こんばんは。通院モグラです。
いつもノートや拙作に応援、コメントありがとうございます。
そして前回ノートに公開した、深夜ラジオっぽい会話劇にもたくさんご反応頂けてとても嬉しかったです〜!ありがとうございます…。
このノートは初回投稿から編集しております。文字数の上限に引っかかっていたのに後で気づきました…(笑)
それでは第2回目の深夜ラジオもどきも楽しんでいただけたら幸いです。
◤Eden/ラジオ編②
深夜の救難ゆる談義◢
第二夜「本名で呼ぶには、ちょっと遠い」
(SE:ジャンクなジングル。安い電子音の上を、遠くで回るローター音が薄く撫でていく)
ハンニバル「みなさんこんばんは。
時刻は深夜。コーヒーがただの黒い液体になり始める頃合いです。
眠気に負けた人から順に人類をやめていく時間帯に、今夜も機内からぬるっとお届けします。
『J-MET12プレゼンツ・深夜の救難ゆる談義』のお時間でーす」
(SE:小さめの拍手。ひとりだけ妙にやる気がある)
ハンニバル「お相手は、腹は開くが机の引き出しは開けたくない女、J-MET12主席医官ハンニバルです」
トリガー「机を開けると未処理書類が地層になっているからな」
ハンニバル「言い方が発掘現場なんよ。
そして今のが、人の発言に毎回ちょっとだけ毒を塗らないと死ぬのかもしれない、我らがJ-MET12指揮官、トリガー大佐です」
トリガー「今夜も番組の存在意義に疑問を持っている。トリガーだ」
ハンニバル「二回目でもなお懐疑派。
で、こちら。普段は静かなのに、いざ現場に出すと急に“制圧”の二文字が似合いすぎる男。私の専属護衛、エデンくんです」
エデン「……エデンです」
ハンニバル「よし、今日は人の声として届いた」
トリガー「基準が低い」
エデン「……前回、聞き返されたので」
ハンニバル「えらい。学習する元特殊兵。
さて今夜は、前回よりちょっと踏み込んだ質問に答えていきます。
“深夜に聞くには物騒すぎるけど、たしかに気になる”ってやつ。いきましょう」
(SE:紙を揃える音。ヘッドセットが軽く擦れる)
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■おたより①「コールサインって、なんで使うんですか?」
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ハンニバル「ラジオネーム、“点呼で毎回噛む人”さんから。
『皆さん、本名じゃなくてコールサインで呼び合ってるのはなんでですか?名前の由来も気になります』
いやー、来たね。深夜二回目にして個人情報への食いつきが強い」
トリガー「お前が“内部事情もどうぞ”みたいな空気を出すからだ」
ハンニバル「ラジオは距離を詰めてなんぼなの。
でも詰めすぎると軍法に触れるので、今日はその手前で止めます」
エデン「……止まるんですか」
ハンニバル「頑張る。努力目標。
で、まず“なんでコールサインなのか”。これは単純。敵勢力にも接触する可能性が高いからです。終わり」
トリガー「終わらせるな。
医療救難部隊は、味方の後方でだけ働くわけじゃない。敵支配地域、内戦区域、武装勢力の残存地帯、身元確認が曖昧な混成地域にも入る。こちらの所属、人員、素性がそのまま漏れるのは、単純に危険だ」
エデン「……回収した相手が、次に銃口を向けてくることもあります」
ハンニバル「あるんだよねえ。悲しいけど現実。
だから本名は、持ってる。もちろんある。戸籍の上にも、軍の台帳の上にもある。
でも、現場で呼ぶのは基本コールサイン。機密と距離感と、生存率のため」
トリガー「それに本名は、無駄に重い。現場で必要なのは、短く、聞き取りやすく、即応できる呼称だ」
ハンニバル「あとね、本名ってちょっと“中身”すぎるのよ。
患者の血まみれの中とか、敵味方ごちゃ混ぜの現場で、毎回そこを晒すのもしんどい。コールサインは、ある意味で防具」
エデン「……名前を、業務用に切り分ける感じです」
ハンニバル「そうそう。エデンくんがたまにこういう、静かにうまいこと言うんだよなあ」
トリガー「で、由来の話だな」
ハンニバル「そう。まず私。
ハンニバルは、まあ……大佐がつけた」
エデン「…そうだったんですか」
