梅雨が明けたばかりの、とある晴れた日の午後。ナナはいつものように、窓から差し込む陽光を浴びながら、少しだけ憂鬱な気持ちでいた。というのも、ここ数日、どうにも洗濯物が乾かないのだ。部屋の隅には、除湿器が唸りを上げて頑張っているけれど、なんだか全体的に湿っぽい。
「うーん、このままだと、お気に入りのリネンワンピースも、タオルケットも、みんなカビちゃう!」
ナナは腕を組み、真剣な顔で空を見上げた。さっきまでザーザー降っていた雨は止み、雲間から太陽が顔を覗かせている。しかし、湿度はまだ高い。そうだ、こんな時は、あの「秘密兵器」の出番だわ!
ナナは立ち上がり、押し入れの奥から古びた段ボール箱を引っ張り出した。中には、色とりどりの布の切れ端、ビーズ、モール、そして何やら配線のようなものまでぎっしり詰まっている。その中から、とっておきの「レインボーソーラーパワージェネレーター(仮)」を取り出した。これは、昔、科学雑誌の付録と、手芸店で買った材料を組み合わせて作った、ナナの自信作である。
「よし、これで一気に乾かすわよ!」
ベランダに出て、洗濯物をぶら下げた物干し竿に、レインボーソーラーパワージェネレーター(仮)を慎重に取り付ける。見た目はカラフルな風車にソーラーパネルがいくつか付いているだけの、なんとも怪しげな装置だ。しかし、ナナの目には、これが強力な乾燥マシーンに見えている。
太陽の光を浴びると、小さなプロペラがゆっくりと回り始めた。そして、布製の羽が虹色に輝き出し、そこから微かな温風が洗濯物に向かって吹き付けてくる……はず、だった。
しかし、現実はそう甘くない。風車は回れども、肝心の温風はそよ風以下。むしろ、プロペラの回転で洗濯物が絡まりそうになる。
「あれ?おかしいな。計算では、この日差しならもう少し強力なはずなのに……」
ナナは首を傾げ、装置を叩いたり、太陽に向かって持ち上げてみたりと、あれこれ試してみる。すると、突然、装置から「パチッ!」という小さな音がして、プロペラの回転が止まってしまった。
「ああっ!まさかのショート!?」
がっくりと肩を落とすナナ。せっかくの「虹色作戦」は、無残にも失敗に終わったようだ。
その日の夕方。諦めて部屋干しに切り替えていたナナの元に、ご近所のおばあちゃんから差し入れが届いた。温かいお茶と、摘みたての新鮮な野菜だ。
「ナナちゃん、今日はお外でゴソゴソしてたね。何かあったのかい?」
「あ、おばあちゃん。実は洗濯物が乾かなくて、ちょっと変なものを試していたんです」
「あらあら、大丈夫かい?洗濯物なら、今夜は風があるから、屋根のあるところに干しておくといいよ。よく乾くから」
言われてみれば、確かに窓から涼しい風が入ってきている。ナナはすぐにベランダに出て、洗濯物を風通しの良い場所に干し直した。
翌朝。なんと、すべての洗濯物がふんわりと乾いていた!しかも、雨上がりの空気のおかげか、いつもよりパリッとしている気がする。
「まさか、温風装置より、自然の風の方が強力だったなんて……!」
ナナは両手を顔に当てて、少し恥ずかしそうに笑った。科学的な知見も大切だけど、時には昔ながらの知恵や、シンプルな方法が一番だったりする。そして、何より、心配してくれる人の温かい心に触れることが、一番の「近況」だと感じたナナであった。
壊れたレインボーソーラーパワージェネレーター(仮)は、今はナナの部屋の窓辺で、ただのカラフルな飾りとして太陽の光を浴びている。次は何を作ろうかな、と、ナナは早くも新しい「作戦」を練り始めているのだった。
