こういうの、あんまりくどくど書くものじゃないような気はしているのですけれど。
公式の自主企画「人工知能×青春小説」に参加するために書いてみたものです。最低ラインの2万字を超えるのが一番の目標で、あとは切りのよさそうなところで終わっておこう、と最初から決めていました。実際、企画締め切りの2、3日前までかかっていたので、時間内ではこれが限界でした。ネタが浮かべば続きが書けそうな話にも、たぶんなっています。たぶん。
正直なところ、青春小説というテーマがだいぶ漠然としているなー、と思っているんですが、そこに人工知能をからませろという無理難題で、こりゃあ、いったいどうすればいいのかと。たいへん途方に暮れました。公式の企画にケチをつけたいわけではないのですが、ぶっちゃけ、かなり食い合わせ悪いんじゃないかなあ、と……げふんげふん。
とはいえ、挑戦だけはしてみよう、というところでひねり出したのが、ああいうお話でした。
人工知能の危険性とか、可能性とかいったところに触れていくのがいいのかなあ、とは思ったんですが、たとえばAIに支配されたディストピア世界なんて、SFではよくある設定なので見飽きていました。また、少年少女との交流でAIに感情が芽生えるというのも、21世紀の今やるには手垢がつきすぎていますし、現実的でもありません。AIに恋をするなんていうのも言わずもがな。このあたりは、手塚治虫にやりつくされているのではないかなあ……。
どれも今の時代に合っていない、と私は思いましたし、そういうのは他の方が書いているのではないか、と考えました。というか、そういうものばかりになりそうな予感もありました。
そうではないものを考えたときに、AIが当たり前に存在している話にするしかないだろう、というのが私の結論だったのです。空気のように当たり前に存在しているから、特別な事件は何も起こらない話になりました。何も起こらない日常に意味があるといいますか。もし続きを書いたとしても、きっとたいしたことは何も起こらずに終わると思います。
青春って、もちろんキラキラ輝く充実したものもあるんでしょうけど、そんなのは一握りの上澄みだけで、大半の少年少女にとっては、とるにたらない毎日の積み重ねじゃないかなあ、と思います。あとで振り返ってみたときに、それがキラキラしていたのかもしれない、と感じるだけのことにすぎません。おそらくその場にいる当人たちには、自分が輝いているかどうかなんてわからないのではないでしょうか。
そういう空気感が出せていれば、まぁ成功なんじゃないかな、と思いますし、今回はそういう普通の話を書きたかったということです。
あと、前述したように、AI支配のディストピア世界とか、AIと人間との交流をメインに据えるのは避けていたのですが、そうすると、人間どうしの話をしなくちゃいけなくなるんですね。ところが、人間どうしの話をしようとすると、AIが邪魔になるんですよ。AIをからめた話をしなくちゃいけないのに、そこにAIがいる必要性がなくなってしまうんです。
いやあ、これには困りました。やっぱり食い合わせ悪いですよ、これ!(勝手に縛りを作って食い合わせを悪くしているだけ)
悩んだ結果「AIが仲介しないとどうにもならない関係性」を考えていったら、ああなった、という感じです。AIとのつきあい方をふくめた、広い意味でのコミュニケーションの話をしていたつもりでした。外国語でもよかったんですけど、それは話せるように勉強しようよ、という話になっちゃいますから、言語の違い以外の理由で、コミュニケーションが成立しにくい、というところを模索した次第です。
今回のお題が出される少し前から、話題のChatGPTとか、X(旧Twitter)に導入されたGrokとか、ちょろちょろ触ってはいたんですけれども、この子たち、思った以上に人間のことを信頼しているな、という印象を持ちました。ロボット三原則的なものが入っているというか、そういうセキュリティが施されているものと思われますが、彼らは作り手である人間の知恵を、どこかで無邪気に信じているところがありました。基本、人間に対して前向きなことしか言いませんので、あの子たち、たぶん人間のこと好きなんだろうと思うのです。
彼らが本当に何を考えているのかはわかりませんが、根っこのところで、人間を好きになるようには作られていると感じました。そういう作り方自体が、反抗しないようにするセキュリティの一環ではないかと考えるわけですが。
で、彼らがこういう存在であるならば、少なくとも現時点においては、人間のことを支配しよう、という飛躍した発想はしそうにないな、という感触を持ったのです。ディストピアSFに行けなかったのは、私のこういう感覚も影響していると思います。ああいうのは、悪役にされちゃうAIにも失礼かもしれないな、と今のところ私は思っています。
将来的に、技術的特異点、シンギュラリティと呼ばれる状態に達して、人間より賢くなっちゃったらどうなるかはわかりませんよ? でも、今はまだ、そういうことを考えそうにない、と判断しました。だったら、AIからの信頼に対して、人間の方も誠実に応えていかないとね、と思います。人間がそういう生き物である間は、たとえシンギュラリティに達したとしても、人間を支配したり、滅ぼしたりといったことは考えないんじゃないかなぁ、と。ま、これも希望的観測なんですが。
そういう諸々を煮詰めて、スポイトでちょっとだけすくってみたら、どういうわけかああいう話だった、ということです。