ハンニバル「そうだよ。“ハンニバル”ね。これ、古い映画のキャラ由来です」
エデン「……映画」
ハンニバル「そう。めちゃくちゃ古い。資料映像みたいな年代のやつ。で、その映画に、レクター博士っていう、まあ……強烈な人物が出てくるわけです」
エデン「……知らないです」
ハンニバル「ほら来た。世代差。
めちゃくちゃ有名な……えーと……上品で、頭よくて、ちょっと食事マナーが独特な先生」
トリガー「言い方がだいぶぼかしているな」
ハンニバル「深夜ラジオに向いた要約だよ。
とにかく古い映画なの。今の時代からすると、もう“歴史の授業でたまに名前だけ出る娯楽作品”くらい古い」
エデン「……知らなくて、普通ですか」
トリガー「普通だ。知らなくても問題ない」
ハンニバル「うん、エデンくんはそのへんの古典映画、ほぼ通ってないもんね」
エデン「……はい。映画を観る環境、なかったので」
ハンニバル「むしろこの大佐がなんでそこから引っ張ってきたのか、そっちの方が謎」
トリガー「別に謎でもない」
ハンニバル「いや謎だよ。私は気に入ってるよ? 語感いいし。強いし。覚えやすいし。ちょっと悪そうでよい。
でもなんでお前が私を見て、その名前を採用したのかは、いまだによく分かってない」
エデン「聞いてないんですか」
ハンニバル「聞いた。でも返ってきた答えが、“命を喰ってるように見える”とか、そんなのだった」
トリガー「事実を述べただけだ」
エデン「……でも、少佐には合ってる気がします」
ハンニバル「えっ、エデンくんまで?」
エデン「……音の感じが」
ハンニバル「音の感じで許された。よかった。
ほらね、もう浸透してるのよ。だからまあ、いいんだけど。
でも正直、私は今でも“なんでよりによってその古典映画から引いた?”って少し思ってる」
トリガー「お前に“ジヴァゴ”や“キルデア”とつける方が不自然だ」
ハンニバル「急に古典映画の医者を二連打するな。教養で殴るタイプの嫌味やめろ」
エデン「……すみません。どっちも、分かりません」
ハンニバル「ほら見ろ。エデンくん置いてけぼりじゃん。世代差で会話を轢き逃げするな」
トリガー「お前に現代的な軽い名は似合わん。ハンニバルで十分だ」
ハンニバル「言い方がずっと失礼なんだよなあ。
で、次。エデンくん。この子の名前は、私がつけました」
エデン「……はい」
トリガー「こっちはお前が名付け親だな」
ハンニバル「そう。責任重大。
この子、最初から“エデン”だったわけじゃないからね。番号みたいな扱いで、もっと業務的で、もっと雑で、もっと人間味のない呼ばれ方をしてた」
エデン「……名前、ではなかったです」
ハンニバル「だから、トリガーが拾ってきた後、私に命名権寄越したんだよね。
人に名前つけるのって、かなり勝手な行為だけど、でも“お前は人だぞ”って言うことでもあるじゃん」
エデン「…………」
ハンニバル「なんで“エデン”かって?それはまあ、いろいろあるんだけど――」
トリガー「お前、今ちょっと格好つけようとしたな」
ハンニバル「うるさいな。たまにはいいでしょ。
だってこの子、全然楽園みたいな場所で生きてきてないのに、それでもまだ生きてるし。ならせめて、名前くらいは、人間が触れていいものにしたかったの」
エデン「……少佐が、そう呼んだので」
ハンニバル「うん」
エデン「……それで、いいと思いました」
ハンニバル「はい本日ここ、ちょっといい場面です」
トリガー「自分で言うな。台無しだ」
ハンニバル「でもラジオだから補足必要でしょ。
エデンくんって普段あんまり感情を大声で置いていかないから、今の“それでいいと思いました”は、かなり高カロリーです」
エデン「そんなこと、解説しなくていいです」
ハンニバル「照れた。かわいい」
エデン「…………」
トリガー「また停止したぞ」
ハンニバル「CPUは熱に弱いんだよ。
で、問題はこっち。トリガー大佐。私たちも由来を細かく聞いたことがない」
エデン「……呼ばれているのが自然すぎて」
ハンニバル「そうなの。今さら“で、なんでトリガーなんですか?”って聞くのも、なんか地雷踏みそう」
(SE:一瞬、妙に静かになる)
トリガー「……聞くのか」
ハンニバル「え?」
エデン「……話すんですか」
ハンニバル「ちょっと待って。今の“聞くのか”って何。
え、話してくれる流れ?本当に?
