が細かだった点とは裏腹に、比較するとヤイチの体に起こる変化や、心情の揺れ動きなどがあまり書かれていないような気がしました。
さらにこのエピソードで参加したレースには、因縁の相手であるヨースケがいます。そんな相手を前にヤイチがいつも通りでいられたかと言われれば、おそらく違うような気がします。
いつもより息切れが速い、意味もなく何度もハンドルを握り直す、必要以上にペダルを漕いでいる事をユーダイや茜から指摘され、慌てて直す……などなど、プレッシャーから生まれる行動の変化がヤイチにはあったのではないでしょうか。
個人的には、地の文の情景描写が細かでなくなる=焦りから視野が狭くなり、自分の事にしか意識が向かなくなる、といったような表現があっても面白かったのではと思ってしまいました。
もうひとつは『因縁の相手である、ヨースケとの関係性の描写』。
ヨースケの描写は最序盤の方でされたきりなので、リベンジレース編直前、ユーダイと茜とロードバイクを調整するシーンで掘り下げられていてもよかったような気がします。その方が因縁が増しますし、戦うべき相手の確認も行えるので、その後の展開がスムーズに行えるかと思います。
最後に上記二点の欠如による、『因縁の相手を打ち倒すことによるカタルシスの不足』が、私の気になっていた点でした。
周囲の状況を描写するのももちろん大事な事だと思います。
ただこのレース場面に限ってはヤイチを軸に、壁を乗り越える主人公である事を強調して描いてくれた方が私としては好みでした。
他に気になった点としては、いわゆる説明セリフが多かった点でしょうか。
事細かにキャラに喋らせるより、説明をある程度、地の文にも割いてあげた方がセリフもスマートに見えると思います。
以上が感想となります。
至らぬ点もあったかと思いますが、ご覧頂きありがとうございました。
その他気になる点があればコメントにて(可能な限りで)お答えしますので、お気軽にどうぞ。
最後にこのボリュームの感想を書くだけでひぃひぃ言ってしまうので、やっぱり私に批評は無理みたいです。