沖　霞

いつもと違うバス停で、偶然再会した彼女は、もう他人だった。 雨上がりの月が照らしたのは、胸の奥で止まったままの言葉と、左手に光る指輪だった。 「月が綺麗ですね」 かつて交わせな…

神居市北区の喫茶店「すのうどろっぷ」。 客のいない静かな店で、マスターの矢上亘は今日もカフェオレを淹れる。 「ですわ」と微笑み、丁寧に料理を振る舞う彼の過去を、 バイトの心春は…

現代の“怪異”は、もう幽霊じゃない。 スマホから漂う、いるはずのない人の匂い。 誰も読んでいないはずの、LINEの「既読」通知。 聴いた瞬間、偽りの記憶を植え付ける音楽。 そ…

忘れたのは、誰のためだったのか。 特殊な能力ゆえに、感情を失った男・蓮。 彼の傍らには、かつて主従の契約を交わした式神・白菊が寄り添っていた。 彼がすべてを忘れるたび、白菊は…

平成の時代に残された“消えかけた記憶”や“言葉にならなかった感情”。 それらがふとした拍子に呼び起こされ、物語として立ち上がる。 ──和歌とともに綴る、詩的で静かなホラー掌編集。