えっ、あの、こっちはいつものように“機密だ”って切られる前提で軽く投げたんだけど」
エデン「……俺も、断られると思ってました」
ハンニバル「ね!?
ちょっと待ってちょっと待って、急に本編来た。
え、いいの? 収録続ける? 私、今、心の中でスタッフに“回せ回せ回せ!”って言ってる」
トリガー「スタッフはいない」
ハンニバル「気持ちの問題だよ!
やばい、ちょっと待って、チョコ食べる。心を整える」
トリガー「大げさだな。
…戦闘機乗りだった頃の話になるが。今の航空戦は、数世紀前のような格闘戦が主流ではない。無人機による長距離探知、長距離誘導、長距離ミサイル。極端に言えば、“先にスイッチを押した方が勝つ”時代だ」
ハンニバル「うんうん。ここまでは授業。知ってる」
トリガー「近づいて機関銃を使うような戦い方は、もはや古い。機体に搭載されていても、儀礼的に残っている装備だと思っている者も多い」
エデン「普通は、そうです」
ハンニバル「うん。合理の時代。で?」
トリガー「だが、俺はそこにドッグファイトで殴り込んだ」
ハンニバル「はい?」
トリガー「回避して、潜って、食らいついて、格闘戦に持ち込んで、最後は機関銃で落とした。
もう誰も引かないはずの機関銃のトリガーを引き続けた。それでついた」
ハンニバル「…………」
エデン「…………」
ハンニバル「いや、待って。
教えてくれたのはありがたいんだけど、思ってたより三倍怖いな?」
エデン「……かなり、怖いです」
ハンニバル「“古い戦い方を貫いた不器用なエース”みたいな綺麗な話じゃなかった。完全に近づいて殴るための人だこれ」
トリガー「遠距離で追い返すだけでは足りなかったからな」
ハンニバル「足りなかった?」
トリガー「徹底的に殴り殺して、二度と空に侵犯させないためだ」
ハンニバル「うわ」
エデン「……」
ハンニバル「……空で煽り運転するなや」
エデン「……同感です」
ハンニバル「いやだって何、その思想。抑止力の解像度が高すぎるでしょ。普通“撃退”で止まるのよ。なんで“教育的粉砕”まで行くの!?」
トリガー「二度目を起こさせない方が、結果として被害が少ない」
ハンニバル「理屈は分かるのが最悪なんだよ。
うわあ。いま聞いてるリスナー、全員“あ、やっぱりこの指揮官だいぶおかしいな”ってなってる」
エデン「……前から、そうだと思います」
トリガー「お前まで言うのか」
ハンニバル「でも、ちゃんと教えてくれると思ってなかった。もっとこう、“気づいたらそう呼ばれていた”みたいな、ふわっとしたやつかと」
トリガー「気づいたら周囲が勝手に呼んでいたのは事実だが、その理由が今話した内容だ」
ハンニバル「最悪の補足きた。しかもあれでしょ。周囲、たぶん尊敬半分、ドン引き半分だったでしょ」
トリガー「期待を裏切れて何よりだ」
ハンニバル「そこを満足げに言うな。
というわけでみなさん、コールサインは安全と機密と距離感のため。
そしてトリガー大佐の由来は、思った以上に空の治安を自力で悪化させながら守っていた結果でした」
トリガー「言い方を直せ」
ハンニバル「間違ってない。寝る前に知るにはちょっと重いけど」
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■おたより②「医療部隊なのに、指揮官が医官じゃないのって普通なんですか?」
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(SE:紙をめくる音。遠くで誰かが缶コーヒーを置く小さな音)
ハンニバル「続いて、ラジオネーム“夜勤明けのブラックコーヒー”さん。
『J-MET12って医療部隊なのに、指揮官が医官じゃないんですね。普通なんですか?』
はい、来ました。たしかに気になる」
トリガー「一般論から言えば、珍しくはあるが、絶対にないわけでもない」
ハンニバル「そうそう。これね、運用の形による。
たとえば後方病院とか、固定施設として回ってる大きな医療機関だと、医官がそのままトップ、つまり病院長みたいな立場にいることも普通にある。
だって主業務が医療そのものだし、診療科の統括、人員配置、医療安全、設備運用、ぜんぶ医学の理解がど真ん中に要るから」
トリガー「病院は“治療の場”としての管理が主になる。そこでは医官が指揮権を持つことに合理性がある」
エデン「……でも、J-MET12は病院じゃない」
ハンニバル「そう。うちは“飛ぶ”。“拾う”。“抜ける”。
戦域に入って、着陸地点を選んで、空域を見て、脅威を避けて、ときどき脅威の方を黙らせて、患者を連れ帰る。
医療だけで回ってる部隊じゃなくて、搬送と戦術と安全確保が最初から一体」
トリガー「だから指揮官に求められる能力も、純粋な医療判断だけでは足りない。
空間把握、機動判断、作戦運用、交戦回避、現場全体の統制。そういう領域が前に出る」
ハンニバル「とはいえね、医官も別に“医療しか知りませーん”で終わりじゃありません。ちゃんと戦術教育も受けます」
エデン「……受けるんですか」
ハンニバル「受けるんだよ。
しかも普通なら一年くらいかけるような部隊指揮の課程を、二ヶ月で詰め込まれる」
エデン「……雑」
トリガー「信頼とも言う」
ハンニバル「謎のね。
“医官は学習能力高いから、まあなんとかなるだろ”という、軍特有の雑で豪快な信頼によって」
エデン「……だいぶ乱暴です」
ハンニバル「乱暴だよ。機材には丁寧なのに、人材育成には乱暴なんだよ軍は。
“はい、今日からあなたも戦術を理解してください。期限は来月です”とか平気で言う」
トリガー「実際、卒業はするだろう」
ハンニバル「するけどさあ。
でも正直、医官側の本音を言うとね。元々、医者やりたくて軍医学校入ってる人間が多いのよ」
トリガー「当たり前だな」
ハンニバル「そう。“よーし長い作戦会議と細かい積算と根回しが好きだから軍医になろう!”って人、かなり少数。希少種。大抵は“人を助けたい”“現場で手を動かしたい”“患者を診たい”。そういう人」
エデン「……特に救急医は」
ハンニバル「はい。せっかちです。ものすごく。
救急医って、目の前で患者が悪くなるのを見る仕事だから、“結論まだ?”、“今なにする?”、“その前置きいる?”って脳になる。だから軍にありがちな長い作戦会議とか、細かい計算とか、根回し込みの調整とか、マジで性に合わない」
トリガー「お前は会議開始十分で死んだ魚の目になるな」
ハンニバル「だって長いんだもん!作戦資料ってなんで結論が百五十ページ目にいるの!?迷子なの!? 誰か呼んで!?」
トリガー「だからお前を会議に長時間置きたくない」
ハンニバル「配慮みたいに言うな。
でもほんと、作戦会議とか損耗計算とか、軍にありがちな長いやつ、医官全員が好きかって言うと全然そんなことない。向き不向きある」
トリガー「だから、部隊によっては医官が上に立つし、別の部隊では戦術畑の人間が上に立つ。J-MET12は後者だ」
ハンニバル「ただし。元パイロットが医療部隊の指揮官で、しかも自分でヘリ飛ばしながら全体指揮してるのは、普通に見ればかなり変」
エデン「……だいぶ」
ハンニバル「文章にするといよいよおかしいよね。
“この部隊のトップは、元戦闘機乗りで、いまはヘリを飛ばしながら医療班を前線へ出し入れしています”って。何その盛りすぎ設定」
トリガー「現実はいつも設定より雑だ」
ハンニバル「うわ、嫌な名言。
でもまあ結論としては、医療部隊だから必ず医官がトップとは限らない。固定施設なら医官トップも普通。うちみたいな“飛んで拾って戻る”部隊なら、戦術側の指揮官が上でも理屈は通る。
ただしその場合でも、主席医官と噛み合わなかったら終わる」
トリガー「そこが次の話だな」
―――――――――――
■おたより③「指揮官と主席医官って、どっちが強いんですか?」
―――――――――――
(SE:少し間。誰かが喉を鳴らして笑いを堪える気配)
ハンニバル「ラジオネーム“板挟みで胃が終わる”さんから。
『通常、指揮官と主席医官ってどっちが強いんですか? トリガー大佐とハンニバル少佐は、揉めたりしますか?』
来たねえ。みんな好きだねえ、力関係」
トリガー「他人の上下関係は娯楽だからな」
エデン「……見ていて分かりやすいので」
ハンニバル「冷静な分析。
じゃ一般論から。
組織上は当然、部隊指揮官が上。命令権も責任も、全体の判断もそっち」
トリガー「部隊の移動、任務継続、撤収、危険受容の範囲、その責任は指揮官が負う」
ハンニバル「でも患者の処置内容、搬送可否、今何を優先するか、どこまで侵襲を許すか、そういう“命の中身”は主席医官の発言力が強い」
エデン「……素人が口を出すと、患者が迷惑です」
ハンニバル「言い方ァ。
でもそう。“どっちが偉いか”というより、“どの領域で逆らうと事故るか”の違い」
トリガー「まともな部隊なら、そこは住み分ける」
ハンニバル「で、J-MET12。うちはその境界が異様に近い。
上からこの人が“あと十二秒だ、それ以上は降ろせない”って言ってくる。
下で私は“黙って十五秒延ばせ、この患者は今ここで気道取る”って言う」
トリガー「三秒増えている」
ハンニバル「命の現場は盛るんだよ。
で、エデンくんが無言で押さえて、運んで、通路を開けて、気づいたら成立してる」
エデン「……はい」
ハンニバル「これ、普通はもっと揉めてもおかしくないのよ。
指揮官側が“危険だから下がれ”で押し切ることもあるし、医官側が“患者優先だ”で現場を止めることもある。どっちも間違いじゃないから余計に厄介」
トリガー「だが、うちは比較的それが維持されている」
ハンニバル「なんでか。
これね、私けっこう大きいと思ってるんだけど――この人、元パイロットだから」
エデン「……判断速度」
ハンニバル「そう。
パイロット、特にこの人みたいなのって、即応単独判断に慣れすぎてるのよ。空でいちいち“では会議を始めます”なんてやってたら墜ちるから」
トリガー「状況認識、優先順位の再計算、単独決断、その繰り返しだ」
ハンニバル「で、それがね、医官の判断速度とちょっと似てる。
患者が目の前で崩れてる時、こっちも会議してる暇なんかない。“今切る”“今押す”“今入れる”“今下げる”を、その場で決める」
エデン「遅いと死ぬ」
ハンニバル「そう。
だからこの人、医療判断の中身はしないけど、“その速度で決めなきゃいけない状況”自体は理解できる。そこがでかい」
トリガー「お前の判断が粗いのではなく、必要な速度で回っているだけだと分かる」
ハンニバル「今ちょっと褒めた?」
トリガー「事実確認だ」
ハンニバル「かわいくないなあ。
でも逆に私の方も、この人の“今この高度でこの風ならこれ以上は無理”“ここで旋回すると全員死ぬ”みたいな即断を、感覚ではなく職能として理解してる」
エデン「……二人とも、“早く決めるしかない仕事”をしてきた」
ハンニバル「そうなのよ。そこ。今日の核心。
だから普通より衝突が少ないわけじゃない。むしろ口は悪いし、言い方も最悪だし、揉める時は揉める」
トリガー「お前が無駄に煽るからな」
ハンニバル「そっちもだよ。
でも、“相手が考えなしに急いでるわけじゃない”って分かってる。速く決めること自体に信頼がある。そこが維持できてる理由だと思う」
トリガー「妥当だ」
ハンニバル「うわ、珍しく同意が早い」
トリガー「空で生き残る判断速度と、前線医療で命を繋ぐ判断速度は、方向は違っても性質が近い。
長考して精度を上げる仕事ではなく、短時間で最適解に近づける仕事だ」
エデン「……だから、会話も短い」
ハンニバル「そう。うち、会話が短い。
普通の部隊なら“少々お待ちを”“確認します”“検討します”って挟むところを、うちは“無理”“いける”“あと十秒”“黙って運べ”で終わる」
トリガー「効率的だ」
ハンニバル「効率的だけど人情は薄い」
トリガー「お前が濃すぎるだけだ」
ハンニバル「はいはい。
だから力関係を雑に言うと、
階級と全体運用はトリガーが上。患者の命の中身は私が強い。
でもその二つがぶつからず回ってるのは、どっちも“遅れたら終わる現場”の人間だから。こんな感じかな」
エデン「……はい。かなり、そうです」
ハンニバル「あともう一個、普通と違うところ言っていい?」
トリガー「ろくなことを言わない顔だな」
ハンニバル「この人、私にわりと好き放題やらせる」
トリガー「好き放題ではない。必要な範囲だ」
ハンニバル「便利な言葉だねえ、“必要な範囲”。
でもほんと、私が止まらない前提で場を整えるのよ、この人」
トリガー「止まらないものを止めようとすると余計に面倒だからな」
ハンニバル「うわ、飼育員のコメント」
エデン「……否定しにくいです」
ハンニバル「護衛に裏切られた。
でも逆に私も、この人の“ここまでなら落ちない”って判断は信用してる。腹立つけど」
トリガー「毎回一言多い」
ハンニバル「悔しいからね。
でも結局、二人とも相手の“速く決める能力”だけは疑ってない。そこは大きいと思う」
エデン「……だから、揉めても壊れない」
ハンニバル「出た。静かな総括。今日いちばん綺麗」
トリガー「珍しく番組が番組らしく締まりそうだな」
(SE:紙を机に置く音。ローター音が少しだけ深くなる)
ハンニバル「というわけで今夜は、
“なんでコールサインなのか”
“医療部隊なのに医官じゃない指揮官って普通なのか”
“なんでこの指揮官と主席医官の関係が成立してるのか”
このへんを、いつもよりちょっと踏み込んでお届けしました」
トリガー「思ったよりまともな内容だったな」
ハンニバル「でしょ。深夜番組なのに賢くなっちゃったね」
エデン「……その代わり、指揮官の由来が怖いことも分かりました」
ハンニバル「ほんとそれ。
全国のリスナーが今、“空で煽り運転するな”を心の標語にしたところです」
トリガー「誤解だ」
ハンニバル「いや、今日の話を聞いて誤解って言い張るの無理あるのよ。
さて次回があれば、今度こそゆるい話もしたいですね。アンケート企画とか、おもしろくない?“J-MET12で一番怖いのは誰か”とか」
エデン「……荒れませんか」
ハンニバル「やっぱ荒れるよねー」
トリガー「集計方法によっては内紛になる」
ハンニバル「嫌な部隊だなあ。
それじゃ今夜はこのへんで。
起きて働いてる人は、どうか判断力を落とさずに。
寝られる人は、寝られるうちに寝てください。深夜は平等に人を削るので」
トリガー「空はまだ静かだ。今夜はそのままでいてほしいものだな」
エデン「……次も、静かな回だと助かります」
ハンニバル「ほんとそれ。
それでは今夜はこのへんで。
ナイトフォールの片隅から、ハンニバルと」
トリガー「トリガーと」
エデン「……エデンでした」
ハンニバル「また次の深夜に。生きてたら、聞いてねー」
(SE:チープなエンディングジングル。途中で無線の砂嵐に食われ、最後に短いビープ音で切れる)